でも本当は…。


わいわいと賑わう教室、今日も明日も同じように。
ずっとこの日のままで、あれば良いなと思いながら教室の扉を開けると。


「三、なあ知ってるか…?怪しい森の噂について…」と、
顔だけしか知らないクラスメイトに、何故か分からないが、俺はそう問いかけられてしまい…。

思わず、俺は不機嫌そうな顔をしながら。

「怪しい森ってなんだよ…?また、くだらねぇ噂か?」
「うわっ…出た、三の毒舌っ!!ったく可愛い顔して、怖いな」
「怖いだとっ…?まあ、俺は姫の騎士だから、怖い方が良いんだよっ…!!そうだよね、姫」

俺は知らないクラスメイトにそう強気に言い放ちながら、教室の窓際の席に居る姫氏原紫士に話しかければ。

「おはよう騎冬、朝から何だかんだ少し騒がしいね…。
でも、私以外には怖い騎冬になってくれるのなら、私は賛成だよ」
「流石姫っ…という訳だから、お前には怖くするからな」
「ひぃいいいいっ…それは勘弁してくれよ、
というか紫士君なんかめちゃくちゃ目が笑ってないんだけどっ…!!そんな今にでも、ちぎってバラすみたいな視線やめってよ!!」

そう言って、知らないクラスメイトは紫士の方を見ながら、額から大粒の冷や汗をかいているので。

(こいつ、何してんだよ…姫は怖くなんかないのに…?)と、

俺はそう疑問に思いながら、この謎の言い合いに騎士として終わりを告げるために。

「で、話は戻るんだけど。怪しい森の噂ってなんだよ?」
と知らないクラスメイトに手を差し伸ばすように言えば。

「三っ…!!お前ほんと、ナイスタイミングだよ。…ほんとまじありがとう」と、グシュグシュと鼻水を啜るように知らないクラスメイトは、俺に懇願するように言うので。

「おいおい、泣きながらありがとうはやめろよ。
つうか、そんな事より怪しい森の噂について、さっさと言えよ」と、

俺はちょっと引きながら、いやかなりドン引きしながらそいつの言葉に催促の言葉をかけてやると。

「分かった…じゃあ教えるんだけど。俺たちの通ってる学校の近くにある森なんだけど、春休みが終わったあたりからなんか異変が起きたみたいでさ…。
何というか、その森に入ったやつらが何人か返って来ないらしくって、今学校中でもそれで騒いでるんだよ」と知らないクラスメイトはそう言って、腰に手をあてながら続けて。

「あと、どうやらその森では人間を何かの祭壇に殺して祀ってるっていう噂もあって…。その、なんというかこのままじゃ良くないなって思うんだけど?三達はこの噂について、どう思う…」
「そうだな…すげぇ良くないって思う。もし、それが本当なら騎士として成敗してやる!!」
「流石、三だ!!マジありがとうな…。で、その…紫士君はどうでしょうか?」
そう恐る恐る言うかのように、引きつった笑みで紫士に話しかければ。

「構わないよ…それに、その噂に対してかなり思うことがあるからね」と、紫士は優しい笑みを浮かべながら、声だけは怒った声音でそう返すので。

「姫…なんか、この件であったのか?」と俺は彼の側に近寄って耳打ちすれば。

「…雪白だ」
「ええっ…それってまさか、この前の姫雪白が迷子になって数日返ってこなかったやつですか?」
「ああそうだ…多分、この件と雪白のは繋がってそうだと思う」
紫士はそう深刻そうな顔をしながら、感情がないように淡々と、呟くように言うので。

俺はその言葉を聞いて、
(どうしてそんなに淡々と言えるのだろうか…。あんなにか弱くて愛らしい姫雪白に起きた、大きな事件なのに…)と紫士の冷静すぎる言動に、何故、どうしてと思いながらも。

──これが、姫氏原紫士という。

この学校で最も賢く、人望もある男の隠された本性なのだかろうかと、そう考えてしまい。

「…どうして、姫はそんなに冷静なんだよ?」とまるで他人事のように振る舞う紫士にそう怒りの含んだ声音で問えば。

「私はそいう奴だ…。でも、これも全て騎冬の為だけどね…。だってあんまり取り乱したら心配するよね?」

俺の言葉に紫士は、さっきとは打って変わったかのように、驚くほど感情的な声でそう俺の青い目をじっと見つめて言うので。

──嗚呼、俺はなんて浅はかで馬鹿なんだろうと…。
先程自分で言った言葉に対して、そう自分で罵りながら。

(そうだよな…大事な弟なんだもん。冷静になれる訳ないよな…でも、俺の事を思って、辛いのに冷静なフリをしてくれたんだ…。ほんと、姫はどれだけ人格者なんだろう、凄すぎる…)と、さっきの思いを否定するかのようにそう思って。

「…俺の為に、そんな事しなくても良いよ」
「騎冬はほんと、私の騎士様なんだね…」
「当たり前だろっ…!!俺は騎士なんだもん…って、そいうお話はここまでにして…」

俺はそう少し照れたように言いながら、さっきからこちらを不安そうに見つめてくる知らないクラスメイトに目線を合わせて。

「…と姫が言うから、この噂に対して何かしようと思うなら、俺達も参加するからな」

「マジかよ、そうか…。なら、今度の土曜日の夜に学校前に集合してくれると嬉しいな。ほんと三達が居てくれるだけで、心強いぜ」

「おう、任せろよな!…じゃあ土曜日な」
俺はそう言って、そいつとの話を終わらせて。
紫士の隣の席に腰をかけて、持ってきた鞄を置きながら。
知らぬ間に席に座って、一時間目の授業の準備をしていた紫士に。

ちょっとだけ申し訳ない顔を見せて、こう話しかけた。

「あのさ…姫、さっきの人のさ…名前ってなんだっけ?その…俺…」
「…騎冬には長い名前だから、覚えなくても良いよ」
「なっ…なんだよそれっ…!!俺長くてもちゃんと覚えられるぞ」

紫士にそう心配されるような声音で言われたので、俺は子供のように少しムキになりながら強く言えば。

「…いや、本当に覚えれないと思うよ…。だって私でも正式で全部は覚えれない名前だから…。だけど、まあ騎冬がどうしてもと言うのなら、あいつの事を凱って呼ぶと良いよ」
「えっ…姫でも覚えられない名前って?やばくないか…?」

俺はそうびっくりした顔を見せながら、ふと聞こえるキンコンカーンコンとなるチャイムの音を煩いなと思いつつ…。

学生として、何度も繰り返される退屈な勉学の道へと赴いた。








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