弐 孤独を埋めて
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「白菊少女はなんの仕事をしているのだ?」
そう問われて答えようと口を開けた瞬間、喉まで出かかったそれを飲み込んだ。
隣を歩く煉獄さんに顔を傾けた時、丁度後ろからスーツ姿の男性が煉獄さんを追い越しすり抜けていったからだ。
危うく見知らぬ男性に向かって発話するところだったと、冷や汗が滲んだ。
私は不審者の如くきょろきょろと周りを見渡して、近くに誰もいないのを確認してから小声で答えた。
「た、ただのOLです」
「おーえる?知らない言葉だ」
「…オフィスレディと言って、会社に勤める女性のことです。和製英語なので日本でしか通じません」
「そうか、新しい言葉も増えているのだな」
煉獄さんは初めて聞く言葉を知り新鮮さを感じているようだった。
それだけならまだよかった、微笑ましい限りだ。
「あれはなんの看板だ?」
「あの飛んでいるのはなんだ!?空襲か!?」
「自動で扉が開いたのか!何をしたらそうなるのだ!?」
「人が多いな!この者達は全員仕事のために毎日こんな苦しそうにしながら列車に乗り働きに出るのか!」
煉獄さんはありとあらゆる物に興味関心を持ち、私に尋ねた。
人の多い駅中でもそれは続き、私が返事をしなくても構わず話しかけてくる。
なんにでも興味を示す子供のようだ。
答えてあげたい気持ちはあるも、人の目を気にして声を出すことができない。
申し訳なさを感じつつ、定時刻で到着した満員電車に乗り込んだ。
煉獄さんは車内でふわっと浮かび、上から人の頭を見下ろした。
いきなり宙に浮いたことには驚いたが、つい昨日壁をすり抜けて風呂場を覗かれたことを思い返せば地に足を着けず浮かぶことも無機物も有機物も関係なく通り抜けられることも頷けた。
便利なのか不便なのか、幽霊は昔から見えてはいたがやはり今考えても不思議な存在だ。
「速いなこの列車は!」
煉獄さんの興奮は治まる気配がない。
電車のスピードについていきながら後ろに流れていく外の景色を堪能していた。
気まずいな…。
近くにいるのに話ができないというのは悩ましいものだ。
電車の揺れに合わせて後ろの人にどんっと押されながら、二重の意味で窮屈さを感じた。
電車が会社の最寄りの駅に到着し、人が雪崩を起こしてホームへと降りていく。
私もその流れで降りて、さり気なく煉獄さんを探すとちゃんと後ろをついて来ていた。
会社近くに出られる駅の出口まで来て、端に寄った。
壁にもたれながらそこで休憩する風を装う。
人の流れはまだ多いが小声であれば素通りする人には届かないと信じ、口を開いた。
「煉獄さん…」
「ん?どうした?」
煉獄さんの大きな目がぐりんと動く。
ひそひそ声で聞こえにくいのか、私に顔を寄せて耳を欹てていた。
「先程の看板は、歴史博物館の宣伝。空を飛んでいたのは飛行機で、人や荷物を運んでいます。駅の改札は自動なのが主流で、磁気を読み取って開きます。詳しい技術的な面は私にもわかりません。朝のこの時間は社会人と、学生も通学で電車を使います。都会の中心はもっと人が多くてぎゅうぎゅう詰めで今日の比じゃありません」
道中で興味深々に見ていた物をまとめて説明した。
やや早口口調になってしまい、煉獄さんは目を見開いたまま口をきゅっと閉じていた。
それがどんな感情を意味しているかはわからなかったが、ぽかんと呆けているようにも見えた。
「それで、あの…人の多いところで私が煉獄さんとお話すると、他の人には独りで会話してる変な人と思われるので…話しかけるなとは言いませんけど、あまり返事ができないです」
ここまで黙っていた事情を話す。
すると煉獄さんは堪えていたものを噴き出し、笑った。
「ははは、ありがとう白菊少女。わざわざ答えてくれて」
無視をしたと思われているのではないかという心配を吹き飛ばす笑顔だった。
そしてその笑いの意味は別にあったと直後に知る。
「君の言いたそうで言えない反応が面白くて、つい意地悪をしてしまった」
「ワザとだったんですか!?」
喋れないことを知りながら話しかけ続け、耐えて出さないようにしていたのは笑いだったのだ。
それを知った途端カッと体温の上昇を感じ、恥ずかしくなって顔を俯かせた。
煉獄さんは飽きずにまだ笑っていた。
「そういう可愛い顔をするからいけないんだ」
「からかってますね!?」
「ほら、人が来るぞ」
通行人が目の前を横切ったのが見え、慌てて口を閉じた。
からかわれるなんて久しく、もやもやした。
しかも相手は幽霊だ。
周りに気づかれないのをいいことに悪巧みするなんて、と自然と口は尖り、むっとなる。
「真面目な話、仕事中は本当にお話できませんよ?退屈だったら帰ってくださいね?」
「そうか。それは仕方ない」
決して残念そうには聞こえない。
返事が返って来なくても話し続ける気なのが見え見えだ。
