でも本当は…。
ざわざわとした、不穏な空気で満たされた森が目の前に見える…。
それはまさに、怪しいですと言わんばかりのものであり、どこか遠い異国の地の遺跡があるような雰囲気のものだったので。
俺はこの森に案内してくれているクラスメイトに、
「こんな場所いつからあったんだよ!!」と、
目をまん丸にするぐらいの驚いた声でそう問いかければ。
「それがな…突然としか言えないんだよ、
なんというか…突然現れたって感じ」
「まあ、それが本当なら…まさにお伽話みたいですね!!
皆さんでレッツファンタジーできちゃいますね」
「雪白…お前ここで、そいうふわふわした謎発言はやめないか」
雪白の今日はピクニックですねと言わんばかりの発言に、
紫士は困ったような顔と声音で呟くので。
「まあまあ、そう言うなよ…姫。
きっと姫雪白は俺たちを和ませようと思って、
ファンタジーみたいって言ってくれたと思うんだよね」
「うふふっ…三さんて、とっても気遣い上手さんなんですね。
その通りすぎて私嬉しいです」
「…全くお前たちときたら…いや、
こんな時だからこそそうしてくれているのだな」
紫士はそう言い捨てながら、俺たちのやり取りを呆れた顔で聞いているクラスメイトに。
「で、いつになったら着くのかな?」
と脅しをかけるように言えば。
「ちょっと、それめちゃくちゃ怖いんだけど!!
ああ、もう…もう着いたって!!」
「そうなんだね。なら、良かった」
「…あの姫、そいうのやめた方がいいよ」
「うん?騎冬、私に何か言った??」
紫士はとぼけたようにそう言いながら、俺の方を向いて言うので。
「いや、えっとなんでもねぇよ。つうか目的地着いたのなら、
さっさと入ろうぜ」
俺は、あわあわと困ったような声で言い放ちつつ。
目の前に見える、怪しい石造りの古代遺跡を下から上までじっくりと見れば。
それは遠く離れた異国の地の祭壇のようで…。
(あれ、この感じ…どこかで見たような気がする?)
と俺はそう思い。
独特なタッチで描かれた鳥の羽を頭につけた人物と、
髑髏の模様で構成されている祭壇の壁画をじっと見つめれば。
「なんだか…これ、アステカの神々を祀る祭壇みたいですね」と、
知らぬ間に俺の後ろに来ていた雪白が、静かにそう言うので。
「ああっ…!!そうだよ、これアステカ系だよ!!そうか、
そうだよな…だからどこかで見たような気がする訳だぜ。
だって、俺がよく行くテーマパークのテーマの一つだし」
「…成る程、確かに似ているな」
「だよな姫…ほんと、この前一緒に行ったから、
こいう感じの見ると…。あの時の事思い出すぜ」
俺は少し照れながら、紫士に向けてそう言えば。
「そうだね…あの時も、楽しかったよ…。
だって、まさか騎冬が…アレでアレだったとは思わなかったよ」
「兄さんそれ本当ですか?
…騎冬さんって実は隠れスケベ侍さんなんですか??」
「えっ…ちょっと姫雪白?勘違いしてない?俺違うよ、
スケベ侍じゃないよ!!」
俺はまさかの反応をしてしまった雪白に、
訂正するかのように言いながら。
ずっと放置しているクラスメイトの方に向かい。
畏怖感に溢れた、祭壇の入り口の中に一歩踏み込めば…。
身体にビリビリとした、静電気のようなものが一瞬走り。
「いてっ…」と小さく呟けば。
俺の後を追いかけるように入ってきた雪白が、
「ひゃああっ…!!」と痛みで叫ぶかのように、
長い黒髪を乱して言うので。
「姫雪白!!大丈夫かっ…!!」と俺は咄嗟に雪白の腕を掴んで、
安全を確保する為に俺の側にまで引き寄せれば…。
「三さん、私は大丈夫です…。
少し身体がビリビリしただけです」
「なっ…ビリビリしただけでもやばいって、
つうかここやばくね?俺もビリっときたし」
「ああ、確かにやばそうだね…ここは。
ほんと…私の騎冬と、雪白だけに危害を加えるなんて、
絶対に許さないよ」
俺たちよりさらに後に入ってきた紫士は、
怒りのこもった声で静かに言い放ちながら俺の方まで近づいてくるので。
「姫、そう怒るなよ…ちょっとビリビリしただけだし、
姫雪白も…そうだよね?」
「っ…はい、そうですね。ちょっとビリビリ、
