Turn Your Love Around
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季節柄でもなく涼しい風が吹いた日、名前は風邪を引いてしまい、学校も休んで家で寝込んでいた。
熱は夕方のうちに少し高めの平熱までは下がった、母親は自室でスヤスヤ眠る娘の姿を見届けた後、いつもよりも早い帰りだった夫を出迎えて、着ていたスーツのジャケットの皺を伸ばす。
するとポケットの内側になにか固くて細長いものがコツンと触れる、何だと思って引きずり出すと、透明な袋に入った小さな筒。
「ねえ、なにかしら」ネクタイを緩める夫に聞く、「ああ、そりゃ試供品のリップクリームだよ」とさらりと言った。
「あら、ちょうどいいじゃない。そろそろ乾燥する時期だし」
「いかんいかん、そりゃあうちの会社の新商品だよ。なんでも中国から特殊な材料を取り寄せて作ったらしい」
あらそう…とそれ以上何も言わず、キッチンカウンターの上に置きっ放しにした。
彼女は自分の夫がやたらと変な商品ばかりを輸入するヘンテコ商社だということは重々承知している、わざわざ中国まで家族総出で子ブタになる呪いの泉を見に行ったくらいだからだ。
薄いピンク色のキャッチーな見た目をしたそのリップクリームはちょうど自分の娘と同じくらいの年頃の女の子をターゲットにしているんだろう。
「それより腹が減った」と言う夫の言葉で、このリップクリームの存在はすっかり忘れ去られてしまったのである。
その日の深夜、名前は汗ばんだ体に不快感を抱きながら目を覚ました。
起き上がるのに苦労はしないくらいには体は回復したが、喉が渇いてしまい、擦り合わせた唇同士がやたらチクチクする。
1階にあるキッチンまでゆっくり降りていき、パチリと電気を点けると、シンクの蛇口からコップ一杯の水を汲んで一気に飲み干した。
電気を消そうとすると、キッチンカウンターの上に見慣れない小さな筒が置かれている、誰が見たってリップクリームだ。
袋から出してキャップを外すと、まだ真新しい芯が覗いて見えた。
ちょうどいいや、ささくだって痛い唇に押し当てて、そっと引いてみる。
つけ心地は悪くない、そのままそのリップクリームと一緒に自室へ戻った。
「げほっ、げほっ」
次の日、病み上がりの名前はマスクと共に学校へ登校した。
会話をすれば咳も出るような体調で、教室にいるクラスメートたちが心配そうに「大丈夫?」と聞いても、「大丈夫、げほっごほっ」と全然ちっとも大丈夫そうじゃない。
「おめー、ちっとも風邪治ってねーじゃんかよ」
乱馬がマスクを指差しながら言う。
「そうだ。これ、あげるわよ」
その隣にいたあかねは学生鞄の前ポケットを漁って、手のひらの上に小さな何かを乗せて差し出した、りんご味ののど飴だ。
彼女の厚意にありがたく頂く事にする、礼を言ってから早速包み紙を開け、マスクを下顎までずらしてパクリと放り込んだ。
甘ったるい味が舌に沁みてきた後、あっさりとした爽快感がむず痒い喉によく効く。
と、しばらくぼんやりと飴玉を舌で転がしていると、変に視線を感じる。
「……どうしたの、乱馬」
名前を呼ばれた本人は、あかねに呼びかけられるまでずっと名前は飴玉を舐める仕草に釘付けだった。
「いっ、いや、なんでもねぇよ!」
「げほっ、なによ、物欲しそうな顔して、いやしい。ごほっ」
「飴が欲しいんだったら言えばいいのに、かすみお姉ちゃんにいっぱい貰ってきたから」
名前ちゃんにもあげる、とあかねは同じ飴玉を3、4個ほど名前にくれた。
おかげさまで昼間は喉の具合には困らなかった、少し咳は出るが飴玉を舐めていれば気は紛れたし、なんせマスクさえあれば授業中だって教師の目を気にせず舌先でころころ転がせる。
ところが昼過ぎたあたり、どうも名前は頭が重くて足取りが覚束なくなってしまった。
次の時間は体育だ、更衣室でもたつきながら洋服を脱いでいると、それを見かねた右京がずかずかと名前の前に立ち塞がり、ぴたりと手のひらを額に当てた。
「熱あるやないの!」右京の手は瞬く間に熱を帯びていく、仕方ないので次の授業は保健室行きだ。