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病弱

(薬さに寄り愛され)


 ぱちりと目が開き、最初に見えたのはいつも通りの天井だった。月明かりでぼんやりと見える見慣れた木目。そのまま首だけを横に倒すと、障子戸の向こう側に不寝番をしてくれているらしい近侍の小柄な影が浮かび上がっていた。
――今、何時だろう。
 枕元に腕を伸ばして時計を取る。薄闇の中、本丸へ来る前から愛用しているそれに目を凝らすと針は既に子の刻を回った後だった。
――…日付、変わっちゃった。
 途端、喪失感にも似た感情に胸が締め付けられ、伸ばしていた手の甲をぎゅっと目元へ押し当てる、と。
「起きたかい、大将」
 静寂に響いた近侍の声に審神者の体がびくりと跳ねる。何故か叱られた子供のような気分で小さく近侍の名を口にすれば、彼――薬研藤四郎は、障子越しでも笑っているのだと分かる声色で「気分はどうだい?」と問い掛けてきた。
「今は、平気」
「そいつはよかった。熱は出ていなかったから、もう大丈夫だな」
「…うん」
 実際、体はもう何ともないのだが。今の審神者には、それがかえって辛い状況となってしまっていた。そして薬研もそれに気付いたのだろう。コツコツと床板を叩いて主の気を引くと、無言のままスッと彼女の足元を指で指す。起き上がり、示されるがままそちらへ視線を向けた審神者は何度か目を瞬かせた後、思わず漏れそうになった声を両手のひらで何とか受け止めた。
 審神者の眼前にあったのは色取り取りの飾り付けがされた笹。それは審神者が倒れる前、本丸の皆で七夕祭りをするために用意したものだ。ちょっとした宴となったそれに、はしゃぎ過ぎた審神者は途中で具合を悪くしてしまったのだが。気をきかせた刀剣達が主を起こさぬようにこっそりと部屋へ運び入れたらしい。
「短冊、読んでみろよ大将」
 どこか楽しそうにそう言われ、笹に近寄った審神者はまたもや口元を押さえることとなる。
『主が早くよくなりますように』
 それぞれ言い回しは異なるものの、ほぼ全ての短冊にそんな文字が書かれていた。涙で滲む目を伏せて、「ありがとう…」と呟けば、薬研の影が代表して「おう」と返事をしてくれる。
 早く朝になればいい。そして皆に教えてあげよう。「皆の願いは叶ったよ」と。力いっぱい、抱きしめてあげながら。



[ 2015/07/08 ] title.サンタナインの街角で
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