ビリビリってきましたけど、雪白は強いのでもう大丈夫ですよ、
兄さん」
雪白はそう愛らしく笑って、怒る紫士に言うので。
「なら、良かった…本当に、本当に良かったよ」
「姫…その…心配かけてごめんな」
「別に、謝ることはないよ…。さて、
そんな事より前に進もうか…ずっと入り口に居ても解決しない事だしね」
紫士はそう仕切るように言いながら、俺たちよりさらに前に進んでいるであろうクラスメイトの後を追うべく。
少し急ぎ足でありながら、警戒も忘れないような歩みで…。
どこか不気味で、神聖さもある壁画が薄っすらと見える。
まさにホラーダンジョンのような石畳の回廊を、どんどん進んでいけば…。
突如、前の方から。
「ぎゃあああああああああああっ…!!!!!!」という叫び声と。
グゥルルルル、グゥルルルルという獰猛な獣のような声が、遠くにいる俺たちにも大きく聞こえてきたので。
「襲われてる!?なんとかしないと!!」
俺はそうどうにかしないといけないと言うかのように言いながら、持ってきた形見の日本刀を包んだ布から取り出して、焦りつつも綺麗に鞘から抜いて。
襲われているであろう、クラスメイトの方に全速力で向かおうとしたら…。
「騎冬駄目だよっ…!!行ったら駄目だ」
「はぁああっ…!!何言ってるんだよ姫っ!?
行かなかったら、あいつがっ…」
「それでも駄目だよ、騎冬もっと周りをよく見て。
ほら、よく見たら分かるよね…。壁画の絵が、
こっちをずっと狙うように見ているのを」
紫士はそう落ち着いた声音で言いながらも、この回廊に埋めつくされているジャガーの被り物をつけた戦士の絵に、危機感を感じた目を向けるので…。
「姫がそう言うのなら…わかったぜ」
「騎冬、それで良いよ。雪白も…これで良いと思うよね」
「兄さん…そうですね。
これで良かったと思います…ですが兄さん、
そんなにこの壁画の戦士さんに、
敵意剥き出しにしなくてもいいと思います」
雪白はそう優しく紫士に言うので、
(こんな緊迫的な状態なのに…姫雪白は、
何言ってるんだよ…!?どんだけ天然なんだよ)
と素っ頓狂な声で叫びそうになったのを、心の中だけにとどめて。
危機感を抱いているであろう、紫士の顔を見れば。
「ああっ…!!そうか、
お前は生まれつきどんな動物にも好かれて、
仲良く出来る才能の持ち主だったな…。
クソっ…私とした事が、そんな素晴らしい事すら失念するとは…」
「いえいえ兄さん、こいう時はそいう風になると思います…。
それに、こいう事をして人を困らす獣さんなんて、
雪白大嫌いです!!」と、
雪白は大きく、回廊の奥まで聞こえるような声でそう言えば。
こちらを鋭い眼差しで見ていた壁画達は、
一斉に元の視線に戻っていったので。
「姫雪白…すごっ…」
「うふふっ…私にかかればこんなものですよ。
さてと、残るのは悪い獣さんだけですね」
雪白はそう私にお任せあれっと言わんばかりに言いながら、クラスメイトが居るであろう場所へと、どんどん進んでいき。
そして、さらに大きな声で。
「悪い獣さん!!クラスメイトさんに悪戯したら、
本当に大嫌いになりますからね!!!」と可愛く宣告すれば…。
「雪白に、嫌われるのは嫌だ…。
クラスメイトという奴は、ちゃんと無事に返す…だが、
この森の外にだがな」と低く唸るような青年の声が、
どこからともなく聞こえてきたので。
俺は、
(何が起きてるんだよ、どいう事だよ…)
とそう慌てふためくように思いながら、
紫士と一緒に雪白の元へと向かえば。
「…さん」と雪白は小さくこの相手だと思われる人物の名前を、
俺が知らない言語で呟いていたので。
「姫雪白…それが、こいつの名前?」
と少し怒りを込めた声音で問えば、
「こいつじゃないです…。
この人は…私の命を助けてくれた大切な人なんです。だから、
こいつという、汚ねぇ言葉を使わないでくださいよ…三さん」
雪白は可愛らしい表情を見せながら、
今までにないぐらいのドスの聞いた声でそう返すので…。
「ああっ…!!ごめんなさい、ほんとごめんなさい」
「そう謝るなら、もう良いです。それに、
紫士兄さんがまた心配するので、こいうのはここまでにしましょう」
