SS集 ―ONE PIECE―
しまった。
そう焦燥の色に染まる彼女が見たもの。
それは、甲板に寝そべるベポの腹を、都合のいい枕代わりにして昼寝を決め込むローの姿。
よく見る光景だ、別段そこに驚きはない。
問題なのは彼が居眠りをしている隙に、クルーが順番に彼の周りに大小様々な箱を積み重ね、花束をそっと添えていき、シロツメクサの冠を帽子の上から乗せるなど、デコレーションをしていることだ。
サプライズのつもりか、誰かが一つのプレゼントをローの傍に置いたのをきっかけにしてコソコソと執り行われ、ローもベポも起きる気配はないままプレゼントの山に囲まれていく。
「キャプテン全然起きねェな」とクスクスと笑いを堪えながらローのズボンのポケットにもプレゼントを詰め込むクルーの姿もある中、そんな光景を後ろで見ていた彼女は一人焦る。
プレゼントを、用意し忘れていたのだ。
今日がローの誕生日であるのを忘却し、それを思い出した時にはローの周りはクリスマスツリーの装飾並みに豪華な彩りでおめかしされていた。
飾り付けを終えたクルーが「起きた時の反応が楽しみだな」と言いながらはけていき、最後になった彼女は手ぶらのままローの前にしゃがんだ。
「これで許してください、キャプテン」
ローの頬に、音も立てずにキスをする。
顔を離した後で見てもローは目を瞑ったままだった。
相手が寝ているのをいいことに、やらかしてしまった。
途端に羞恥心に襲われた彼女はそそくさとその場から逃げ出した。
ローとベポが目覚めたのはそれから間もなくのことだった。
大量のプレゼントにベポは自分のことでもないのに驚きながら喜び、対してローはいつも通りのスカした顔を崩さなかった。
起きたら食堂に来るように、とクルーが用意した書き置きの通り、ローとベポはプレゼントを両手で抱えながら食堂へとやってきた。
待ち構えていたクルー達に姿を見せた瞬間、パンッ、パンッ、とクラッカーの弾けた音が鳴り渡り、一人が「よっ。人気者っ」とはやし立てた。
ローは音に驚く様子もなくプレゼントを机に置いた。
「はあ。なんで貰う側が貰ったもんを運ばなきゃならねェんだ」
「まーまー。驚いたでしょう?」
「少しだけな」
ローは溜息をつきながら冠やら今日の主役と書かれた襷やらを一つずつ外していった。
「ったく……誰だよ、石なんか入れやがったヤツは」
ズボンに入れられた丸石を見つけ、眉を顰める。
大切に育ててくださいなどと石に張り紙がされているあたりペットロックのつもりなのだろうが、本人にはウケが悪い。
偶然ローの近くに座っていた彼女に、お前か、と言いたそうな目を向けられる。
「私じゃないですよ」
「知ってる」
先に否定をしておくが、あっさりとそう返される。
石を入れた犯人に心当たりがあるのかと思ったが、そうではなかった。
ローは彼女を見つめたまま、自身の頬をちょんちょんと指さした。
彼女はその動作を見て呆然と口を開けていた。
「……え?」
「おれは眠りは浅い方なんだ。知らなかったか?」
その言葉の意味を知った彼女は顔を青ざめ、赤らめ、なんとも言えない表情を繰り返した。
周りのクルーは「え、なになに? どういうこと?」と二人を交互に見つめるが、不敵な笑みを浮かべるローと、感情がパンクして頭を抱えている彼女の後頭部しか映らなかった。
「次は起きてる時でいいからな」
この時ローは、今日一番の活き活きした顔を初めて見せたのだった。
...Fin
そう焦燥の色に染まる彼女が見たもの。
それは、甲板に寝そべるベポの腹を、都合のいい枕代わりにして昼寝を決め込むローの姿。
よく見る光景だ、別段そこに驚きはない。
問題なのは彼が居眠りをしている隙に、クルーが順番に彼の周りに大小様々な箱を積み重ね、花束をそっと添えていき、シロツメクサの冠を帽子の上から乗せるなど、デコレーションをしていることだ。
サプライズのつもりか、誰かが一つのプレゼントをローの傍に置いたのをきっかけにしてコソコソと執り行われ、ローもベポも起きる気配はないままプレゼントの山に囲まれていく。
「キャプテン全然起きねェな」とクスクスと笑いを堪えながらローのズボンのポケットにもプレゼントを詰め込むクルーの姿もある中、そんな光景を後ろで見ていた彼女は一人焦る。
プレゼントを、用意し忘れていたのだ。
今日がローの誕生日であるのを忘却し、それを思い出した時にはローの周りはクリスマスツリーの装飾並みに豪華な彩りでおめかしされていた。
飾り付けを終えたクルーが「起きた時の反応が楽しみだな」と言いながらはけていき、最後になった彼女は手ぶらのままローの前にしゃがんだ。
「これで許してください、キャプテン」
ローの頬に、音も立てずにキスをする。
顔を離した後で見てもローは目を瞑ったままだった。
相手が寝ているのをいいことに、やらかしてしまった。
途端に羞恥心に襲われた彼女はそそくさとその場から逃げ出した。
ローとベポが目覚めたのはそれから間もなくのことだった。
大量のプレゼントにベポは自分のことでもないのに驚きながら喜び、対してローはいつも通りのスカした顔を崩さなかった。
起きたら食堂に来るように、とクルーが用意した書き置きの通り、ローとベポはプレゼントを両手で抱えながら食堂へとやってきた。
待ち構えていたクルー達に姿を見せた瞬間、パンッ、パンッ、とクラッカーの弾けた音が鳴り渡り、一人が「よっ。人気者っ」とはやし立てた。
ローは音に驚く様子もなくプレゼントを机に置いた。
「はあ。なんで貰う側が貰ったもんを運ばなきゃならねェんだ」
「まーまー。驚いたでしょう?」
「少しだけな」
ローは溜息をつきながら冠やら今日の主役と書かれた襷やらを一つずつ外していった。
「ったく……誰だよ、石なんか入れやがったヤツは」
ズボンに入れられた丸石を見つけ、眉を顰める。
大切に育ててくださいなどと石に張り紙がされているあたりペットロックのつもりなのだろうが、本人にはウケが悪い。
偶然ローの近くに座っていた彼女に、お前か、と言いたそうな目を向けられる。
「私じゃないですよ」
「知ってる」
先に否定をしておくが、あっさりとそう返される。
石を入れた犯人に心当たりがあるのかと思ったが、そうではなかった。
ローは彼女を見つめたまま、自身の頬をちょんちょんと指さした。
彼女はその動作を見て呆然と口を開けていた。
「……え?」
「おれは眠りは浅い方なんだ。知らなかったか?」
その言葉の意味を知った彼女は顔を青ざめ、赤らめ、なんとも言えない表情を繰り返した。
周りのクルーは「え、なになに? どういうこと?」と二人を交互に見つめるが、不敵な笑みを浮かべるローと、感情がパンクして頭を抱えている彼女の後頭部しか映らなかった。
「次は起きてる時でいいからな」
この時ローは、今日一番の活き活きした顔を初めて見せたのだった。
...Fin
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