天国でも地獄でもない何処か
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この世はいつの時代も不条理だ。
世間も、親しい人も、私自身も。
業を背負って、泥水を啜って、それでも生きている。
正義感のある人や、綺麗事ばかり抜かすヤツを私は嫌いだ。
そういう人程、他人には無関心で自身の出世ばかりを念に置いている。
けれど、そんな不快な人の中には、少しだけ毛色の違った者もいた。
人通りの多い商店地区、時は正午。私はすれ違う人々に意識を集中させていた。
身なり、佇まい。内なるものは外面にも表れる。
目利きは、良い方だと自負している。
それにこの周辺を通る人の三割程度は、"それ目的"だ。
観察を続ける中で、上等な綿の着物姿の、育ちの良さそうな青年を見つけた。
裾の汚れや皺は見当たらず、姿勢良く歩くので着崩れもしていない。
若いが貧乏でないのは一目瞭然だ。
私は一直線にその青年に横から近づいた。
「こんにちは、お兄さん」
「ああ。こんにちは」
にっこり微笑みながら挨拶をすると、青年も同じように返した。
第一印象は良好だ。彼のも。きっと私も。
青年は足を止めて、なんだろうと疑問を浮かべた様子で私を見つめた。
燃えるような焔色をした青年の髪が、首を傾げた際に毛先がぴょんと揺れた。
「俺に何か用か?」
「用と言うものではないんですけど、お暇ですか」
「うーん。暇ではないが、多少時間は取れる。何か困りの用なら力になろう」
くり抜いたような大きな眼窩に乗せた眼球がぎょろりと動く。
少し怖いような気もしたが、生まれ持った顔や体の特徴はオマケ程度のもの。
重要視するのはそこではないので、外見に関する印象は思考の端へと追いやった。
「私を買ってくれません?」
そう言いながら青年の手を取り、指を絡ませた。
この一言で大抵の男は察するものだ。
女性から言い寄られると気乗りしない男もいるらしいが、私が客引きで外れクジを引いたことはない。
「君を、買う?」
「はい。三円でどうでしょう」
「……」
青年は口をきゅっと閉じて、目をぱちぱちさせた。
その反応には私も、あれ、と呆けてしまった。
「あ、もしかして、意味が伝わりませんでした?」
青年がここを通っていたのは女を目的としていたわけではなかったようだ。
こうやって声をかけられた経験もきっとないのだ。
だが、慣れていないとしてもこちらが構う条件とはならない。
相手をその気にさせてしまえばいいだけの話だった。
「私の体を好きにしていいってことで…」
「こっちへ」
青年は静かに言い、絡ませていた指を解いて私の手首を掴んだ。
そして力任せに引っ張り、何処かに連れて行こうとした。
「ちょ、痛っ…!」
手首を掴む指の圧が強い。
折れるまではいかないも、その手から、青年から逃れることは不可能だった。
そのまま引っ張られていき、路地裏へと押し込まれる。
いやいや、いくら請求した分以上の金を支払われたとしても青姦は勘弁だ。
世間も、親しい人も、私自身も。
業を背負って、泥水を啜って、それでも生きている。
正義感のある人や、綺麗事ばかり抜かすヤツを私は嫌いだ。
そういう人程、他人には無関心で自身の出世ばかりを念に置いている。
けれど、そんな不快な人の中には、少しだけ毛色の違った者もいた。
人通りの多い商店地区、時は正午。私はすれ違う人々に意識を集中させていた。
身なり、佇まい。内なるものは外面にも表れる。
目利きは、良い方だと自負している。
それにこの周辺を通る人の三割程度は、"それ目的"だ。
観察を続ける中で、上等な綿の着物姿の、育ちの良さそうな青年を見つけた。
裾の汚れや皺は見当たらず、姿勢良く歩くので着崩れもしていない。
若いが貧乏でないのは一目瞭然だ。
私は一直線にその青年に横から近づいた。
「こんにちは、お兄さん」
「ああ。こんにちは」
にっこり微笑みながら挨拶をすると、青年も同じように返した。
第一印象は良好だ。彼のも。きっと私も。
青年は足を止めて、なんだろうと疑問を浮かべた様子で私を見つめた。
燃えるような焔色をした青年の髪が、首を傾げた際に毛先がぴょんと揺れた。
「俺に何か用か?」
「用と言うものではないんですけど、お暇ですか」
「うーん。暇ではないが、多少時間は取れる。何か困りの用なら力になろう」
くり抜いたような大きな眼窩に乗せた眼球がぎょろりと動く。
少し怖いような気もしたが、生まれ持った顔や体の特徴はオマケ程度のもの。
重要視するのはそこではないので、外見に関する印象は思考の端へと追いやった。
「私を買ってくれません?」
そう言いながら青年の手を取り、指を絡ませた。
この一言で大抵の男は察するものだ。
女性から言い寄られると気乗りしない男もいるらしいが、私が客引きで外れクジを引いたことはない。
「君を、買う?」
「はい。三円でどうでしょう」
「……」
青年は口をきゅっと閉じて、目をぱちぱちさせた。
その反応には私も、あれ、と呆けてしまった。
「あ、もしかして、意味が伝わりませんでした?」
青年がここを通っていたのは女を目的としていたわけではなかったようだ。
こうやって声をかけられた経験もきっとないのだ。
だが、慣れていないとしてもこちらが構う条件とはならない。
相手をその気にさせてしまえばいいだけの話だった。
「私の体を好きにしていいってことで…」
「こっちへ」
青年は静かに言い、絡ませていた指を解いて私の手首を掴んだ。
そして力任せに引っ張り、何処かに連れて行こうとした。
「ちょ、痛っ…!」
手首を掴む指の圧が強い。
折れるまではいかないも、その手から、青年から逃れることは不可能だった。
そのまま引っ張られていき、路地裏へと押し込まれる。
いやいや、いくら請求した分以上の金を支払われたとしても青姦は勘弁だ。
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