茶々を入れて困らせようとする悪戯心は子供のようだ。
先が思いやられると、私はわざとらしく吐息をついた。
そう問われて答えようと口を開けた瞬間、喉まで出かかったそれを飲み込んだ。
隣を歩く煉獄さんに顔を傾けた時、丁度後ろからスーツ姿の男性が煉獄さんを追い越しすり抜けていったからだ。
危うく見知らぬ男性に向かって発話するところだったと、冷や汗が滲んだ。
私は不審者の如くきょろきょろと周りを見渡して、近くに誰もいないのを確認してから小声で答えた。
「た、ただのOLです」
「おーえる?知らない言葉だ」
「…オフィスレディと言って、会社に勤める女性のことです。和製英語なので日本でしか通じません」
「そうか、新しい言葉も増えているのだな」
煉獄さんは初めて聞く言葉を知り新鮮さを感じているようだった。
それだけならまだよかった、微笑ましい限りだ。
「あれはなんの看板だ?」
「あの飛んでいるのはなんだ!?空襲か!?」
「自動で扉が開いたのか!何をしたらそうなるのだ!?」
「人が多いな!この者達は全員仕事のために毎日こんな苦しそうにしながら列車に乗り働きに出るのか!」
煉獄さんはありとあらゆる物に興味関心を持ち、私に尋ねた。
人の多い駅中でもそれは続き、私が返事をしなくても構わず話しかけてくる。
なんにでも興味を示す子供のようだ。
答えてあげたい気持ちはあるも、人の目を気にして声を出すことができない。
申し訳なさを感じつつ、定時刻で到着した満員電車に乗り込んだ。
煉獄さんは車内でふわっと浮かび、上から人の頭を見下ろした。
いきなり宙に浮いたことには驚いたが、つい昨日壁をすり抜けて風呂場を覗かれたことを思い返せば地に足を着けず浮かぶことも無機物も有機物も関係なく通り抜けられることも頷けた。
便利なのか不便なのか、幽霊は昔から見えてはいたがやはり今考えても不思議な存在だ。
「速いなこの列車は!」
煉獄さんの興奮は治まる気配がない。
電車のスピードについていきながら後ろに流れていく外の景色を堪能していた。
気まずいな…。
近くにいるのに話ができないというのは悩ましいものだ。
電車の揺れに合わせて後ろの人にどんっと押されながら、二重の意味で窮屈さを感じた。
電車が会社の最寄りの駅に到着し、人が雪崩を起こしてホームへと降りていく。
私もその流れで降りて、さり気なく煉獄さんを探すとちゃんと後ろをついて来ていた。
会社近くに出られる駅の出口まで来て、端に寄った。
壁にもたれながらそこで休憩する風を装う。
人の流れはまだ多いが小声であれば素通りする人には届かないと信じ、口を開いた。
「煉獄さん…」
「ん?どうした?」
煉獄さんの大きな目がぐりんと動く。
ひそひそ声で聞こえにくいのか、私に顔を寄せて耳を欹てていた。
「先程の看板は、歴史博物館の宣伝。空を飛んでいたのは飛行機で、人や荷物を運んでいます。駅の改札は自動なのが主流で、磁気を読み取って開きます。詳しい技術的な面は私にもわかりません。朝のこの時間は社会人と、学生も通学で電車を使います。都会の中心はもっと人が多くてぎゅうぎゅう詰めで今日の比じゃありません」
道中で興味深々に見ていた物をまとめて説明した。
やや早口口調になってしまい、煉獄さんは目を見開いたまま口をきゅっと閉じていた。
それがどんな感情を意味しているかはわからなかったが、ぽかんと呆けているようにも見えた。
「それで、あの…人の多いところで私が煉獄さんとお話すると、他の人には独りで会話してる変な人と思われるので…話しかけるなとは言いませんけど、あまり返事ができないです」
ここまで黙っていた事情を話す。
すると煉獄さんは堪えていたものを噴き出し、笑った。
「ははは、ありがとう白菊少女。わざわざ答えてくれて」
無視をしたと思われているのではないかという心配を吹き飛ばす笑顔だった。
そしてその笑いの意味は別にあったと直後に知る。
「君の言いたそうで言えない反応が面白くて、つい意地悪をしてしまった」
「ワザとだったんですか!?」
喋れないことを知りながら話しかけ続け、耐えて出さないようにしていたのは笑いだったのだ。
それを知った途端カッと体温の上昇を感じ、恥ずかしくなって顔を俯かせた。
煉獄さんは飽きずにまだ笑っていた。
「そういう可愛い顔をするからいけないんだ」
「からかってますね!?」
「ほら、人が来るぞ」
通行人が目の前を横切ったのが見え、慌てて口を閉じた。
からかわれるなんて久しく、もやもやした。
しかも相手は幽霊だ。
周りに気づかれないのをいいことに悪巧みするなんて、と自然と口は尖り、むっとなる。
「真面目な話、仕事中は本当にお話できませんよ?退屈だったら帰ってくださいね?」
「そうか。それは仕方ない」
決して残念そうには聞こえない。
返事が返って来なくても話し続ける気なのが見え見えだ。
茶々を入れて困らせようとする悪戯心は子供のようだ。
先が思いやられると、私はわざとらしく吐息をついた。