SS集 ―ONE PIECE―
旅路の途中で辿り着いた小さな町。
丘の上には教会が建ち、人気はなく閑静としている。
シャチとペンギンに押されて教会にやってきたローは、奥の聖壇の前に立ち、色彩鮮やかなステンドグラスを見上げていた。
彼らからは「ここで待っていたら、いいことが起こるかもしれないですよ!」と言い残され、そそくさと逃げられてしまった。
一体何を企んでいるのか容量も得ず、わけもわからないまま待ちぼうけの状態だ。
もう使われていないのか人は来ないし、並べられた木製のベンチにはうっすら埃だって被っている。
外壁は蔦が巻きついてもいたので、しばらく整備も行き渡らず放置されているのだろう。
古びてはいるが、外から差し込む光はステンドグラスを神々しく照らし、真新しい装飾のように煌めいていた。
美しい女性の形を象ったステンドグラスに魅入っていると、教会の扉が音を立てて開いた。
「あれ……ロー?」
光に包まれて現れたのはクルーの一人。
仲間として、一人の女性として、大切にしたいと思っている人物。
「なんでお前が。ていうか、なんだその格好」
彼女はいつものツナギ服でなく、純白のワンピース姿だった。
肩を大きく露出し、裾の広がったレース状のスカートが足を踏み出すたびにふわりと揺れる。
ツナギ服に見慣れているせいか彼女の格好には驚きを隠せなかった。
「シャチとペンギンが、たまには女の子らしくこれを着ろって。で、教会があるから見に行ってみろって言われて来たんだけど」
どうやら彼女もあの二人に誘導されてきたようだ。
彼女はまっすぐと聖壇に歩みながら照れ臭そうにはにかんだ。
ヒールのパンプスを履いていて、転ばないように意識しているからか緩慢な動きだった。
ゆっくりと近づいてくる様子を見守るその状況は、まるで……。
「ああ、なるほどな」
「なるほどって、何が?」
「いや、別に。そろそろ覚悟決めろって催促だ。多分な」
隣までやってきた彼女に、ローは納得した表情を向ける。
シャチとペンギンの思惑を理解し、余計なお世話だと小さく舌打ちした。
彼女はまだ飲み込めていないのか首を傾げるだけだった。
「わあ、綺麗……」
彼女は正面に広がるステンドグラスを見上げ、あんぐりと口を開けた。
瞳は七色の輝きを吸収して煌めき、光彩を浴びた純白のワンピースはステンドグラスと同じ模様を浮かび上がらせていた。
「お前も綺麗だぞ」
飾り気もなく、素直にそう言葉にした。
この状況下にふさわしいもっとキザな言葉はなかったのかと心の中で自問自答したが、そんなのはらしくないのはきっと彼女もわかっている。
彼女はみるみるうちに顔を赤くし、熟した林檎を想起させた。
「え!? あ、あ、ありが、と……あと、なんだか、あれだね。ここ教会だし、なんか、さ」
彼女の歯切れは悪く、顔を俯けてもじもじしている。
落ち着きをなくしていく様子から、この状況と似たシチュエーションを思い浮かべているのだと容易に推し量ることができた。
「何が言いたい?」
「あーうーえーっと……わ、わからない?」
とぼけて聞いてみると、彼女は自ら口にするのも恥ずかしいのか答えをローに委ねてくる。
こいつ、こんなに可愛かったか?と思わず口を滑らせそうになるが喉のところで留まらせ、押し込んだ。
「今は、やめておく」
そう返すと、彼女は疑問を浮かべるように目を丸くした。
「今度はここより綺麗なちゃんとした場所で、ちゃんとしたドレスコードをして、ちゃんとした言葉も贈る」
その時のために、言いたいことはとっておく。
未来のことを堂々と宣言しておいてなんだか面映ゆいが、ここで目を逸らしたらそれこそ決まりが悪い。
男としてのケジメをつけるように、ローは彼女の目をじっと見つめた。
「その方がいいだろ」
「あ、え、えーと……はい」
目を泳がせていた彼女だが、最後にはこくりと強く頷いた。
ローはその思いを汲み取り、くるりと踵を返す。
「行くぞ」
彼女の手を取り、ローの腕を掴むように誘導する。
腕を組みながら中央の道を進むその様子は、はたから見たら二人の門出のようで。
参列者は誰一人としていなかったが、二人の間に流れる温かな風を、ステンドグラスに映る女神だけが優しく見守っていたのだった。
...Fin
