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あかねは玄関の扉が開く音が聞こえると一目散に走った、なぜか草や泥や傷まみれの乱馬の姿に驚くわけでもなく、開口一番に「渡してくれた?」と尋ねる。
「よかった」とあかねはほっとした、長女のかすみが汚れた服を洗濯物に出すのでついでに風呂へ入るように言うと、乱馬はそそくさと浴室に向かった。
居間では次女のなびきがテレビをつけっぱなしで今月号の雑誌を読みふけっている、そしてあかねの姿を見つけるなり「ほんとーに大丈夫かしらね」と妙に不安を煽るような言い方をした。
「なっ、なにがよぅ」
「良牙くんっていうの、方向音痴なんでしょ。あんな広い空港で果たしてガールフレンドと巡り会えるのかしらね」
「だからちゃんとフロアマップも渡してきたんだから、大丈夫よ!」
はあ、となびきは雑誌から目を離して妹に言った、「あんたたちは本質が見えてないわね」、ちょうど風呂から上がったばかりの乱馬もどうやら巻き添えを食らったらしい。
なびきはテーブルいっぱいに路線図が描かれた地図を広げた。
「まず成田空港に行くにはこの池袋線から池袋駅について、そこから山手線に乗り換える」
「ふんふん、それで?」
「………」
なぜかなびきと見つめ合う、視線を下にやると手のひらを皿のようにして向けてきた。
たまたまポケットに入っていた100円玉を手のひらに乗せた。
「ここから新宿方面内回りに乗って日暮里駅で降りるのよ」
「ほお〜、それで?」
「……あのねぇ乱馬くん、世の中タダなものなんて何一つないわよ」
おとなしく金を払って聞くに、全くもってなびきの懸念する通りだった。
この道場から最寄りの駅で成田国際空港に行くのも、幾度も車両を乗り換え、ようやく空港についたかと思いきや、そこから第一・第二ターミナルの何階、何番ゲートと事細かに示されている。
これでは方向音痴でなくとも普通の人間だって頭がこんがらがる、良牙なんてとてもじゃないがたどり着けないだろう。
これはまずい、乱馬はいそいで間借りしている部屋に自分の着替えやらをリュックに詰めると、またも天道家を飛び出た。
向かう先はもちろんあの空き地だ、まだランタンの灯が灯っているのを見かける、必死にフロアマップを読みふけっていた良牙はいきなりの乱馬の襲撃に当然驚いた。
2人は夜明け前に空き地を出た、とにかく日暮里駅を目指せばいい、そうすれば京成スカイライナーに乗ってそのまま一本で成田国際空港にたどり着く。
とにかく走った、日暮里駅を目指して。
途中なぜかママチャリで走っているシャンプーに追いかけられたり、目の前で車が消火栓にぶつかって単独事故を起こしたせいで水をかぶったり、なぜか真夜中のランニングをしていた風林館高校2年生の九能に追いかけ回されたりと色々あったが。
始発前の日暮里駅に着いた時にはすでに少女と子ブタの姿になってしまっていた、明かりの着いた駅長室までふらふらと向かい、暑くて喉が渇いたから湯をくれなんて頓珍漢なことを言って沸いたばかりの湯がたっぷりはいったやかんをお互いの体にかけ合った。
いよいよだと2人はごくりと生唾を呑む。
このスカイライナーに乗ればあっという間に空港につく、だが最後の関門はターミナルだった。