「ああ…是非ともそうしてもらいたいな雪白」と、
紫士は小さな声で言いながら、クラスメイトが居たであろう場所の地面を見ていたので。
俺も続いて、じっとそこを見れば…。
石畳の表面に赤黒い血のようなものが、ポタポタと落ちていたので。
(姫雪白がこの怪奇を止めてくれなかったら、
もっとやばかったのでは…)とそう考えながら、
額から冷や汗をかいて。
「これ…血だよな。あいつ…無事だといいな」と森の外に居るであろうクラスメイトに向けて言えば。
「きっと、大丈夫ですよ」
「そうだな雪白、
大丈夫で居てもらわないと逆に困るしね…」
「なんだよ姫たち…もう、
姫がそう宣告するなら俺もそう思うぜ。だから、
俺たちだけでさっさとこの謎を解決しよう!!」
俺は強く、勇ましく、何かに立ち向かうかのように言いながら、
この先の奥へ早く進むべく。
警戒を怠らない体勢のまま、走り出せば…。
「全く、騎冬も…雪白並みに動きたがりなんだから…」と、
どこか嬉しげに言う紫士が俺の後に続き。
その後を追うような形で雪白もついてくるので。
きっと後ろから見たら、
氷の大地の上を歩く皇帝ペンギン達の群れのように見えただろう…。
なんて、そんな事を頭の片隅で思いつつ。
回廊の奥にあった髑髏と人の手足が描かれた部屋の入口のような怪しい扉の前で、ピタリと足を止めれば…。
「これはまた怪しい扉だね」
と到着した紫士はそう言って、俺のすぐ側まで来てくれたので。
「だな…いかにも怪しいですよ、
ここから試練ありますよって感じするぜ」
「本当に試練の扉じゃないといいね」
紫士は願うように小さく、
俺にだけしか聞こえない声で言ってから。
まだ、ここにたどり着かない雪白の方を見て、
「雪白、あと少しだ頑張れ」
「兄さん分かりました…頑張りっ…」と雪白が言う前に、
突如、ゴゴゴゴゴゴゴという謎の地鳴りが起き、
その地鳴りと合わせたかのように黒い煙がこの回廊をもくもくと覆い始めたので。
「雪白っ…!!クソっ…なんでこんな事ばかり起きるんだよ!!」と、紫士は感情を剥き出したように、そう叫ぶので。
俺は初めて見る、その姿に強い衝撃を受けながらも…。
どんどん目の前を覆う黒い煙に、言い知れぬ怖さを覚えて。
『雪白大丈夫か?』という言葉さえも、
この謎めいた恐怖によって紡ぐ事も出来ず。
俺は震える手で刀をぎゅっと握る事しか出来なかった。
だが、そんな絶望した世界に…。
一筋の希望の光のような、雪白の。
「…兄さん、騎冬さん。私は大丈夫です!!むしろ、
ある意味ものすごく大丈夫になったかもしれないです」という、
いつも通りのふわもこボーイ満載の発言が、
黒い煙の中から聞こえてきたので。
「姫雪白っ…!!ほ、本当に大丈夫なのかよ?」
「はい、大丈夫ですよっ…騎冬さん。だから、
兄さんと一緒に先に進んで行ってくださいね。
私はこれを起こした悪い獣さんをポコポコドンドンするので」
「…ポコポコドンドンって、分かった雪白…。だが、
ほどほどに怪我しない程度にするんだぞ」
紫士は危機感すら無い雪白の言葉を聞いて、
そう仕方がないなと言う兄のように言いながら。
まだ震えてる俺の手をとって、強く引っ張るようにしながら…。
「騎冬進もう…雪白の優しさを無駄にしないように」と言ってから、俺の手を離して…。
目の前にある怪しい扉に、両手をかけて。
力強く、勇ましい騎士のように扉を開いて…。
「さあ行こう、姫の騎士さん」
「おお、行こうぜ姫!!俺は姫の騎士だから…どこでも行くぜ」
俺はそう勇気づける為に言ってくれたであろう紫士の言葉に、笑って返しながら。
扉の中へと入って行った…。
それはまさに、怪しいですと言わんばかりのものであり、どこか遠い異国の地の遺跡があるような雰囲気のものだったので。
俺はこの森に案内してくれているクラスメイトに、
「こんな場所いつからあったんだよ!!」と、
目をまん丸にするぐらいの驚いた声でそう問いかければ。
「それがな…突然としか言えないんだよ、
なんというか…突然現れたって感じ」
「まあ、それが本当なら…まさにお伽話みたいですね!!
