Turn Your Love Around
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乱馬はほとほと困り果てた、夜中の誰もいない天道道場には中学以来の友人(宿敵と呼ぶべきなのか)であるバンダナ男がメソメソと膝を抱えて鼻を啜っている。
そう言えばこの男は根っからの不幸体質で、よく言えば専売特許みたいなもんだった、いきなり風呂場で襲いかかってきて勝負をしかけてきたくせに、ちょっとでも勝てないとわかると急に落ち込むので乱馬も責めきれない。
大抵は「あかねにフラれた」とかそういうしょうもない理由でいじけるのが常だが、今日のこいつはそのあかねですら心を癒してやることができないようだ。
理由はなんとなーく、風呂場で言い合った「名前」に関わることなんだろう。
「ううっ…どうして俺はこんなに報われないんだ…っ」
そして聞いてもないのに語り始める。
「乱馬…俺はお前を倒す為にはるばる中国の呪泉郷を訪ねた」
「知ってらぁ。おめーが子ブタになる話だろ」
「そこで彼女に出会ったんだ…可憐で、淑やかで、まるで白百合のような…名前さんに…」
「………」
それもよーく知っている、すでにその白百合のよう表する張本人から聞いた。
「俺はその夜、彼女に交際を申し込まれたんだ」
「…はあ?」
それは聞いてない。
「ち、ちょっと待て、コーサイってのは、まさか」
彼の言い分はこうだ。
あの夜、名前は誰も使っていない寝室に彼を呼びつけ、「いいものあげる」と言って目を閉じるように命令した。
言いつけ通りに瞼を閉じて手のひらを差し出して待っていると、唇に彼女の唇が触れたのだ。
次の瞬間に目を開けると彼女は恥じらいながら逃げるように寝室を出て行ったのである。
「…と、いうことだ」
乱馬は自分にもよく身に覚えのある出来事を耳にしながら、「やっぱり…」と心の中でつぶやいて、少しショックを受けた。
ただ納得がいかない。
「なんでその流れで『交際を申し込まれる』んだよ!」
「『いいものあげる』と言っただろーが!」
「なんのこっちゃ!」
「いいものというのは、つまりだな、そのっ」
男の頬がぽっと色づく、気色悪いと乱馬は悪態付いた。
「『私をあげる』ということだ…」
乱馬は時々思う、こいつはやたら自分を不幸だなんだと嘆いているが、実はかなりのポジティブ思考なんじゃなかろうか?
だがどこの誰が聞いたって幸せ絶頂な話はここで終わる、男は名前からのキスを受け入れた後、悩んだ。
俺はまだ修行の身、だから今はまだ彼女にふさわしい男とは言えない、ましてや水をかぶれば子ブタになるような体質では到底。
だから書き置きを残して、彼女の前から去って行った、いつか彼女にふさわしい男として、お父様やお母様に認められるほどに強くなったら、その時に…そう思っていた…なのに…。
「乱馬…貴様という男は…っ」
「ん?」
「婚約証明書とはどういうことだぁっ!!」
ばき!
大きな音を立てて道場の床が抜けた。
「人の女をのうのうと寝取りやがって!」
「人聞きの悪いことをゆーな!」
男の腕や足が乱馬を襲う、この男はどうも大きな勘違いをしているようだが、別に名前を寝取ったつもりなんてないし、もっというなら多分交際なんて申し込まれてない。
「どうせお前のことだ、親父の言いつけだかなんだか、名前さんの気持ちも無視して無理やり契約を押し付けたんだろう!俺への当てつけに!」
「なっ、違わい!」
その言い方に、負けず嫌いの乱馬はカチンときた。
「あのな!言っとくけどな!」
「なんだ!」
「先に名前と婚約したのはこの俺だ!ついでにあいつのファーストキスも俺のもんだ!」
綺麗に一発、乱馬の蹴りが男の腹にうまく決まった。
普段打たれ強いこの男が、愕然と道場の床に崩れ落ちて、そのまま起きあがらない。
まさか打ち所が悪かったんじゃ…と慌てて男の顔を覗き込むと、しくしく泣いて涙の水たまりを作っていた。
さすがにぎょっとした、さすがに男友達の本気の涙はあんまり見たくない、「い、言いすぎたよ…」と詫びを入れようとすると男はすくりと立ち上がって、振り返った。
「…乱馬」
「へ?」
「俺の分まで…幸せにしてやってくれ」
切ない笑顔だった、そして彼は天道道場を静かに立ち去ったのだった。