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名前は本当のところ、父親が務める商社のことはあんまりよく思っていない。
子供の頃から家族揃って転勤だらけだったのは致し方ないにしても、それが国内に問わず、必要とあらば世界の端から端まで飛ばされた。
父の商社が取り扱う商材は怪しいものばかりだった、海外のおまじない人形だったりとか、変な効能があるグッズだったりとか、呪泉郷に行ったのだって「中国には呪いの泉があって、そこに落ちたものは何かに変身する」といった信憑性の乏しい話に食いついて出向させられたのが始まりだ。
そんなヘンテコ商社に務める父が、妙なものを持って帰宅してきた、『試供品』と書いてあるシールの貼られた瓶。
「うちの会社の新商品なんだ」
一家団欒の食事の時間、食卓にどんと鎮座しているその瓶の中身は何の変哲もない色鮮やかなキャンディだった。
「ただのお菓子ってわけじゃないでしょ」
娘の一言を皮切りに、よくぞ聞いてくれたとばかりに父は語る。
「これはな、『本音を言いたくなるキャンディ』なんだ」
「へー」
「大昔の中国で敵の捕虜に使われていたらしい自白剤の成分が含まれていて、これを食べると相手の言うことを誤魔化したり、嘘をつけなくなる」
「ふーん」
名前は心底怪しいと思いながら、瓶を手にとってくるりと回す。
瓶裏のラベルには効果や効能が書かれている、『マンネリ化したカップルや、意中のあの人に、本音を聞きたい!そんな時にはこの飴で!効果は飴が口の中でなくなるまで続きます』と書いていた。
そんなバカな、父親はよく試供品を家に持って帰ることも多いが、結局効果のほどが出たことはあんまりない。
そもそもこんな謳い文句を父親みたいなおじさんが複数人集まって真面目な会議で決めていると思うと、ちょっと嫌な気分だ。
名前は瓶の蓋を開けて、カラフルな飴玉をひとつだけ口の中に放り込んだ、甘ったるい味が食後の雰囲気を引き締めてくれる気がする。
「どうだ、本音を話したくなったか!?」
「くっだらない、こんな恥ずかしい商品ばっかり開発するくらいなら、会社やめてくれればいいのに」
「へっ…?」
名前は慌てて口を塞いだ、今なんて言った?
父と母は驚いて目をまん丸くしていた。
「名前、あなた、お父さんに向かって…」
「お母さんからも言えばいいじゃない、私知ってるんだから、よく電話で友達に『旦那が会社から変なものばかり持って帰るから懲り懲りだ』って言ってたこと」
「えっ、いや、そ、そんなことないわよ、あなた!」
これはまずい、名前は急いで口の中の飴玉を噛み砕くと、ごくりと飲み込んで、コップ一杯の水を一気に飲み干した。
すでに一家団欒の空気は冷え上がったものになっている、これでは夫婦円満もなにも、火種を作ってるだけじゃないか。
名前は逃げるように自室に駆け上がった、背後では父親と母親が何やら言い合いをしている。
やっと部屋に1人きりになった頃、舌にまだ残る甘ったるい後味を感じながら、ぽつりと思った。
間違いない、『本音を言ってしまう』効果は本物だ。
その夜、名前は夜中にこっそりリビングに忍び込み、お目当の瓶詰めキャンディを抱えて自室にこもった。
次の日の朝、早乙女乱馬はいつもと同じように遅刻をして1限目開始のぎりぎりに学校へやって来た。
教室に着くなりなぜか笑顔で席についている名前とばっちり目が合う、なぜご機嫌なのかはよく分からないが、授業が始まってしまったので問いただせなかった。
それから次の休み時間、名前はなぜかキャンディがたくさん詰まった瓶を持ってやって来た、そして「乱馬くん、飴あげる」と指先に摘んだ飴玉をくれたので、有り難く頂くことにした。
「さ、さんきゅ…」
口の中に放り込む、つまらない授業で疲れた頭によく沁みる、甘ったるい味。
舌で転がしてよく味わう…訳でもなく、奥歯でいきなりゴリゴリバキバキ噛み砕いてごくりと飲み込んだ。
名前は机をバンと叩いて叫ぶ。
「すぐ噛み砕くな!ちゃんと味わいなさいよ!」
「えっ、ご、ごめん」
たかだか飴の食べ方一つでそこまで怒られるなんて思わず、乱馬は勢い任せに謝ってしまった。
名前は仕方ない、といった風にまたもう一個飴玉を瓶の中から取り出して差し出した、また乱馬は受け取って口の中に放り込んだ、今度は言われた通り丁寧に口の中で転がした。
「ど、どう?」
「どうって…甘くて美味しいよ」
「………」
そうこうしているとチャイムが鳴った、次は英語の授業だった。