皆さんでレッツファンタジーできちゃいますね」
「雪白…お前ここで、そいうふわふわした謎発言はやめないか」
雪白の今日はピクニックですねと言わんばかりの発言に、
紫士は困ったような顔と声音で呟くので。
「まあまあ、そう言うなよ…姫。
きっと姫雪白は俺たちを和ませようと思って、
ファンタジーみたいって言ってくれたと思うんだよね」
「うふふっ…三さんて、とっても気遣い上手さんなんですね。
その通りすぎて私嬉しいです」
「…全くお前たちときたら…いや、
こんな時だからこそそうしてくれているのだな」
紫士はそう言い捨てながら、俺たちのやり取りを呆れた顔で聞いているクラスメイトに。
「で、いつになったら着くのかな?」
と脅しをかけるように言えば。
「ちょっと、それめちゃくちゃ怖いんだけど!!
ああ、もう…もう着いたって!!」
「そうなんだね。なら、良かった」
「…あの姫、そいうのやめた方がいいよ」
「うん?騎冬、私に何か言った??」
紫士はとぼけたようにそう言いながら、俺の方を向いて言うので。
「いや、えっとなんでもねぇよ。つうか目的地着いたのなら、
さっさと入ろうぜ」
俺は、あわあわと困ったような声で言い放ちつつ。
目の前に見える、怪しい石造りの古代遺跡を下から上までじっくりと見れば。
それは遠く離れた異国の地の祭壇のようで…。
(あれ、この感じ…どこかで見たような気がする?)
と俺はそう思い。
独特なタッチで描かれた鳥の羽を頭につけた人物と、
髑髏の模様で構成されている祭壇の壁画をじっと見つめれば。
「なんだか…これ、アステカの神々を祀る祭壇みたいですね」と、
知らぬ間に俺の後ろに来ていた雪白が、静かにそう言うので。
「ああっ…!!そうだよ、これアステカ系だよ!!そうか、
そうだよな…だからどこかで見たような気がする訳だぜ。
だって、俺がよく行くテーマパークのテーマの一つだし」
「…成る程、確かに似ているな」
「だよな姫…ほんと、この前一緒に行ったから、
こいう感じの見ると…。あの時の事思い出すぜ」
俺は少し照れながら、紫士に向けてそう言えば。
「そうだね…あの時も、楽しかったよ…。
だって、まさか騎冬が…アレでアレだったとは思わなかったよ」
「兄さんそれ本当ですか?
…騎冬さんって実は隠れスケベ侍さんなんですか??」
「えっ…ちょっと姫雪白?勘違いしてない?俺違うよ、
スケベ侍じゃないよ!!」
俺はまさかの反応をしてしまった雪白に、
訂正するかのように言いながら。
ずっと放置しているクラスメイトの方に向かい。
畏怖感に溢れた、祭壇の入り口の中に一歩踏み込めば…。
身体にビリビリとした、静電気のようなものが一瞬走り。
「いてっ…」と小さく呟けば。
俺の後を追いかけるように入ってきた雪白が、
「ひゃああっ…!!」と痛みで叫ぶかのように、
長い黒髪を乱して言うので。
「姫雪白!!大丈夫かっ…!!」と俺は咄嗟に雪白の腕を掴んで、
安全を確保する為に俺の側にまで引き寄せれば…。
「三さん、私は大丈夫です…。
少し身体がビリビリしただけです」
「なっ…ビリビリしただけでもやばいって、
つうかここやばくね?俺もビリっときたし」
「ああ、確かにやばそうだね…ここは。
ほんと…私の騎冬と、雪白だけに危害を加えるなんて、
絶対に許さないよ」
俺たちよりさらに後に入ってきた紫士は、
怒りのこもった声で静かに言い放ちながら俺の方まで近づいてくるので。
「姫、そう怒るなよ…ちょっとビリビリしただけだし、
姫雪白も…そうだよね?」
「っ…はい、そうですね。ちょっとビリビリ、
ビリビリってきましたけど、雪白は強いのでもう大丈夫ですよ、
兄さん」
雪白はそう愛らしく笑って、怒る紫士に言うので。
「なら、良かった…本当に、本当に良かったよ」
「姫…その…心配かけてごめんな」
