Turn Your Love Around
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この町に新装開店したばかりの大衆中華料理店『猫飯店』の看板娘であるシャンプーはたった今、本日最後の出前を終えて帰るところだった。
岡持ちを片手に流行りの歌を口ずさみながら自転車で走っていると、見覚えのある大きなリュックサックと番傘を背負った男の姿を見つけた。
夜道のど真ん中をとぼとぼ歩いているもんだから、邪魔だとイラッときて、別に避けて通れば良いものを「邪魔ある!」と叫んでそのままのスピードで突っ込んだ。
だが「うっ」と唸るくらいで、いつもみたいに喚いたり反撃しようとしたりはしない、シャンプーは怪訝そうに振り向いた。
「気色悪い男ある」
「…ふっ…せいぜい笑ってくれよ…」
「一生そうしてればいいね」
付き合ってられんとペダルにぐっと力を入れた、すると背後から「乱馬との結婚を止めることはできなかった…」と聞こえたので、思わず耳がぴくりと動いた。
「乱馬と誰が結婚するか、あかねか?」
「…俺には2人の幸せを壊すことはできん…」
「酢豚の具になるかおとなしく吐くか選ぶよろし」
猫飯店で働くシャンプーの耳にも噂はたしかに届いていた。
つい最近、風林館高校に転入してきた女生徒が意中の男である早乙女乱馬と遥か昔に結婚の約束をしていたとかいないとか。
彼に会いに高校まで寄り道した時に、ちらりと顔は見たことがある、そうひときわ目立ったような見た目でないことは確かだ。
で、目の前で涙ながらに語る酢豚の具…ではなく、男はどうもその女にそそのかされていたらしく、問題は(男が言うことが本当ならば)自分よりも先に早乙女乱馬と苗字名前が婚約をしていたこと。
おまけにその証拠に、きちんと書面まできっちり残し、なんなら拇印と証人の署名まで入っているらしい。
閉店後の猫飯店には男のなんとも気味の悪い啜り泣く声だけが響いている。
シャンプーはみるみるうちに涙やら何やらのシミを作っていくテーブルクロスを眺めながら、ふつふつと怒りを募らせた。
「苗字名前…亡き者にしてやるね!」
午前1時、良い子は当然寝静まっているであろう真夜中、苗字家の敷地に見慣れぬ男女の影が潜んでいた。
男女はコソコソと何か言い合いをしている、とてもじゃないが仲睦まじい様子とは言えなかった。
「お前が行くよろし!」
「なんで俺が行かにゃならんのだ!」
「元はと言えばお前が名前を寝取らなかったせいある!」
お前が悪い、そっちこそ悪い、責任のなすりつけ合いをしているうちにも夜更けのタイムリミットは迫っている。
チャイナ服の女、もといシャンプーは男に対して水を被って可愛い子ブタを演じてターゲットの目を盗んで、ついでに件の『婚約証明書』なるものを見つけ出してこいと言った。
しかし男の方にはそんな事は出来なかった、いくら姿かたちを変えようと、残念ながらそんな作戦は名前に通用しないのである、なぜなら彼が子ブタに変身出来るのはよく知っているからだ。
「使えない男ね、わたしが行くある。婚約証明書を取って、ついでに息の根を止めれば…」
「物騒なことを言うな!だったら俺が行く!」
「話が早いあるな」そう言うやいなや、どこからともなくバケツを持ち出し、たっぷりの水を男の頭に引っ掛けてやった。
子ブタはぶひぶひと小言を呟きながら、しんと静まり返った暗い家の中を歩き回った。
考えてみれば、確かにシャンプーのいった通りに『婚約証明書』さえ破棄してしまえば乱馬との婚約関係なんてあっさり終わるのだ。
そうすれば当然、正々堂々とお付き合いが出来る、当然自分が彼女にふさわしい男になればの話だが。
記憶を頼りに名前の部屋を見つける、ドアの隙間から女の子らしい華やかな匂いがした(豚だから鼻が効くだけで、決してやましい気持ちじゃない)。
蹄をうまく使ってドアノブまで登り、そのまま体重をかけて捻った。
静かにドアが開き、カーテンの閉まりきった部屋にするりと入る。
窓際にはすっきりとした学習机がある、きっとあそこにあるだろう、小さな体で飛び乗って教科書やノートの隙間までくまなく調べた。
しばらく家探しに夢中になっていると、ごそりとベッドの上が蠢いた、驚いて動きをぴたりと止める。
どうやら名前は寝返りを打っただけのようだ、彼女の寝顔と視線が合う。
子ブタは学習机から離れて、名前が寝入っているかどうかを確かめようとした。
顔を近づければ確かに寝息が聞こえる、まつげの長さや唇の立体感までよくわかるくらい。
そのままじっとり、子ブタは見惚れた、思えば体は子ブタといっても、自分は立派な年頃の男の子なのだ。
思いを寄せている女の子がすぐ側で無防備になっていれば、雀の涙ほどの下心も、抱えずにはいられない。
「(名前さん…)」
子ブタは目をつむり、ゆっくりと自分の唇(というよりも鼻)を近づけようとした…。
「…子ブタくん?」
が、思っていたような展開は訪れなかった。