Turn Your Love Around
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名前は息苦しさと喉の渇きで目が覚めた、ついでに横たわっているはずなのに体が汗ばんで窮屈だ。
ぐらぐらと視界が不安定だ、薄暗くて無機質な天井は子供の頃に父親と行ったキャンプで見た覚えがある。
ふと誰かと目が合う、口を塞ぐマスクが邪魔をしてもごもごと顎にあたって不愉快だ、自分の意図とせず視線が行ったり来たり、でもそんな中でも見覚えのある顔がある。
「り、りょ…」
名前さん、と確かに名前を呼ばれた。
きっとこれは夢だ、名前はすぐに沈みそうなくらいグラグラとした意識の中でふと思う、彼の名前を呼んだつもりなのにいまいち自分の耳にも聞き取れない。
夢の中で名前はその人と、テントの中で二人っきり。
ぱくぱくと口を動かすとマスクがつられて動く、「外して」と言わなくても彼は察して、あっさりと邪魔なマスクを外してくれた。
「りょーが…くん…」
目の前には間違いなく響良牙がいて、なんだか向こうまで熱っぽい目をしている、あんまり近づいちゃ風邪が移っちゃう、なんて夢もないことを考えていた。
だけど、と名前は良牙から視線を離さない。
どうしてこんなロマンチックな夢を見るんだろう、彼に会いたいからなのか、それとも彼に何か後ろめたい気持ちがあるから?
「名前、さん…あの…っ」
「…したいの?」
「へっ?」
それとも、やっぱり私、あの時ほんとにキスしてれば良かったって思ってる?
良牙の顔が真っ赤っかになる、「い、いいのかい…?」なんて、夢の中でまで彼はウブな青年なのである。
1回でもキスされたって思ってるなら、2回や3回だって同じじゃない、意気地なし。
心臓が早く脈打つのは熱が上がっているせいだと思う、体が熱くて動かないのも風邪を拗らせたせいだ、おまけにこんな夢見るなんてやっぱりどうかしてる。
「良牙くん…」名前は力なく呼んだ、応じるみたいに良牙は顔を近づけて喉をごくりと鳴らしながら目をきゅっとつむった。
ごめんなさい、あなたにずっと黙ってたことがあるの。
そりゃあの時はいたずらのつもりでキスのふりしたけど、でも今は、あんなことしなきゃ良かったって思ってる。
そう、ふりなんかじゃなくて、本当に……。
「こンの変態スケベ豚野郎!!」
「ぶぎゃあ!!」
びりびりとテントの張りが破られ、いきなり入ってきた黒い影が怒鳴りつけて良牙の頭をタコ殴りにした。
名前は驚いて目が覚める思いがした、というより既に覚めている、どうやら今までのは夢じゃなかったみたいだ。
むくりと起き上がってボコスカと殴られる様をぽかんと見ていると、光が射してようやく暴漢たちの正体がわかった。
「てめー名前に何しようとしやがった!」
「ごっ、誤解だ!誤解だぁっ!」
「誤解もなにもないね!弱みにつけこんで、女の敵ある!」
乱馬とシャンプーだ、テントはすっかり骨組みも折れてボロボロ、土埃があっちこっちに舞って、名前はくしゅんとくしゃみをした。
事の顛末はこうだ、出前帰りのシャンプーはぐったりした名前を自身のテントで休ませてやろうとしていた良牙を偶然見かけた。
ここまではまだ良いのである、その後偶然会った帰宅途中の乱馬とあかねにその話をすると、乱馬は慌ててテントがあるという空き地に向かった。
確かにそこには良牙のテントがあった、シャンプーと乱馬は気づかれないように静かに閉じられたテントの前に行って耳をそば立てた、あかねは呆れ顔で「ばかみたい」と言いながらその場から去ろうとしなかった。
それなりに年季の入った良牙のテントは長旅の証といっても過言ではないくらいボロボロだった、だからよく見るとちょうどいいくらいの「覗き穴」があったのだ。
だからシャンプーと乱馬はそこから目を張り付けた、するとちょうど良牙は名前が臥せっているのをいいことに、彼女の唇に…。
というタイミングで、失敗に終わったのである。
「乱馬くんのバカ」という呟きは、この空き地にいる誰にも伝わらなかった。
その日の夜の苗字家、大黒柱である父親はキッチンカウンターにあったはずのリップクリームがないと騒いだ。
ちょうど体も楽になってきた頃合だった名前はリビングでテレビを見ながら「ちょうどいいやと思って使っちゃった」というと、父親は顔を真っ青にして一人娘の肩を引っ掴んでくる。
「だっ、大丈夫だったか!?襲われたりしなかったか!?」
「はあ?」
そう言うと父親は仕事用の書類だらけの鞄をごそごそ漁り、皺だらけの紙を引っ張り出すと娘の顔に押し付ける。
企画書と書かれたコピー用紙、そこには『恋が実る♡魔法のリップクリーム』なんてオジさんがつけたと思うと虫酸が走るようなネーミングセンスの文字があった。
そのリップクリームの効能と言えば…古来より中国のある村で惚れ薬として使われていた材料を調合し、唇に塗れば異性がキスしたくなる効果があるとかないとか…。
「………」
はあ、と名前はため息をついた。
「…マスクつけてたから、知らない」
制服のポケットの中に入れっぱなしだったリップクリームは、まだまだ使いきれそうにないのに、父親に素直に返すことにした。
なんだ、あの時キスしてくれようとしてたのは、ただのリップクリームの効能だってわけか…。
そう思うと、なんだかがっかりした気持ちになるのだった。