「別に、謝ることはないよ…。さて、
そんな事より前に進もうか…ずっと入り口に居ても解決しない事だしね」
紫士はそう仕切るように言いながら、俺たちよりさらに前に進んでいるであろうクラスメイトの後を追うべく。
少し急ぎ足でありながら、警戒も忘れないような歩みで…。
どこか不気味で、神聖さもある壁画が薄っすらと見える。
まさにホラーダンジョンのような石畳の回廊を、どんどん進んでいけば…。
突如、前の方から。
「ぎゃあああああああああああっ…!!!!!!」という叫び声と。
グゥルルルル、グゥルルルルという獰猛な獣のような声が、遠くにいる俺たちにも大きく聞こえてきたので。
「襲われてる!?なんとかしないと!!」
俺はそうどうにかしないといけないと言うかのように言いながら、持ってきた形見の日本刀を包んだ布から取り出して、焦りつつも綺麗に鞘から抜いて。
襲われているであろう、クラスメイトの方に全速力で向かおうとしたら…。
「騎冬駄目だよっ…!!行ったら駄目だ」
「はぁああっ…!!何言ってるんだよ姫っ!?
行かなかったら、あいつがっ…」
「それでも駄目だよ、騎冬もっと周りをよく見て。
ほら、よく見たら分かるよね…。壁画の絵が、
こっちをずっと狙うように見ているのを」
紫士はそう落ち着いた声音で言いながらも、この回廊に埋めつくされているジャガーの被り物をつけた戦士の絵に、危機感を感じた目を向けるので…。
「姫がそう言うのなら…わかったぜ」
「騎冬、それで良いよ。雪白も…これで良いと思うよね」
「兄さん…そうですね。
これで良かったと思います…ですが兄さん、
そんなにこの壁画の戦士さんに、
敵意剥き出しにしなくてもいいと思います」
雪白はそう優しく紫士に言うので、
(こんな緊迫的な状態なのに…姫雪白は、
何言ってるんだよ…!?どんだけ天然なんだよ)
と素っ頓狂な声で叫びそうになったのを、心の中だけにとどめて。
危機感を抱いているであろう、紫士の顔を見れば。
「ああっ…!!そうか、
お前は生まれつきどんな動物にも好かれて、
仲良く出来る才能の持ち主だったな…。
クソっ…私とした事が、そんな素晴らしい事すら失念するとは…」
「いえいえ兄さん、こいう時はそいう風になると思います…。
それに、こいう事をして人を困らす獣さんなんて、
雪白大嫌いです!!」と、
雪白は大きく、回廊の奥まで聞こえるような声でそう言えば。
こちらを鋭い眼差しで見ていた壁画達は、
一斉に元の視線に戻っていったので。
「姫雪白…すごっ…」
「うふふっ…私にかかればこんなものですよ。
さてと、残るのは悪い獣さんだけですね」
雪白はそう私にお任せあれっと言わんばかりに言いながら、クラスメイトが居るであろう場所へと、どんどん進んでいき。
そして、さらに大きな声で。
「悪い獣さん!!クラスメイトさんに悪戯したら、
本当に大嫌いになりますからね!!!」と可愛く宣告すれば…。
「雪白に、嫌われるのは嫌だ…。
クラスメイトという奴は、ちゃんと無事に返す…だが、
この森の外にだがな」と低く唸るような青年の声が、
どこからともなく聞こえてきたので。
俺は、
(何が起きてるんだよ、どいう事だよ…)
とそう慌てふためくように思いながら、
紫士と一緒に雪白の元へと向かえば。
「…さん」と雪白は小さくこの相手だと思われる人物の名前を、
俺が知らない言語で呟いていたので。
「姫雪白…それが、こいつの名前?」
と少し怒りを込めた声音で問えば、
「こいつじゃないです…。
この人は…私の命を助けてくれた大切な人なんです。だから、
こいつという、汚ねぇ言葉を使わないでくださいよ…三さん」
雪白は可愛らしい表情を見せながら、
今までにないぐらいのドスの聞いた声でそう返すので…。
