Turn Your Love Around
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季節は夏、窓の外では暑苦しい蝉が季節を謳歌している。
教師の授業なんて聞いてられないくらい暑い、窓を開けていても暑い、名前はひっそりとブラウスの首元ボタンを開けた。
ようやく暑さに耐えて授業が終わると、右京が乱馬とあかね、それから名前を教室の隅に集めてニコニコとご機嫌な笑顔で「なあ、みんなで海行かへん?」と提案した。
あかねは「右京が海に誘うなんて、めずらしいじゃない」と言うと、「今は休戦、みんなで夏満喫しよーや」とピースサイン。
乱馬は涼しくなるならなんでもいいや、と投げやりな様子だ。
「名前ちゃんも、かわいー水着用意してきてや、もっちろん、良牙も呼んで!」
そう右京に誘われた2日後のこと、苗字家には一通の手紙が届いた、差出人は察しの通り。
内容はいつものようにどこに旅をして何をしているか、最近は暑いので涼しい山道を目指して歩いていたが、なぜか沿岸沿いばかりを歩かされ、神奈川の逗子海岸で新鮮な生しらすを食べた…とか。
「ただの旅行じゃないの」そう突っ込まずにはいられない、うちわで扇ぎながら、学生の身である名前には羨ましいほかなかった。
ついでに今週末には町に戻れる…かも知れない、と書いていた、自信のなさからか心なしかその文面だけ他の文字よりも小さい。
そしてついにやってきた待望の海水浴の日、名前たちは夏を満喫すべく水着に着替えてさっそく海に…とはいかなかった。
「さーさー、みんな気張っていくでぇっ」
「…こんなこったろーと思ったよ」
ぎらぎらした太陽、熱い鉄板、湧き上がる湯気。
どれひとつ取っても涼しげなものなんてなかった。
先に右京が待っているといった海水浴場に3人が来てみれば、すでにそこには『お好み焼きうっちゃん』の屋台が出来上がっており、とうの右京は仕込みをしながら笑顔で手を振っていた。
海水浴の夏、商売の夏、こういうところではなぜかこういう暑苦しい焼きそばやお好み焼き、粉ものがよく売れる。
つまり3人に可愛い水着で来いと言うのは、「可愛い水着で売り子をしてくれ」という意味なのである、ついでに良牙を連れてこいというのは「人手はいくらあってもいい」ということだ。
そして右京の目論見は当たった、今やこの屋台は定番の浜茶屋なんかよりも長蛇の列で賑わっている。
お好み焼きが美味しいからなのかそれとも看板娘たちが可愛いからなのか、理由はどちらにしても正午過ぎをピークに売り上げはバンバン上がった。
ところがこの真夏の炎天下、鉄板近くで男どもに媚を売るのはさすがに疲れるのである、女の姿で女ものの水着を着るらんまは「あちーよ、これじゃぜんぜん涼しくねぇ!」とついに喚き始めた。
「そうやなあ、もうピーク過ぎたし、みんな泳いでってええよ」
「よっしゃー!」
「あっ、ちょっと…名前ちゃんはどうするの?」
名前は飲みかけの冷えたラムネから唇を離して、「私は店番してる」と答えた。
なんとなく、遠ざかっていく2人の背中が羨ましくてずっと眺めていた、それに気づいた右京が「遠距離恋愛ってやつやねぇ」としんみり呟く。
「会いたい時に会えへんし、ましてやあの良牙や、待ち合わせ場所にもまともに来ーへんし…。せめて乱ちゃんくらいの甲斐性があったらなぁ」
「………」
乱馬に甲斐性があるとは微塵も思えないのだが…。
そんな言葉もついうっかり飲み込んだ、「まあ落ち込まんと、せっかくやし楽しもうや」と出来立てのお好み焼きを差し出されてしまっては。
一方、らんまとあかねは一目散に波打際に向かっていた。
