壱 焔の青年
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耳を劈くような蝉の鳴く夏の頃。
灼熱の太陽に晒された庭は気温の層ができ、うっすらと蜃気楼が浮かんでいる。
私は縁側に座る曾祖父の膝を枕にして、うとうとしながらそのボヤけた視界で蜃気楼の揺らめきを見つめた。
深緑の葉を生やした榎が風に吹かれて不規則に踊り、頭上の軒に吊り下げた風鈴が、ちりんちりんと音を響かせる。
「昔はね、鬼がいたんだよ」
曾祖父の優しい声が耳に入る。
心地よい、眠りを誘うかのような温和な声だ。
私はこの声がとても好きだ。
年に一、二回、母に連れられて曾祖父の家を訪れるたびに、このお伽噺を聞かされた。
もう何回聞いただろう。
曾祖父はしっかり者ではあるが高齢ということもあり若干の痴呆も入っていたのもあるだろうが、話す内容は同じようで時々初めて聞く単語もある。
鬼は人を襲い、血肉を喰らい、喰われた人も鬼になる。
鬼は陽の光を嫌い、姿を現すのは必ず夜の間だけ。
お伽噺の中の人々は鬼に恐怖し、眠れない夜も多かったことだろう。
子供に聞かせるには残酷なことばかりを連ねるが、私はその噺が嫌いではなかった。
「でも鬼狩り様たちが鬼を退治してくれて、鬼はいなくなったんだ」
鬼はもういない。
正義の味方が悪い人をやっつけてくれたのだと、子供の私はそう解釈していた。
「だから今この国はとても平和で、皆が笑顔で暮らしていけてる。宵闇を恐れることもない」
昔を懐かしみながら曾祖父は話す。
その目にはいつも、堪えるように涙が浮かんでいた。
桃太郎のような日本昔噺と同じだろうに、何故泣きそうな顔をするのか理解できたことはない。
「もう昔の話だ。鬼殺隊の柱だった人たちも、もうこの世にはいないけどね」
「はしら?き、さつ?」
鬼殺隊、柱。それは初めて耳にした単語だった。
どういう意味なのかもわからず、私は曾祖父の言葉を鸚鵡 返しした。
曾祖父は膝で寝転ぶ私の髪をかき分け、優しく頭を撫でてくれた。
曾祖父の頭髪は私が物心着く頃から真っ白だが、昔はどんな色をしていたのだろうとふと思った。
「由乃、伝統は受け継ぐことはできなくても、せめてこの名前だけはどうか覚えていてほしい。多くの人の命を背負い守った、立派な人の名だ」
優しい曾祖父の声に、眠気が襲う。
昼食を満腹になるまで食べて、そよそよと静かに吹く風とそれに合わせて鳴る風鈴がより心地よさを誘っている。
いつもなら昼寝をする時間でもある。
私は曾祖父の声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
「その名前は────」
灼熱の太陽に晒された庭は気温の層ができ、うっすらと蜃気楼が浮かんでいる。
私は縁側に座る曾祖父の膝を枕にして、うとうとしながらそのボヤけた視界で蜃気楼の揺らめきを見つめた。
深緑の葉を生やした榎が風に吹かれて不規則に踊り、頭上の軒に吊り下げた風鈴が、ちりんちりんと音を響かせる。
「昔はね、鬼がいたんだよ」
曾祖父の優しい声が耳に入る。
心地よい、眠りを誘うかのような温和な声だ。
私はこの声がとても好きだ。
年に一、二回、母に連れられて曾祖父の家を訪れるたびに、このお伽噺を聞かされた。
もう何回聞いただろう。
曾祖父はしっかり者ではあるが高齢ということもあり若干の痴呆も入っていたのもあるだろうが、話す内容は同じようで時々初めて聞く単語もある。
鬼は人を襲い、血肉を喰らい、喰われた人も鬼になる。
鬼は陽の光を嫌い、姿を現すのは必ず夜の間だけ。
お伽噺の中の人々は鬼に恐怖し、眠れない夜も多かったことだろう。
子供に聞かせるには残酷なことばかりを連ねるが、私はその噺が嫌いではなかった。
「でも鬼狩り様たちが鬼を退治してくれて、鬼はいなくなったんだ」
鬼はもういない。
正義の味方が悪い人をやっつけてくれたのだと、子供の私はそう解釈していた。
「だから今この国はとても平和で、皆が笑顔で暮らしていけてる。宵闇を恐れることもない」
昔を懐かしみながら曾祖父は話す。
その目にはいつも、堪えるように涙が浮かんでいた。
桃太郎のような日本昔噺と同じだろうに、何故泣きそうな顔をするのか理解できたことはない。
「もう昔の話だ。鬼殺隊の柱だった人たちも、もうこの世にはいないけどね」
「はしら?き、さつ?」
鬼殺隊、柱。それは初めて耳にした単語だった。
どういう意味なのかもわからず、私は曾祖父の言葉を
曾祖父は膝で寝転ぶ私の髪をかき分け、優しく頭を撫でてくれた。
曾祖父の頭髪は私が物心着く頃から真っ白だが、昔はどんな色をしていたのだろうとふと思った。
「由乃、伝統は受け継ぐことはできなくても、せめてこの名前だけはどうか覚えていてほしい。多くの人の命を背負い守った、立派な人の名だ」
優しい曾祖父の声に、眠気が襲う。
昼食を満腹になるまで食べて、そよそよと静かに吹く風とそれに合わせて鳴る風鈴がより心地よさを誘っている。
いつもなら昼寝をする時間でもある。
私は曾祖父の声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
「その名前は────」
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