Turn Your Love Around
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「名前さん、こっちに!」
名前は良牙に手を引かれた、思えばこうなる前にやたらと鼻をひくひくしていた気がする、長い山籠りで手に入れた能力なのか、それとも『体質』ゆえに天気に敏感になっているだけなのだろうか。
雨だれがぽつりぽつりと少しずつ、だけど確実に2人の体を濡らしていく、このままではせっかくのデートも台無しになってしまう、まだ話し足りないこともたくさんあるのに。
そう思いながら名前は体が徐々に濡れていくのに、少し諦めたような気持ちを悟りながら、それでもぎゅっと握りしめてくれる手のぬくもりに少しほっとした。
「ここにいましょう」とようやく店の軒先にあるテントに2人で体を寄せた、そう『体を寄せた』。
「ふう、せっかくの洋服も濡れちゃいましたね」
「り、良牙くん…からだ…」
「ん?ああ、ぼくのことは気にしないで、慣れてますから!」
そういうことではなくて、服も濡れているのに、どうして変身してないんだ。
「な、治ったの?」
「えっ、ああ、指ですか?じんじん痛みますけど、平気です!」
会話になっていない、そういうことじゃなくて…。
名前はどうしよう、と困惑した頭でもうデートどころじゃなくなってきた、良牙は「きっと通り雨ですから心配しないで、まだデートはできますっ」と随分ポジティブになっていた。
もしや実はこの数日間、自分に内緒で中国に渡って呪泉郷を訪れていたんだろうか、そして白々しくも「自分はもともとブタなんかじゃありませんよ」とそんな風に振る舞うつもりでいるんだろうか。
それならそれでいいけれど、だけど…そうだとしたら、さっき暴れていた子ブタはなんなんだ?
名前が抱いた大きな疑問は、すでに大雨に降られて女となってしまったらんまも、今引っ掴んでいる子ブタを見ながら考えていた。
「なんで水に濡れたのに、ブタになんねぇんだ…」
同じく、子ブタはぶきぶき唸りながら2人の様子を不満げに眺めていた。
こうなりゃ確かめるしかない、らんまはPちゃんを連れたまま、あかねに「あいつら目離すなよ!」と言うとまったく反対方向に走り出してしまう。
一体どこに行こうって言うんだ、あかねが聞くとらんまは「ひとっぷろ浴びてくる!」とどうも呑気なことを言っていた。
良牙の言った通り、この大雨はただの通り雨だったようで、しばらくしつこいくらいにざあざあと降ったかと思えば、あっという間に晴れ間に変わった。
「やっとデート再開できますね」ニコニコと良牙が笑う、名前はどきりとした、「じゃあぼくについてきてください」と言うとさらりと手を握ってきた。
続いて良牙がターゲットにしたのはいかにもアフターファイブな社会人カップルだった、お互いスーツを着こなした大人の雰囲気たっぷりなその辺の青春真っ盛りなカップルとは違う。
甘酸っぱい恋愛を楽しむように手を繋いだり肩を寄せたりもしない、さっぱりとした余裕のある佇まいだった。
こんな2人は喫茶店や公園なんかで時間は潰さない、じゃあどこに行くんだろうか。
一方、らんまは女の身であるにもかかわらず、一目散に男湯に入るといきなり広い浴槽にブタを投げた。
ぽちゃん、という小気味いい音がやがてぶくぶくと泡を立て、ざばりと大きな音を立てて大きな人影が這い上がってきた。
「ぜぇったいに許さん!!」
それは浴槽に落としたことだろうか、それとも別のことだろうか。
湯に沈んでいたはずの子ブタはあっという間に男もとい響良牙そのものになっていた。
「んん〜?」とらんまは顎に指をなぞらせて首を傾げる、「じゃあ、あのおめーはなんなんだ?」そう言われても「知らん!!」と言うほかない。
ともかく、あの良牙の成りすましを突き詰めなくては、らんまも浴槽にそのまま身を沈めると、すぐに男の体に戻り、急いで銭湯を後にするのだった。
そして1人残され、尾行を任されていたあかねは焦っていた。
良牙と名前はみるみるうちに区内でも有数の『ホテル街』に歩みを進めている。
それを知ってか知らずか、良牙はずんずんと、迷いもなく、確信を持っているかのように名前の手を引いて歩いた。
徐々に見えてくる独特な色と文字使いをしたネオン看板たちに、名前は「ちょっと!」とさすがに声を上げる。
「ど、どこに行くつもりなの!?」
「どこって…今日はデートですよね?」
「そ、それは…そう、かも知れないけど…」
良牙はきょとんとした、そしてハッと目を離してしまった社会人カップルの姿を探す、ようやく視界に捉えた彼らはすぐ角を曲がって建物の中に入っていった、のれんのような物がぶら下がった、特徴的な門をくぐって…。
「ちょ、ちょっとちょっとぉ!」
さすがに名前は良牙の手を反対方向にぐっと引いた。
「どうしたんですか、名前さんっ」
どうしたもこうしたもあるかい、初のデートで『ラブホテル』に入ろうとする学生カップルなんてどこの世界にいるんだ!
「ぼくたちカップルですよ、カップルらしいことしなきゃいけないじゃないですか!」とやたら使命感を燃やしたような言い方をしてくる、名前は懸命に良牙の腕を引っ張ってどうにかラブホテルから遠ざけようとする。
だが男の腕力には当然敵わない、このままでは行きずりのまま『そういう関係』になってしまう、響良牙という男は普段純情で真面目なふりをして、いざ心を通わせてみたらこんなに下心をむき出しにしてくるような男だったのか…と名前はちょっぴり後悔しそうになった…が。
「こンのやろぉおお!!」
バキ!と痛快な音とともに、名前の手がふっと軽くなった。
思わず尻餅をついてしまい、どしんと衝撃が腰に響くのを我慢しながらハッと視線を上にあげると、そこにはなんと良牙が2人もいたのだった。