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それは名前が日本に帰国して風林館高校に転校する1ヶ月前、呪泉郷に日本人観光客向けのツアー開設を計画していた会社からの出向命令で滞在していた父親に対し、本社からようやく帰国命令がきた。
彼女ら家族が日本に帰れるのも、勝手に泉に落っこちて、勝手に子ブタになってくれた名も知れない青年のおかげだ、でも残念なことに彼は「あの夜」以来、こつぜんと滞在先のコテージから姿を消してしまったのだ。
せめてきっかけを与えてくれたお礼だけでもしたいと母親は言っていたが、名前も聞き出せなくなった原因は自分だとわかっている。
彼が挨拶もなく去って行った後の部屋には書き置きがあった、それを見つけたのはもちろん名前だ。
その書き置きには当然名前は書いていない、何度も言葉を考えあぐねて導き出した様な丁寧な書き方で『おれは君にはふさわしくない。おれは孤独にさすらう狼みたいな男だ』なんて言葉に、お前は子ブタだろうと突っ込んでしまう。
名前はもう一度自分の片手を狐の形にして、指先をじーっと見つめた、「こんなのに引っかかるなんて、小学生くらいだって思ってた」なんて呟きながら、自分の唇にくっつけてみた。
「…これって間接キスって言うんだろーか」
そして今、そんな単純ないたずらに引っかかった男のうち1人が目の前にいるのである。
この早乙女乱馬という青年は名前自身を体育倉庫に閉じ込めるに至った言い訳をずーっと勝手に喋り立てる、自分の意図しない所で恨みを買ったり、許嫁がいたりとトラブル続きだそうだ。
ふうん、と他人行儀に彼の話を聞いてしまうのは離れていた期間が長かったからだろうか、それとも決して自分たちの過去について一切話題に出そうとしないからだろうか。
まあ、いいか…ただの子供のイタズラなわけだし。
「それにしても、まさか乱馬くんも中国にいたなんてね。もしかしたらどこかで会ってたのかな」
「い、いや…俺は親父の修行で無理やり連れてかれただけで…」
「ふふ、私もお父さんの仕事でついていったの」
それとなく会話を続けていくと、お互いに少しだけ調子が出てきて、そうなってくると名前の胸にいたずら心がふつふつと湧いてくる。
「そういえばね乱馬くん、知ってる?中国には呪いのスポットがあるの」
「…呪い?」
「そう!中国のずーっと山奥にはヘンな泉があってね、そこに落ちると…」
「………」
「子ブタになっちゃうの!」
お互いになんとも気まずい沈黙が走った、そりゃあそうか、こんな子供だましみたいな話はもう通用しないか。
「…名前、おめえ…呪泉郷に行ってたのかよ…」
「え?」
名前はどきりとした。
当然それは乱馬も同じだ、そしてなぜだか途端に目の前の彼女が一気に自分の近くに寄ってきたような気分がして、胸が高まる。
今だったら言える気がした、ごくりと生唾を呑み込んで、声を震わせまいと必死にこらえた。
「なあ…あの時のさ…」
約束覚えてるか?
そう唇が象った瞬間、暗いはずの体育倉庫に光が差し込んできた、とてつもない轟音とともに。
恐る恐る振り返ると、そこにはとてつもない形相をした乱馬の『現・許嫁様』が倉庫の鉄扉を両手にして立っていたのだった。
名前がようやく刺激的な学園生活1日目を終えて家に帰ると、父親が珍しく仕事を早々と終えて居間にいた。
キッチンで食事の準備をしている母親が「初めての学校はどうだった?」と聞いてきたので、「う〜ん」となんとも捉えがたい返事で返した。
襟がキュッと詰まるような制服から早く着替えたいと自室に戻り、まだじゅうぶん糊の効いたブラウスのボタンを外しながら、名前はふと自分のベッドを見つめる。
ベッドフレームの下に出来た隙間に手を差し入れると、指先に何かが触れた、遠い昔に父が出張先の海外でお土産に買ってくれた小洒落たお菓子の空き缶。
蓋のつなぎ目は少し錆びてしまっている、丁寧にゆっくりと開けると、その中身はお菓子でもなんでもなく、色焼けた小さな封筒がいくつも入っていた。
その中に手を突っ込んで、ずっと奥底にある角が変に丸くなった一つの折り紙を見つけた、折り紙と言ってもノートの切れっ端がコンパクトに畳まれているだけで、なんの飾り気もない。
感触を確かめるみたいに切れっ端を開いていく、とても綺麗とは言えない大胆な筆跡が、名前の頬を緩ませた。
「…ふふ」
『さおとめらんま』と平仮名で書かれた名前に、嬉しさを覚える。
親の転勤ばかりであまり友達も出来なかった子供時代、唯一彼だけが同じような境遇で特別仲良くなった。
こんな形で再会するとも当然思わなかったし、まさか彼が中国の呪泉郷の話を知っていたなんて、次々と共通点を見出しては嬉しくなっていく。
「…ん?呪泉郷…?」
そう言えば、早乙女乱馬はつい最近に中国まで父親に連れられて修行に行ったと言っていた、思えば名前たち家族が呪泉郷に行った時、現地のガイドはそこを『修行場』だと言い、あの子ブタくんが来る前には日本人親子が修行のためにやってきたと言っていたような…。
そして『子ブタくん』は、彼らの後を追ってやって来たと言っていた。
ということは、つまり。
「子ブタくんって、乱馬くんの知り合い?」