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テニス

「パーティー、顔出さへんの?」
 ご馳走やで、と言う種ヶ島に眉を吊り上げた。
「遠野くんの生まれた日を祝ってるんですよね?」 
「堪忍やで」
「お祝いの席の雰囲気を壊したくないので」
 おおげさに身を竦めて見せる種ヶ島に心の一部分を打ち明けた。嘘ではなかった。怪我の再発にも関わらずW杯への参加を諦める様子のない遠野に抱く感情。それを評価する向きの平等院を始めとする代表メンバー達。その遠野の為の宴の席に相応しい振る舞いはできないと、君島は自覚していた。
「主役があんな調子やし、サプライズでもと思てんけどな」
「何か騒ぎを起こしたのですか?」
「いや、どうにも退屈そうでなぁ」
 やれやれと首を振った。
「フォローお願いしますよ」
「ええの!?」
「顔を出すだけです。明日も仕事なので」
「言ってみるもんやな~」
 パーティー会場に入ると、遠野は数種類のアップルパイを前につまらなそうにしていた。周りは賑やかだが、肝心の主役がそんな調子では華やぎに欠けるだろう。
 どうしようもない人だ。言ってやりたいことが次々と浮かんできて、一歩踏み出した。君島が近づいていくと遠野が顔を上げた。君島を捉えた瞳が見開いて、瞳孔を起点とするように顔中に笑みが広がった。

 大きな笑い声を上げる遠野と黙々とアップルパイを口に運ぶ君島を離れたところで見ていた入江が種ヶ島に微笑んだ。 
「流石修さん。一番のプレゼントじゃない?」
「だとええなぁ」
 フォローするという約束を果たすべく、種ヶ島は遠野の話を黙って聞いている君島の元へ向かった。
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