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短編集




『ここ………どこ…………』




一面真っ白な世界。地面も、空も、遠くも近くも全部真っ白。そこで感じるのは痛いほどの冷たい風がいろんな角度から突き刺している感覚。寒くて冷たくて不安になる。
思い出せるのは今自分は修学旅行で雪国へ来てスキーをしていたこと。しばらく初心者コースで滑っていたが慣れてきたため友達と中級者コースへと移動していた。だがそこから記憶が無くなっている。



『…………もしかして…はぐれた…?』



何かないかと何度も周りを見渡す。
さっきまで普通に滑っていたときはこんなに吹雪いていなかった。空は真っ青な快晴で寒さもマシな方だった。むしろ滑って運動していると少し暑かったくらいだ。
スキー板を外して立ち上がる。凍える自分の身体を抱きしながら歩く。
ザクッザクッと雪を踏みながら足を前へ出す。辺りは一面雪しかない。スキーのコースの中ではぐれたのなら歩いていれば何かしら見つかるはず。良くてコースを外れないように設置している柵を見つければそれを辿って帰れるはず。
震える足を1歩1歩進める度に身体が凍りつくような不安を覚える。更に身体が凍りつくようなことが起きる。




「……お兄ちゃん、はぐれたの?」



『……え?』




ふと後ろから細い声が聞こえた。
恐怖でゆっくりと振り返る。するとそこには小さな女の子が深めにニット帽を被って何故か服装は着物のようなものを着ていた。
おかしい。こんな吹雪の中着物を着た女の子が歩いているわけがない。
自分の中で出た結論は今までその存在を信じたことはないが「雪女」ってことしか出てこなかった。
それに気付いて一気に恐怖が膨らんで女の子に背を向けて走り出す。一心不乱に何も考えずただただ足を動かす。



「…………んっ!………………にい………お兄ちゃん!」



後ろから声が徐々に近付いてくる。
大人の自分でさえも雪の中を走るのは体力をどんどん奪われていくのに小さい女の子が追いつくくらい早く走れるわけがない。
もうそこまで声は近づいている。
無我夢中で追いつかれないことだけを祈って走り続けたが、深く積もった雪に足が埋もれて体のバランスを崩してしまった。
その衝撃で足を変な方へ捻って激痛が走りうめき声をあげながら雪に埋もれた足を引っ張りだす。
足を抱えながら後ろを振り返る。吹雪の視界が悪い中ぼんやりと少しずつ影が大きくなる。



『もう、無理か………。』



ズキズキと痛む足では逃げられない。
そうわかって涙がでてくる。こんなところで自分は死んでしまうのか、と悔やむ。
影がすぐ隣まで来た。
ぎゅっと目を瞑って来るであろう痛みを覚悟して歯を食いしばる。





「逃げて、逃げてお兄ちゃん」




上から降ってきた声に恐る恐る目を開いて上を見上げる。
真っ白な吹雪の中うっすらと見えた女の子はこちらをまっすぐ見据えている。ぼんやり見つめていると手首を小さい手に掴まれて引っ張られる。
どうやら自分はここでは死なないらしい。なんなら逃げろと言われている。
頭の思考を少しずつ回転させながらふらふらと立ち上がる。
彼女のことで思考が奪われてたため足に力を入れた瞬間に激痛が走った。



『い…、っつ…。』


「た、たいへん…足怪我してしまったの…!」



彼女が自分の足元に座り込む。
そして自分を背負うかのように腕を掴んで支えてくれた。小さい身体で必死に支えてゆっくりと歩き出す。



「も、もすこしでほら穴があるから…少しだけ、頑張って…」


ずりずりと引きずられるように背負われながら歩く。激痛は酷くなり常にズキズキと痛みが増している。
体は冷え切りながらも妙な暑さが襲ってくる。息遣いが荒くなり目が虚ろになる。思考はまだなんとか保ててはいるがいつ途切れてもおかしくはない。
彼女もどんどん力が入らなくなる自分の体重を支えきれなくなっていた。時折立ち止まっては背負い直したり足元がふらつく。



「……あっ、お兄ちゃん、あそこ!あそこに行けば…大丈夫…」



目的地であろう場所を真っ直ぐと見つめて自分を背負い直す。
彼女ももう息を荒くして疲弊しきっている。
最後の力を振り絞って彼女は進む。
そして雪崩れるようにほら穴へと倒れ込んだ。息をゼェゼェと吐いて彼女は座り込んでいる。
自分は仰向けになって息を整える。チラッと彼女を見ると吹雪いてた中では見えなかった彼女の姿がよく見えた。
よく見ると彼女には足がなかった。そしてなぜか帽子から繋がっている紐が手のように動いていた。
しかし思考が完全に回っていない自分にはもう問い詰める元気も残ってはいなかった。
ただ彼女が近寄って心配そうにこちらを見ている姿をぼーっと眺めるように見つめることしかできなかった。
彼女は息を整えて落ち着いた頃に自分の肩を掴んでほら穴の奥へと運んでいった。
寒さと吹雪はマシになり、奥に置いてあった綿らしきものが寄せ集められたベッドに寝かされた。また自分の顔をのぞき込んで手を自分の額へと当てた。冷たくて気持ちがいい。



「………っ。」



額へ手を当てた彼女は痛そうに顔をゆがめた。手をもう片方の手で包んでそそくさと自分の足元へと移動した。そして移動した彼女は手馴れたように自分の靴を脱がし、ズボンをぐいぐいとまくりあげた。捲り上げるたびに捻挫した部分に激痛が走り、足がビクビク痙攣する。捻挫をした部分は大きく腫れ上がり痛みでまだ痙攣している。
彼女は不安げにそれを見つめてふっと息を吹く。その息は冷たく腫れた部分が冷やされている。
ひとしきり冷やし、少し赤みが引いた頃彼女はそっと手を添える。また冷たくて気持ちがいい。少し痛むがだいぶマシになったと思う。
彼女が処置をしてくれていることで身体的に楽になり、意識がすっと消えていった。




【ユキメノコ】冷たいけど暖かいね(後編)





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