Turn Your Love Around
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名前はいつまで経っても現れることのない良牙に溜息を吐いて、もうここを去ろうかとも考えた。
いい加減履きなれないミュールのつま先がじんわりと痛い、よく見ればワンピースの裾も糸が解れている、ちょうど帰る理由ができた。
座りっぱなしのベンチから重たい腰をあげると、「おーい」と遠くの方で誰かが呼ぶのが聞こえてくる。
「名前さーん!」
「良牙くん!」
遅れたことを微塵も悪いと思っていなさそうな屈託のない笑顔で良牙が走り寄ってきた。
「お待たせしました、名前さんっ!さあ、どこに行きましょうか!」
名前は何か言ってやりたい気持ちになったが、あんまりにも嬉しそうな笑顔で見てくるので、何にも文句が言えなくなってしまった。
とは言っても何をしよう、異性と2人で出掛けるのは初めての事だったので、名前は思い浮かばなかった。
すると良牙は周りをきょろきょろ見渡して、自分たち以外のカップルが待ち合わせをして行く先を追いかけた、「ついてきてください!」と名前に言うと、尾行するみたいにカップルの後を追って近くの喫茶店に入る。
香ばしい匂いや甘い匂いが店内に充満している、良牙の腹がぐううと鳴った、「そういえば、お腹空きましたね」と照れ笑いをして2人はカップルシートに向かい合って座った。
写真のついたメニュー表に齧り付くように見る良牙、名前はサンドイッチのプレートを頼むことにした、「良牙くんは何食べるの?」と尋ねる。
「ぼ、ぼくはこれがいいです!」
「…良牙くん、これは『お子様ランチ』だから、私たちは頼めないよ…」
「えっ、あ、あはは…じゃあ、名前さんと同じものがいいです…」
良牙は幸せそうにサンドイッチを頬張っていた、ニコニコと笑顔で、「こんなにおいしいもの、生まれて初めて食べました!」と喜んでいた。
名前はアイスカフェオレをストローでかき混ぜながら、この人は普段どんな食生活をしているんだろうと不安になったが、普段山籠りの多い生活ではたしかにサンドイッチを口にする機会はあまりないだろう。
あっという間に皿は空っぽになった、ふうと息つく間も無く、良牙は隣のカップルが席を立ったのを見ると、「次の場所に行きましょう!」と息巻いて立ち上がった。
会計の時、伝票を握りしめた良牙は店員に金額を伝えられると、自分のズボンのポケットを弄り、キャッシュトレーにじゃらじゃらと何かをばら撒いた、大量のどんぐりだ。
「…あの、お客様、どういうおつもりで…」
山籠りが多いから、小銭の用意がなかったんだろう、現金を建て替えた名前はそう思うことにした。
喫茶店から出ると、良牙はさっきまで同じ店内にいたカップルを執拗につけ回して、そしてじっと観察するように眺めていた。
目の前のカップルは路地を歩きながら軽口を叩いて、徐々にお互いの距離を縮め、そのまま手をつないだ。
これだ、と良牙は言って「名前さん!」と横を歩く彼女に顔を向けると、顔を真っ赤にしながらもじもじして、「手、つなぎませんか…」と尋ねた。
「えっ、は、はい…」
なんだか恥ずかしい、名前は急に俯いて、ぎこちなく緩く良牙の手を握った。
そのまま2人は路地を歩く、まるで本当のカップルみたいに。
しばらくお互い何も言葉を交わさず、握った手に少しずつ汗が浮かんでくる頃合に、向かいの方から誰かが呼びかけてきた。
「名前ちゃーん、良牙くーん!」と元気よく駆け寄って来るのは同じクラスメートであるあかねだ、名前はパッと良牙から手を離すと誤魔化すみたいにその手を上にあげて振った。
すると良牙はつんつんと名前の肩を叩いて、「あのう、お友達ですか?」となぜか聞いてきたのだ。
「なあんだ、良牙くん帰ってきてたのね。いつの間にか仲良くなっちゃって」
「あはは、お久しぶりです、その、えーと」
良牙は焦りを誤魔化すみたいに笑っていた、ニコニコするあかねの後ろから遅れてもう1人よく見知った人物が駆け寄って来る、しかし良牙の顔を見るなり「んん!?」と訝しげに唸った。
「そういうあかねちゃんこそ、乱馬と出かけてたの?」
「かすみおねえちゃんのお使い、乱馬は荷物持ちよ。2人はデートでしょ?」
2人をからかうあかねに反して、乱馬はなんにも言わず、良牙をじーっと見つめていた。
なんだか敵対心を持たれている気がする、何か言わねば、そう思ったのか良牙はニッコリ笑ってた。
「はいっ、いつも名前がお世話になってます、あかねさん、乱馬くん!」
「えっ」
「なっ」
ぺこりと頭を下げた、あの良牙が。
「それじゃあ、ぼくたちはこれで!」そう言って良牙は名前の手を引いて反対方向に歩き始める、そんな2人の後ろ姿を見送りながら、あかねは「恋人ができた余裕ってやつなのかしら、人ってあんなに変わるのね…」としんみり言っていたが、乱馬にはどうしても納得いかないところがあった。
そして自らあかねの手を引くと、「あいつら追うぞ!」と当初の目的もさておいて、2人の後をつけ回すのだった。