Turn Your Love Around
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
実を言うと、乱馬には納得していないことがひとつだけある、それは今朝のことまで遡る。
昨夜は嵐のような大雨だったようで、天道家の敷地内には水たまりができ、屋根の軒先から雨水のしずくがぽたぽた落ちていた。
そんな天気とは打って変わって快晴だった今朝、乱馬は眩しい朝日を浴びながら縁側でぼけっと歯を磨いていた。
すると縁側から見える池の横に置かれた灯篭のあたりに黒くぐっしょりした塊があるのを見つけた、気になって近づいてみると、日頃あかねが『Pちゃん』と呼んで可愛がっている子ブタが泥まみれで気絶している。
そのPちゃんは天道家が朝食を終え、食後のゆったりとした時間を過ごし、昼食を食べ、しばらくしてかすみが乱馬たちにお使いを頼んで出掛けるまでの間、ずっと居間で気絶していたのである。
だから目の前で良牙が名前とデートなんてしているはずがないのだ。
「ねえやめなさいよこんなの、趣味悪いわ」
あかねはそう言いながら、ちゃっかりと乱馬の隣で木陰に隠れながら森林公園のベンチに座っている良牙と名前のデートを盗み見ていた。
2人は座ったまま、会話を交わすことなく、俯いてじっと自分のつま先を見ている、端から見えれば初々しいカップルだ。
一方で名前はどこか良牙の違和感に気づき始めている、目の前のカップルの男性がベンチに置かれた女性の手にそっと自分の手を重ね、そのままぎゅっと握る。
すると良牙も名前の手に自分の手を重ねて、ぎゅっと握った。
なんだか恥ずかしい、きっと向こうも緊張しているのだろう、手に取るように分かるとこっちまでつられてしまいそうだ。
「あの、良牙くん…」
何か話さないと、例えば手紙に書いてくれてたこととか、一体どこに旅していたのとか、旅先で食べた名産物の話とか。
目の前のカップルは手を繋ぐだけに飽き足らず、さらには肩を寄せて、見つめ合って、それから目を閉じて…。
「名前さん」不意に呼ばれてぎくりとした、振り向くと真剣な顔をした良牙とばっちり目が合う、まさかそんなことまで真似しようというのか、だとしたら。
ごくりと唾を呑み込んだ、名前も目を閉じようとした、がしかし。
「ぶきぃいいいいー!!」
「うぎゃああ!!」
何かの黒いまるっとした物体が雄叫びをあげて良牙の顔に突っ込んできた、名前は驚いて体を引き離してしまった。
ボールにも似たそれは地面に落ちると正体を現す、怒りを露わにした黒い子ブタ。
「ん!?」
「いたたた…だっ、大丈夫ですか名前さんっ!」
名前は良牙と子ブタを交互に見た、子ブタの首にはよく見知ったバンダナがある、そして額をさする良牙のそこにもバンダナが巻かれている。
子ブタは何か文句を言いたいようである、ぶきぶきと鳴いているだけで分からなかったが、良牙はその子ブタの姿を見るなり「げっ、昨日の…」と言いかけて、ハッと名前の存在に気づくと慌ててにんまりした。
「かっ、可愛い子ブタちゃんだね〜、よしよし」
良牙の差し出した指先を子ブタはがぶりと噛んだ。
「いたたたたっ!」
「ちょっとPちゃん!」
木陰から見ていたあかねが飛び出し、「デートの邪魔しちゃダメでしょ!」と子ブタを叱りつけながら拾い上げて胸に抱いた、当然子ブタは暴れている。
良牙は子ブタに噛まれた指先を涙目でさすりながら、まったくもう、とぶつぶつ文句を言っていた、名前はなんとなく「良牙くんにそっくりな子ブタくんだったね」と冗談に言ってみると、良牙は「ぼくはもっとハンサムですよっ!」とまったく辻褄の合わない返答をしてきた。
一連の騒動を見て、乱馬はいまだあかねの胸でじたばた暴れる子ブタのPちゃんと目の前で名前と一緒にいる良牙を何度も見た。
やっぱりおかしい、絶対にありえない。
「Pちゃんったら、暴れちゃだめよ。よっぽど名前ちゃんのことが好きなのね」
それはそうだろう、「だけど名前ちゃんは良牙くんのものだからダメよ」…それはどうだか。
暴れる子ブタを一生懸命にあかねがあやしているうちに、さっきまで晴れていた空は急に重苦しく暗い雲が茂って、遠くの方からゴロゴロと聞こえてきた。
そしてぽつ、ぽつと音がして、なにかが乱馬の服に大きく広いシミを作ったのである。
乱馬ははっとした、ベンチに座っているはずの名前と良牙はすでに腰を上げてどこかに移動しようとしている、乱馬は慌ててあかねの胸に抱かれているPちゃんを引っ掴んで、「追いかけるぞ!」とついでにあかねの腕を引いて走り出した。