丘の上には教会が建ち、人気はなく閑静としている。
シャチとペンギンに押されて教会にやってきたローは、奥の聖壇の前に立ち、色彩鮮やかなステンドグラスを見上げていた。
彼らからは「ここで待っていたら、いいことが起こるかもしれないですよ!」と言い残され、そそくさと逃げられてしまった。
一体何を企んでいるのか容量も得ず、わけもわからないまま待ちぼうけの状態だ。
もう使われていないのか人は来ないし、並べられた木製のベンチにはうっすら埃だって被っている。
外壁は蔦が巻きついてもいたので、しばらく整備も行き渡らず放置されているのだろう。
古びてはいるが、外から差し込む光はステンドグラスを神々しく照らし、真新しい装飾のように煌めいていた。
美しい女性の形を象ったステンドグラスに魅入っていると、教会の扉が音を立てて開いた。
「あれ……ロー?」
光に包まれて現れたのはクルーの一人。
仲間として、一人の女性として、大切にしたいと思っている人物。
「なんでお前が。ていうか、なんだその格好」
彼女はいつものツナギ服でなく、純白のワンピース姿だった。
肩を大きく露出し、裾の広がったレース状のスカートが足を踏み出すたびにふわりと揺れる。
ツナギ服に見慣れているせいか彼女の格好には驚きを隠せなかった。
「シャチとペンギンが、たまには女の子らしくこれを着ろって。で、教会があるから見に行ってみろって言われて来たんだけど」
どうやら彼女もあの二人に誘導されてきたようだ。
彼女はまっすぐと聖壇に歩みながら照れ臭そうにはにかんだ。
ヒールのパンプスを履いていて、転ばないように意識しているからか緩慢な動きだった。
ゆっくりと近づいてくる様子を見守るその状況は、まるで……。
「ああ、なるほどな」
「なるほどって、何が?」
「いや、別に。そろそろ覚悟決めろって催促だ。多分な」
隣までやってきた彼女に、ローは納得した表情を向ける。
シャチとペンギンの思惑を理解し、余計なお世話だと小さく舌打ちした。
彼女はまだ飲み込めていないのか首を傾げるだけだった。
「わあ、綺麗……」
彼女は正面に広がるステンドグラスを見上げ、あんぐりと口を開けた。
瞳は七色の輝きを吸収して煌めき、光彩を浴びた純白のワンピースはステンドグラスと同じ模様を浮かび上がらせていた。
「お前も綺麗だぞ」
飾り気もなく、素直にそう言葉にした。
この状況下にふさわしいもっとキザな言葉はなかったのかと心の中で自問自答したが、そんなのはらしくないのはきっと彼女もわかっている。
彼女はみるみるうちに顔を赤くし、熟した林檎を想起させた。
「え!? あ、あ、ありが、と……あと、なんだか、あれだね。ここ教会だし、なんか、さ」
彼女の歯切れは悪く、顔を俯けてもじもじしている。
落ち着きをなくしていく様子から、この状況と似たシチュエーションを思い浮かべているのだと容易に推し量ることができた。
「何が言いたい?」
「あーうーえーっと……わ、わからない?」
とぼけて聞いてみると、彼女は自ら口にするのも恥ずかしいのか答えをローに委ねてくる。
こいつ、こんなに可愛かったか?と思わず口を滑らせそうになるが喉のところで留まらせ、押し込んだ。
「今は、やめておく」
そう返すと、彼女は疑問を浮かべるように目を丸くした。
「今度はここより綺麗なちゃんとした場所で、ちゃんとしたドレスコードをして、ちゃんとした言葉も贈る」
その時のために、言いたいことはとっておく。
未来のことを堂々と宣言しておいてなんだか面映ゆいが、ここで目を逸らしたらそれこそ決まりが悪い。
男としてのケジメをつけるように、ローは彼女の目をじっと見つめた。
「その方がいいだろ」
「あ、え、えーと……はい」
目を泳がせていた彼女だが、最後にはこくりと強く頷いた。
ローはその思いを汲み取り、くるりと踵を返す。
「行くぞ」
彼女の手を取り、ローの腕を掴むように誘導する。
腕を組みながら中央の道を進むその様子は、はたから見たら二人の門出のようで。
参列者は誰一人としていなかったが、二人の間に流れる温かな風を、ステンドグラスに映る女神だけが優しく見守っていたのだった。
...Fin
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