Turn Your Love Around
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良牙はうるさいくらい脈打つ心臓を収める事に精一杯だった。
好きな女の子が水着姿で目の前にいて、手を握ってくれて、おまけにここは人気のまったくない仄暗い場所ときた。
まともに相手の顔も見れないくらい照れて耳まで染め上がった良牙に名前は当然むっとする、またこの期に及んで後ろめたい事があるのかと勘違いしているようだ。
「ちっ、ちがうんですっ」良牙はおとなしく手を名前に握られたまま、もじもじする。
「その、おれ…今だと、なんかしちゃいそうで…」
「はあっ?」
なんかとはなんだ、名前はちらりと自分の姿を見やった、少し砂利でうす汚れてしまった白色のホルターネックビキニ。
『なんかしちゃう』とは要するにそういう事だ、名前はその意図がわかると同じように顔を真っ赤にした。
「えっ、あの…」
名前はパッと良牙の大きな手から両手を離した、それから少しだけ体を離す、随分と気まずい沈黙だった。
だけど…と名前は思い直す、考えてみればデートをしてみたり、手を繋いだり、いつも手紙をくれたり、会う日を楽しみにしたり、今まで彼がしてくれたことすべてを嫌だと思った事なんてひとつもない。
それよりむしろ、ほんの少しだけもどかしさを感じるくらいだ、だって彼は名前にキスされたと勘違いしているくせして、それ以上のことを求めようとしないんだから。
「…あの、いいよ」
えっ、と今度は良牙が驚く番だった。
名前は体が熱くなるのを感じながら、一体どうして全部言わせるつもりなんだ、とやけになってしまいそうになった。
「なにか、しちゃっても…」
「なっ、な、なあ…っ!」
ぼん!と確実に良牙の頭から爆発音が聞こえた、少し恨みがましく見つめる名前を茹で蛸みたいに赤い顔で見て、ごくりと喉を鳴らす。
「ほっ、ほんとにいいのかいっ?」
「…うん…」
「ほんとのほんとに!?」
「いいってばあっ!」
しつこいな、と喧嘩腰になる前に良牙の汗ばんだ両手ががしりと名前の両肩を捉えた。
お互い赤い顔のまま向かい合う、じりじりと距離を縮めていけば、それぞれの息がかかりそうなくらい近くなった。
心なしか良牙の吐息は熱く荒い、ここに来てようやく名前は彼が「男」であることを思い知らされるような気がした。
じんわりと手汗が触れた肩に滲んでいく、湿っぽい感触にまた心臓がうるさくなる。
良牙の指がビキニの紐に触れて、意図もせずそのままするりと入り込む。
「名前、さん…」
熱っぽい言い方だった、くらりと目眩がする。
どうしよう、このままキスされたら、たぶん…。
目をぎゅっとつむった、途端に今日一番の大波がざぶん!と大きな音を立てて思い切り岩肌にぶつかった、そのまま2人は飲まれた。
「………」
「ぶっ、ぶいぃ…っ」
水着を濡らして呆気にとられる少女と、悔し涙を流す子ブタの姿がそこにはあった。
時刻は夜、あんなに賑やかだった海水浴場は閑散として、さざ波の緩やかな音とうみねこの声だけが聞こえる。
それからバチバチと跳ね上がる花火の音と、もうもうと上がった煙
が海風に乗ってふんわりと溶けていった。
「まさかPちゃんまで来てたなんてね」
火の灯った線香花火を手にするあかねが、名前に抱かれたペットの子ブタを見ながら言った、「きっと大好きな名前ちゃんに会いたくて、荷物に紛れて来ちゃったのね」、Pちゃんは少し照れながら「ぶいっ」と返事をした。
「それにしても良牙くん、どこに行っちゃったのかしら」
「ほんま、大好きな彼女を置いて、甲斐性のないやっちゃ」
「…さーな」
らんまはじっとりとした目で子ブタを見やった、ほんとの事は隠しておいてやろう、友人としてのせめてもの情けだ。
名前は目の前でしゅわしゅわと弾けている花火を見つめていた、Pちゃん…ではなく良牙は花火に照らされた彼女の顔をじっと見上げる、その視線に気づいた名前と目が合う。
「良牙くん」
バチバチ弾ける花火の音に紛れていても、豚の耳にはその僅かな囁き声もよく聞こえる。
「また今度だね」
そう言われるなり、子ブタのPちゃんは鼻血を流して目を回した、あかねが驚いて、慌てて抱き上げた。
「きっと暑かったから、のぼせちゃったんだわ!」そう焦るあかねにらんまはまた冷ややかな目をして「なにを想像したんだ、スケベな豚め…」と罵った。
別にそういう意味で言った訳じゃないんだけど、ただ「また今度一緒に遊ぼうね」というつもりだったのに…と名前は目の前の騒動を見ながらポツリと思う。
でも、今度こそは、そういう時になったら…。
名前は段々と赤くなってくる自分の顔を誤魔化すみたいに、まだ燃え切っていない花火を早々にバケツの水に突っ込んだ。
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