SS集 ―ONE PIECE―
クルーが集まって食事するポーラータング内の食堂は朝から人の声で沸き上がっていた。
芳醇な酒の香りが充満し、どんちゃん騒ぎの大賑わい。
それはこの船の船長、ローの誕生日を迎えたからに他ならない。
グラスを片手に彷徨くシャチが、後ろからローの肩を抱いて絡みだす。
「キャプテン~ちゃんと飲んでますかァ~?」
「ああ。飲んでる」
顔を寄せ酒臭さを漂わせながらうざ絡みするシャチを、ローは淡々と受け流した。
ローは自身のグラスに注がれた酒をぐいっと飲んで見せ、それで満足したらしいシャチは他のテーブルに移って行った。
ふらふらと左右に揺れるシャチの背中を横目に、ローは小さくため息をついた。
「いつまで続くんだかな、これは」
「そりゃあ日付が変わるまでですよ」
ローの正面に座っていた私は、その呆れた呟きに答えた。
ローの誕生日会と銘打ってのただの酒飲みの祭りは深夜にまで及んでいた。
酒に弱いクルーは昼間にはダウンし、残った酒豪もあと僅かしかいない。
「本当はプレゼントも用意したかったんですけどね。前の島で買おうとしたけど、いいもの見つからなくて」
旅の補給ついでにローの誕生日プレゼントも探したが目星は付かず、今年は酒と料理だけの誕生日会となった。
最新版の医学書なんかは喜びそうだと思ったが、それらは既にローの手中に納められていた。
「そんな律儀に物をくれなくてもいい」
「ええ!折角の誕生日なのに!?」
「酒が飲めるだけで充分だ」
「キャプテンって無欲~」
物欲しそうにする姿は想像も出来ない。
貶すつもりでは言っていないが、そう捉えたらしいローは「ほっとけ」と不貞腐れた。
だんだんと静かになっていく食堂内。
ついには酒に自信のあった酒豪達も酔い潰れ、一番騒ぎ立てていたシャチもテーブルに突っ伏していた。
残りはちびちびと少量ずつ飲んで体力を温存していた私とロー二人だけとなる。
「あ、ついにシャチも潰れた。これは私とキャプテンの一騎討ちになりましたね」
「なんのだよ」
そもそも戦いでもなんでもないし本来の目的も忘れかけていた。
ふと時計を見れば、時刻は零時前を差していた。
「日付ももうすぐ変わっちゃうし、これでお開きですかね」
宣言通り日付が変わるギリギリまで、半日以上の時間を費やして酒を飲み続けていたことになる。
明日に響くのは覚悟して、そろそろ閉会だろうと席を立つ。
腰掛けたままのローはつまらなそうに頬杖をつき、指でトントンとテーブルを叩いた。
「なんです?もの足りません?」
「…そうだな。少し」
もう一杯だけ付き合ってやろうかと私は酒瓶を手に取った。
グラスに注ごうとして、その腕をローの手に掴まれ止められる。
酒が欲しいんじゃないのかとローを一瞥して、その瞬間胸ぐらを掴まれぐっと下に引き寄せられる。
柔らかい何かに唇が塞がれ、声を出す余裕も与えられなかった。
食むように吸われ、その時間は短かっただろうがとてつもなく長くも感じた。
何をされているのか理解した私は、ゆっくりと離れていくローの顔をまともに見ることが出来なかった。
ふッ、と笑みを零すローの口元が視界の端に映る。
「誕生日プレゼントはこれで我慢してやる」
ローはそう言うと私の胸ぐらをぱっと放した。
だが硬直した私の体は前屈みになったまま微塵も動かなかった。
ローは構わず続けた。
「それから…さっきお前はおれを無欲なやつと言ったが、ちゃんと欲はあるぜ」
その言葉に酒で赤くなった顔が更に紅潮し、ダラダラと滝のような汗が背中を流れる。
ローは私の耳元に顔を寄せ、唇が触れる距離で囁いた。
「覚えときな」
「あ…アイアイ、キャプテン…」
酒の味がする唇を必死に動かして出た声は震えていて、私は日付が変わるチャイムが鳴り響くまでその場で呆けているのだった。
...Fin
