Turn Your Love Around
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現在青春真っ盛りの早乙女乱馬は今朝懐かしい夢を見てしまい、少しおセンチな気分で朝を迎えた。
原因はわかっている、日本へ帰国した矢先に居候先の家でいきなり許嫁だなんだ、挙句の果てには中国からわざわざ押しかけ女房だなんだ、まだ青春も満足に謳歌していないのにやたら身を固めさせようとしてくる。
乱馬は朝の食卓に出された薄めの味付けの卵焼きを奥歯で噛み締めながら、襟足のさっぱりとした自身の「許嫁」とやらを見つめる。
そして無意識に今朝の夢を思い出された、はああと勝手に漏れたため息は食器の音しか聞こえない朝餉の時間には大きすぎたらしい。
たしかに俺は髪の毛は長いよりショートカットの方がいい、ぶりっ子なんかよりハツラツとした子の方が好きだ。
でも…と茶碗に残る約一膳分の米を口にかき込んでごくんと吞み込み、また大きくため息をついた。
彼が今日見た夢は子供の頃の懐かしい思い出だった、変わり者の父親が修行と称して連れ出し、あっちこっちに転々と暮らしていた時代。
乱馬は何度目かの転校先の小学校である女の子と出会った。
ショートカットのハツラツとした女の子、自分と同じで親の都合でさまざまな学校を転々としているらしい。
彼女は自身を「テンキン族」だと言っていた、言葉の知らない乱馬はそういう民族なのだと思い込んでいたが、妙に小学校のクラスメートたちに馴染んでいない彼女の様子に親近感を覚え、仲が深まった。
彼女はいたずらっ子で、とんでもなく大嘘つきだった。
乱馬は父親の教育方針のせいで一般的な知識に疎いことを利用して、例えば東北地方にはおそろしい鬼がいて秋田県に住んでいた時に家まで襲ってきただとか、大阪では道を歩いていると急にギャグを要求されてスベったら袋叩きにあっただとか。
今考えるとしょうもない嘘だったが当時の純朴な男の子からすると怖くて夜中に震え上がったくらいだ。
よくからかわれて何度も彼女に憤慨したが、彼女はいつもケラケラ笑った、その笑顔が可愛いと思っていたのもよーく覚えている。
問題なのは彼女が親の仕事の都合でまた転校が決まったと告げられた時の話だ。
春休みに入る前のこと、彼女は乱馬に「今年はお父さんのテンキンないみたい」と言っていたのに、いざ春休みに入ると彼女は悪びれも無く「やっぱりあった」なんてあっさり言うもんだから、その時ばかりはギャアギャアと喚いた。
でも彼女はぽかんとした顔でどうして乱馬が怒っているのかもわからない様子だった、それからというものの彼女が町を引っ越すまでの間、乱馬少年は眠れぬ夜を過ごし、当時一番に信用を寄せていた(今思えば浅はかだった)父親に相談したのだった。
「おとうさん、女の子をどこにも行かせないようにするにはどうすればいいの?」…いや、この質問自体がダメだったのか、父親は息子の純粋な気持ちに対して「乱馬よ、よいか?おなごを自分の物にするには、ひとつしかあるまい!」と力強く言うもんだから。
彼女が町を出立するその日、乱馬はノートを1ページをちぎって書き殴った『あるもの』を彼女に差し出し、向こうの親御もいる目の前で言い切ったのだ。
「結婚してください!」
彼女の両親はざわついた、ついでに荷物をトラックに積んでいた引越し業者も手を止めた。
とうのプロポーズを受けた本人は目をまんまるくして、それに対してなんの回答もしてくれなかった。
でも差し出された『あるもの』だけは受け取ってくれた、それからそれに対してだけは「ありがとう」とニッコリ笑ってくれて、「じゃあ私からもお礼あげるから、目つぶって」と言うので素直に目をつぶって両手を差し出したのに、なんにもくれなかった。
その代わり、なぜか唇にふんわりしたものは触れた。
びっくりして目を開けても手のひらには何にも乗っていないし、彼女は変わらず笑ってるし、なぜか彼女の親御さんは目が点になっていた。
「またね、乱馬くん」
その言葉を残して彼女は去って行った。
これが乱馬が唯一、親の勝手な言いつけや勘違いやよくもわからない他国の村の風習なども全部関係無く、自分の意思で約束した結婚なのである。
もうこれ以上、自分の預かり知らないところでトラブルに巻き込まれるのはごめんだ、出来ればこれを子供の頃の良き思い出としてお互いに胸にしまっていきたいものだ。
出来ればこのまま大人になって、あの時渡した『あるもの』も部屋の隅っこでぐちゃぐちゃになってしまっていて、簡単にゴミ箱に捨てられていてほしい。
なんて思いながら登校したその日、まさかの訪れて欲しくない奇跡が起きてしまったのだ。
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