「ああっ…!!ごめんなさい、ほんとごめんなさい」
「そう謝るなら、もう良いです。それに、
紫士兄さんがまた心配するので、こいうのはここまでにしましょう」
「ああ…是非ともそうしてもらいたいな雪白」と、
紫士は小さな声で言いながら、クラスメイトが居たであろう場所の地面を見ていたので。
俺も続いて、じっとそこを見れば…。
石畳の表面に赤黒い血のようなものが、ポタポタと落ちていたので。
(姫雪白がこの怪奇を止めてくれなかったら、
もっとやばかったのでは…)とそう考えながら、
額から冷や汗をかいて。
「これ…血だよな。あいつ…無事だといいな」と森の外に居るであろうクラスメイトに向けて言えば。
「きっと、大丈夫ですよ」
「そうだな雪白、
大丈夫で居てもらわないと逆に困るしね…」
「なんだよ姫たち…もう、
姫がそう宣告するなら俺もそう思うぜ。だから、
俺たちだけでさっさとこの謎を解決しよう!!」
俺は強く、勇ましく、何かに立ち向かうかのように言いながら、
この先の奥へ早く進むべく。
警戒を怠らない体勢のまま、走り出せば…。
「全く、騎冬も…雪白並みに動きたがりなんだから…」と、
どこか嬉しげに言う紫士が俺の後に続き。
その後を追うような形で雪白もついてくるので。
きっと後ろから見たら、
氷の大地の上を歩く皇帝ペンギン達の群れのように見えただろう…。
なんて、そんな事を頭の片隅で思いつつ。
回廊の奥にあった髑髏と人の手足が描かれた部屋の入口のような怪しい扉の前で、ピタリと足を止めれば…。
「これはまた怪しい扉だね」
と到着した紫士はそう言って、俺のすぐ側まで来てくれたので。
「だな…いかにも怪しいですよ、
ここから試練ありますよって感じするぜ」
「本当に試練の扉じゃないといいね」
紫士は願うように小さく、
俺にだけしか聞こえない声で言ってから。
まだ、ここにたどり着かない雪白の方を見て、
「雪白、あと少しだ頑張れ」
「兄さん分かりました…頑張りっ…」と雪白が言う前に、
突如、ゴゴゴゴゴゴゴという謎の地鳴りが起き、
その地鳴りと合わせたかのように黒い煙がこの回廊をもくもくと覆い始めたので。
「雪白っ…!!クソっ…なんでこんな事ばかり起きるんだよ!!」と、紫士は感情を剥き出したように、そう叫ぶので。
俺は初めて見る、その姿に強い衝撃を受けながらも…。
どんどん目の前を覆う黒い煙に、言い知れぬ怖さを覚えて。
『雪白大丈夫か?』という言葉さえも、
この謎めいた恐怖によって紡ぐ事も出来ず。
俺は震える手で刀をぎゅっと握る事しか出来なかった。
だが、そんな絶望した世界に…。
一筋の希望の光のような、雪白の。
「…兄さん、騎冬さん。私は大丈夫です!!むしろ、
ある意味ものすごく大丈夫になったかもしれないです」という、
いつも通りのふわもこボーイ満載の発言が、
黒い煙の中から聞こえてきたので。
「姫雪白っ…!!ほ、本当に大丈夫なのかよ?」
「はい、大丈夫ですよっ…騎冬さん。だから、
兄さんと一緒に先に進んで行ってくださいね。
私はこれを起こした悪い獣さんをポコポコドンドンするので」
「…ポコポコドンドンって、分かった雪白…。だが、
ほどほどに怪我しない程度にするんだぞ」
紫士は危機感すら無い雪白の言葉を聞いて、
そう仕方がないなと言う兄のように言いながら。
まだ震えてる俺の手をとって、強く引っ張るようにしながら…。
「騎冬進もう…雪白の優しさを無駄にしないように」と言ってから、俺の手を離して…。
目の前にある怪しい扉に、両手をかけて。
力強く、勇ましい騎士のように扉を開いて…。
「さあ行こう、姫の騎士さん」
「おお、行こうぜ姫!!俺は姫の騎士だから…どこでも行くぜ」
俺はそう勇気づける為に言ってくれたであろう紫士の言葉に、笑って返しながら。
扉の中へと入って行った…。