芳醇な酒の香りが充満し、どんちゃん騒ぎの大賑わい。
それはこの船の船長、ローの誕生日を迎えたからに他ならない。
グラスを片手に彷徨くシャチが、後ろからローの肩を抱いて絡みだす。
「キャプテン~ちゃんと飲んでますかァ~?」
「ああ。飲んでる」
顔を寄せ酒臭さを漂わせながらうざ絡みするシャチを、ローは淡々と受け流した。
ローは自身のグラスに注がれた酒をぐいっと飲んで見せ、それで満足したらしいシャチは他のテーブルに移って行った。
ふらふらと左右に揺れるシャチの背中を横目に、ローは小さくため息をついた。
「いつまで続くんだかな、これは」
「そりゃあ日付が変わるまでですよ」
ローの正面に座っていた私は、その呆れた呟きに答えた。
ローの誕生日会と銘打ってのただの酒飲みの祭りは深夜にまで及んでいた。
酒に弱いクルーは昼間にはダウンし、残った酒豪もあと僅かしかいない。
「本当はプレゼントも用意したかったんですけどね。前の島で買おうとしたけど、いいもの見つからなくて」
旅の補給ついでにローの誕生日プレゼントも探したが目星は付かず、今年は酒と料理だけの誕生日会となった。
最新版の医学書なんかは喜びそうだと思ったが、それらは既にローの手中に納められていた。
「そんな律儀に物をくれなくてもいい」
「ええ!折角の誕生日なのに!?」
「酒が飲めるだけで充分だ」
「キャプテンって無欲~」
物欲しそうにする姿は想像も出来ない。
貶すつもりでは言っていないが、そう捉えたらしいローは「ほっとけ」と不貞腐れた。
だんだんと静かになっていく食堂内。
ついには酒に自信のあった酒豪達も酔い潰れ、一番騒ぎ立てていたシャチもテーブルに突っ伏していた。
残りはちびちびと少量ずつ飲んで体力を温存していた私とロー二人だけとなる。
「あ、ついにシャチも潰れた。これは私とキャプテンの一騎討ちになりましたね」
「なんのだよ」
そもそも戦いでもなんでもないし本来の目的も忘れかけていた。
ふと時計を見れば、時刻は零時前を差していた。
「日付ももうすぐ変わっちゃうし、これでお開きですかね」
宣言通り日付が変わるギリギリまで、半日以上の時間を費やして酒を飲み続けていたことになる。
明日に響くのは覚悟して、そろそろ閉会だろうと席を立つ。
腰掛けたままのローはつまらなそうに頬杖をつき、指でトントンとテーブルを叩いた。
「なんです?もの足りません?」
「…そうだな。少し」
もう一杯だけ付き合ってやろうかと私は酒瓶を手に取った。
グラスに注ごうとして、その腕をローの手に掴まれ止められる。
酒が欲しいんじゃないのかとローを一瞥して、その瞬間胸ぐらを掴まれぐっと下に引き寄せられる。
柔らかい何かに唇が塞がれ、声を出す余裕も与えられなかった。
食むように吸われ、その時間は短かっただろうがとてつもなく長くも感じた。
何をされているのか理解した私は、ゆっくりと離れていくローの顔をまともに見ることが出来なかった。
ふッ、と笑みを零すローの口元が視界の端に映る。
「誕生日プレゼントはこれで我慢してやる」
ローはそう言うと私の胸ぐらをぱっと放した。
だが硬直した私の体は前屈みになったまま微塵も動かなかった。
ローは構わず続けた。
「それから…さっきお前はおれを無欲なやつと言ったが、ちゃんと欲はあるぜ」
その言葉に酒で赤くなった顔が更に紅潮し、ダラダラと滝のような汗が背中を流れる。
ローは私の耳元に顔を寄せ、唇が触れる距離で囁いた。
「覚えときな」
「あ…アイアイ、キャプテン…」
酒の味がする唇を必死に動かして出た声は震えていて、私は日付が変わるチャイムが鳴り響くまでその場で呆けているのだった。
...Fin
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