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危険な扉を開いてしまった自覚はあった。
後悔も恐怖も捨てきれないまま、それでも体を動かすことが止められないのはどうしてだろうか。
広い学園を無心で歩き、鏡舎から深海へ続く鏡を抜ける。
寮の入口を開いてすぐ。談話室のソファに座るふたつの影が自分を見つけて空気を揺らした。
「あ~小エビちゃんだぁ」「こんばんは」
同時に掛けられた声に身が竦む。
向けられているのは笑顔なのに、視線だけは獲物を見つけた捕食者のそれだったから。
――今なら、まだ……。
半開きの扉を横目で見遣りぐるぐると思考する。
あと一歩。たった一歩。
進むか、戻るか。
沈むか、否か。
「監督生」
名を呼ばれ、ヒッと小さく声が漏れた。
恐る恐る向けた視線の先。ソファに座ったままのよく似た顔が、同時に手を差し出して、
『おいで』
あっ……と吐息に似た声が漏れ、自然と足が前に進んだ。
ふわふわと波間を漂うように、両手でそれぞれの手を握る。
やはり同時に手を引かれ、噛み付くような口付けが左右の手首に落とされた。
『捕まえた』
そう言ったのはどちらだったか。
どこか遠い感覚の中、背後で閉まった扉の音がもう戻れない事だけを告げていた。
[2020/04/21] thx.シュレディンガーの子猫
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