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乱馬は数学の時間も嫌いだが、英語も大嫌いだった。
教師の話はつまらないし、黒板に刻まれているミミズが這うような文字は寝ぼけた目で見ると尚更訳がわからない。
さっきの休み時間に名前から貰った飴玉はまだ口の中に入っている、左のほっぺに収まったそれは大分小さくなっていた。
「じゃあこの英文を訳して貰おうか…早乙女!」
名前を呼ばれてびくりと肩が震え、条件反射的に立ち上がってしまった。
隣の席に座るあかねが「またか」と言いたげに目配せする、授業をまともに聞いていない乱馬の代わりに耳打ちをして答えを教えてやるのが2人のいつものお決まりだった…のだが。
「わかるわけねーじゃん、そんなもん」
教室がざわついた。
「さ、早乙女…もう一度チャンスをやる、この英文を訳しなさい」
「だーからわかんねーって。そんなミミズみたいな文字」
「…お前、人の話を聞いとらんのか…」
「だってつまんねーもん」
乱馬だって自分の口からこんなに本音がすらすらと出てくるなんて思ってもみないことだった、すっかり冷え切った空気の教室内では隣に座るあかねはハラハラしているし、周りのクラスメートたちはドン引きしているし、教師は怒りに震えている。
でも誰よりも困惑しているのは、何を隠そう乱馬自身だったのだ。
「早乙女ぇ…廊下に立っとれ!!」
授業終了のチャイムが鳴る頃には口の中は空っぽになっていた。
一人ぼっちだった廊下には男子生徒たちが息巻いて流れ込んできて、「早乙女!お前の気持ちわかるぞ!」だとか「あいつの授業つまんねーよな!」だとか、なぜか共感を得てしまったようだ。
やれやれと思いながら自分の席につくと、また名前がニコニコ笑いながら近づいてくる。
「さっき散々だったね」
「まーな。でもおっかしーな、あんなこと言うつもりもなかったんだけど…」
「ストレス溜まってるんじゃないの?ほら、そんな時こそ甘いもの」
と、また同じキャンディを貰って口の中に放り込んだ。
「ところで乱馬くん、聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
「子ブタくんの名前って…」
「乱馬ぁ!」
2人を遮るようにあかねがやって来た、どうやらさっきの英語の授業で教師を怒らせてしまった罰に、次の授業の資料を職員室まで取りに来るよう命じられてしまったらしい。
「めんどくせーなぁ」と乱馬はぶつくさ言いながら、気になることに回答もせずにそのまま教室から出て行ってしまった。
その日、乱馬は実に波乱な日を過ごしたのである。
何か問われれば建前とは裏腹についうっかり本音を吐いてしまい、教師は怒らせるわ、体育の時間に許嫁であるあかねに「おめーちょっと動き鈍くなったか?」とついうっかり思っていたことを言ってしまうとコテンパンに殴られるし、昔馴染みの右京には「うっちゃんといると腹減るんだよなぁ」と呟いてお好み焼きのヘラでタコ殴りにされた。
そういう出来事があると、名前は必ずニコニコしながら飴をくれる。
一方で名前は、瓶の底でたった一粒になってしまった飴玉に焦りを覚えていた。
放課後、乱馬は絆創膏まみれの顔で大して中身も詰まっていないすかすかの鞄を背負いながら校舎を後にしようとすると、ばったりと名前に出くわす。
そして「今日も1日お疲れ様」と最後の飴玉を差し出す、乱馬は素直に受け取らなかった。
「あのさー、それなんの飴?」
ぎくり、名前の肩が震える。
「なにって、フツーの飴よ」
「何味?」
「な、何味でもいいじゃない!」
とにかく、と名前は乱馬の口の中に飴玉を放り込もうとした、当然避ける、その隙に無防備になった名前の手の中にある飴玉の入っていた空瓶を取り上げた。
「あーっ!」
「なに…『本音を話したくなる飴』?」
そのラベルの内容に乱馬はこの1日よーく覚えがある、自分の建前とは裏腹に、ぺちゃくちゃ喋った内容を…。
「ひっ、卑怯だぞ、なんでこんな飴を俺に!」
「それは後で教えてあげるから、とにかく食べなさい!」
こうなったら無理やりにでも口の中にねじ込んでやる、名前は乱馬を追いかけたが並大抵の人間ではその体力に追いつくはずもない。
仕方ない、やり方は汚いが…と鞄の中から例の物を取り出した、婚約証明書だ。
「拇印してやるっ!」
「きたないぞ!」
「悔しかったら取りに来なさい!」
証明書に名前が親指を近づけた、乱馬は思った通りにそれに釣られて踵をくるりと方向を変え、一直線に彼女のところへ向かった。
そしてその手は婚約証明書に向かう、「しめた」と名前は思った…が、乱馬の腕は紙切れには触れず、飴玉を摘んでいた指先の方だった。
からん、と音を立てて飴玉が奥歯にぶつかった。
甘い味がしたのは名前の舌の方だ。