潮の香りとざぷんと揺れる波、鉄板近くで火照った体には足に流れる波の名残の海水ですら心地よく感じる。
さあ入るぞ、というタイミングであかねが「あっ!」と大声を上げた、らんまは釣られて声の方向に視線をそらしてしまった。
「良牙くん!」
「あっ、あかねさん…と、らんま」
印象的な黄色と黒のモザイク模様のバンダナ、それからよく見える八重歯、間違いなく響良牙そのものだ。
いつもの暑苦しい服装とは打って変わり、タンクトップに短パンと随分な夏の装いである。
「良牙くんも海水浴に来てたのね」
「結構なご身分だよなあ、おめーこんな水場にきていいのかよ」
良牙はムッとする、「遊びに来たわけじゃねえ!」と一喝した、確かにそう言われてみればどうもおかしな格好だった。
服装こそ海らしい出で立ちだが、その片手には火ばさみとゴミ袋ととてもじゃないが海を満喫する装備ではない。
しかもゴミ袋の中には使い終わった割り箸だビニールだ空き缶だ…果てにはくたくたのビキニまで入っている。
「海水浴場のゴミ拾い?」
らんまとあかねは同時に言った、良牙は遠い目をして「話せば長くなる…」と続けた。
遡ること約一週間前、良牙は孤高にさまよい、とうとう逗子海岸に辿り着いた。
茹だるような暑さもさることながら、飲まず食わずで旅を続けていた良牙は1軒の浜茶屋を訪れた、そこで何か食べ物を食べようと思い店主におすすめをきくと名産物だという「生しらす丼」を勧められた。
なので迷うことなくそれを注文した、すごく旨かった、なんなら2杯食べた。
さあ会計だというところで店主に値段を聞いた、「2杯で4,800円です」…良牙には手持ちがなかった、なので仕方なく皿洗いをしてその分をチャラにしてもらう約束をした。
ところが力の加減がわからない良牙は洗えと言われた皿を割るわ砕くわ、逆に負債が増えていってしまった結果、海水浴場の清掃アルバイトをするに至ったのだった。
このバイトを始めて数日、初めは海水の波にさらわれてしまい何度も苦労したが、今では波を避ける技術も会得し、無事続けられているのである。
「わかるわ、あたしも泳ぐの得意じゃないもの!」
「あかねさん…わかってくれて嬉しいよ…っ」
あかねは良牙を同じカナヅチ同士だと思っているらしい、らんまはさめざめした目で2人を見ていた。
「そういえば、今日は右京と名前ちゃんの4人できたのよ」
「…げっ」
そう言うと、およそガールフレンドにするような態度ではない言い方をする。
「なんだよ、名前がいちゃまずかったのかよ」
「い、いや…その」
良牙には後ろめたいことがある、ひとつは彼女との約束をすっぽかして未だ負債(しらす丼の分と割った皿の分)をなくす為にこの海水浴場で働いていること、それからもうひとつ。
良牙がおどおどしていると、後ろから「ねえ、おにいさーんっ」と黄色い声が聞こえてきた。
「はっ、はい!」と良牙は振り向く、そこには今時流行りのハイレグカットの水着を着たギャル2人組がいた。
「きゃあっ、おにーさんハンサム!」
「ねえ、これ捨ててくれなーい?」
「いやぁっ、ハハハ、もちろんっ!」
らんまとあかね、2人はだらしなく鼻の下を伸ばしてニヤつきながらギャルの空き缶や食べ散らかしたパッケージをゴミ袋のなかに自らひょいひょい入れていく様を見たのである。
そう、これこそがもうひとつの理由、こんなに女の子にモテてしまっている自分を見られてしまっては、名前がなんて思うことか。
「あれってゴミ捨て頼まれてるだけなんじゃ…」
「つくづくめでたいやつだな、おめーは…」
響良牙16才、この夏ついにモテ期到来。
そんな幸せを噛み締めている様子の良牙に、らんまとあかねは気にせず海水浴を楽しむことにした。