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君に伝えたい。

叶うはずがない事だと分かっていてもできる事ならやってみたいと思った事はどれほどあっただろうか。
小さい頃からあれは駄目これは駄目と言われ続け私自身がやりたい事をすべて止められてきた。
いつからか、やりたいことなどなくなってしまった。
愛想笑いだけが上達していき両親からの期待なんかされることなく生きた人形と化していった。
こんな生活にうんざりしていたあの日、私に希望ができた。
それはザーッザーッと強く雨が降り、車の車体を強く打ちつける。
窓から見た景色は雨が邪魔していて全く見えない。
雨のおかげで頭は痛く気分が優れない。こんな日に病院へ行くのはとても憂鬱でしかなかった。
「澪さま、もうすぐ到着します。」
「いつもの場所でおろしてください。」
「かしこまりました。」
いつもの病院のロータリーで降り、診察室へ向かう途中、気持ちが悪いのが限界に達し座り込んでしまった。
あぁ、だから雨の日は来たくなかったんだと心の中でつぶやくと誰かの影が床に写った。
見上げると男の人だとは理解できたが涙目になっていた為しっかりと顔が確認できない。
「…大丈夫ですか?」
心配して近くに来てくれたのだろうか。
正直、話す事すら出来ないほどだった私はそのまま気を失った。

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目が覚めた場所は見覚えのある病院の天井だった。
降っていた雨が止んで風が室内に入りカーテンが膨らんでいる。
雨が止んだんだなと窓を見ていた。
「…大丈夫ですか?」

声が聞こえる方を覗くと、気を失う前に手を差し伸べてくれた彼だったと思った。
手にはペットボトルを持っていて、何か飲み物を買いに行っていたのだろう。
「…ご心配おかけしました、先程はありがとうございます。」

「いえいえ、顔色も良くなったんで安心しました。」
よかったらどうぞとペットボトルの温かい紅茶を手渡された。
「ありがとうございます、でも、助けて頂いたのにこんな事まで…。」

「いいんですよ、こういうのは頼ったほうがいいですよ。」
少し微笑んでいただけだったのだろう、でも私にはとても輝いて見えて私には眩しかった。
「あ、これから用事があるので失礼しますね、お大事に。」

そう言って病室を出ていった。
彼が出ていってから少しして名前を聞けばよかったと後悔したが、手に持っていた紅茶を一口飲むと家で飲んでいるものよりも美味しく感じ心まで温かくなった気がした。
驚く事に彼は次の日もその次の日も少しの時間ではあったが見舞いに来てくれた。あの時くれた紅茶を手土産に。
特に話す事なんてなく、ただ座っているだけなのにまた今日も来てくれた!と嬉しくて仕方がなかった。

「じゃぁ、澪さんまた来ますね。」
彼は立ち上がり病室を出ようとした時
「あのっ!な、名前聞いてもいいですか?あなたは知っているのに私が知らないのはその…。」

私が焦っているのを見て少しクスクス笑い
「城聖高校2年の長峰環です、」

長峰環…さん。
「あ、それじゃぁ、また。」

同い年だと知って嬉しくてたまらなくて夕食を食べ、ベッドで眠るまで私は機嫌がよかった。
初めて病院に来てよかったと、入院してよかったと思えた。彼と出会ってから愛想笑いではない本当の笑顔ができたと思った。
でもその日の夜から目が覚めると見たことの無い天井、病室だった。

窓を見ると白いカーテンがふわっとふくらみ程よい風が肌に触れる。ベットに横たわったままそれをただ眺めていた。
少ししてから医師だろう人が2,3人入ってきた。
先に口を開いたのは先生だった。
よく見ると少し白髪が目立つ。
「…目が覚めましたか。」

「…は、はい。」
声がかすれて出しにくい。これが私の声だろうか。
起き上がろうとするが、なかなか力が入らない。
それを見兼ねた後ろにいた先生たちが起き上がるのを手助けしてくれた。
自分の体なのに言うことを聞かない。
「動きにくいとは思いますが、それもそうでしょう。」

「…っ、どういうことですか?」

「あれから約7年でしょうか、意識が戻らなかったんですから。」

この人はなんて言った?
7年?眠っていたってどういう事?
そのセリフに驚きが隠せなかった。

「っ、何かの嘘ですか?」

そう思っても仕方がないだろう。

「いえ、これが事実です。 」

しかし、受け入れるしかなかったのだ。
鏡を見せてもらうとあの頃より髪は伸び少し痩せたように見える。あっという間に時が立ち17歳だった私は眠りから覚めると24歳になっていた。
精神的にはまだ17歳のまま。

そういえば、彼はどうなったのだろう。
最初に思うのは母たちより彼だった。
私に希望と愛想笑いではない本当の笑顔をくれた彼はどうなったのか。

聞きたいのに、もう話す事に疲れてしまった。
今まで話すだけで疲れるなんて思っても見なかった。

「話すことが大変ならこれを。」

そう言い、50音が書いてあるボードを渡され一文字ずつ指を指す。

“かれはどうなったの”

「彼? 誰でしょう。」

“あのときまいにちおみまいにきてくれた”

「…あぁ、その方ならもう5年ほど来ておりません。」

少し期待していた。

“そうよね”

わかっていたのにね。
出会ってからそんなに日が経っていないのに私なんかに会いに来てくれるなんて。

馬鹿みたい。
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