龍如
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度重なる喧嘩で、常備していたタフネスライトがナンバさんが飲んだ分で切れてしまった。
仕方がないので、最寄りのドラッグストアで1ダース買って来いとお使いを頼まれた一番が、なぜかグレーのレジ袋片手に店から出てきた。
「…おい一番」
足立さんがその袋の中身に気が付いたのは、店を出てから歩き始めて1時間程経った頃だった。
あの後、また横浜流氓の残党やヤクザなどに絡まれて、いよいよ体力切れといったところで、丁度レジ袋を漁ったタイミングだ。
「こりゃあ…どういうことだ」
1ダース入りの箱には、『絶倫王』とエネルギッシュな筆文字で描かれている。
「へっ!?うわぁ…あそこのオヤジ、やりやがったな…」
どうやら、ドラッグストアの店主が誤ってレジに通したらしい。
どうりでニヤニヤしていたはずだあのオヤジ、と一番は顔を赤くしながら、憤っていた。
「まぁ、いいんじゃない?」
「そうは言ったって…、これじゃあ体力回復するどころか、アッチの方が元気になって戦闘どころじゃねぇな」
「ちょっと、気持ち悪い事言わないでよ!」
呑気に言う趙に、足立さんとサエちゃんが続ける。
お使いに失敗した一番は1人レジ袋を片手に、恥ずかしいのか悔しいのか、何とも言えない表情をしていた。
「一番、交換しに行こうよ。私も着いていくから」
項垂れる一番にそう声を掛けると、「そ、そうだな」と少しぎこちなく返事をしてくれた。
という事で、他のメンバーがサバイバーで休憩している最中、私たち2人でさっきのドラッグストアにもう一度戻る事にした。
ところがまた出発してから数分後、一番はハッとしてレジ袋の中を漁った後、背広やスラックスのありとあらゆるポケットをまさぐり、裏地まで引っ張り出した後、盛大にため息をついた。
「…レシートなくしちまった…」
がっくりと項垂れた。
レシートがないと焦る姿は見慣れていたが(えりちゃんに領収書がないといつも叱られるから)、今回ばかりはダメージが大きいようだ。
9000円あまりを無駄にした上、みんなの前で恥をかいたのは、相当堪えるみたい。
とはいえ、私には彼を励ます事しか出来ない、「とりあえず行ってみようよ」とは言っても、昨今はレシートが無ければほぼほぼ返品交換の望みは薄い。
「じゃあさ、飲んでみようよ!」
「えぇ!?」
「あっ、そっ、そう言う訳じゃなくて!」
なんて慌てて否定してみたものの、これじゃ何だか間接的に下ネタを言ってるみたいに思えて、ますます焦った。
「も、もしかしたら、回復するかも知れないでしょ、タフネスみたいに!」
「そ、そうだな、元は栄養ドリンクみたいなモンだしな…」
よし、と覚悟を決めた男の顔つきをして、一番は福徳公園のベンチにどかりと座り、グレーのレジ袋から見えないように精力剤の封を開けた。
その瞬間、何とも言えない高揚感が隣に座る私にも伝わったが、箱の中身はその辺の栄養ドリンクのそれと何ら変わりのない形状で、金色のキャップに濃い茶色の瓶が整列している。
一番は端っこの瓶を一本手に取って、「の、飲むぞ」とやたら覚悟を決めた風に言った。
「頂きます!」
パキリと音を立ててキャップを開き、そのまま一気にごくごくと飲み干す。
呼吸するように動く喉仏に私も釘付けになった。
「…ど、どう?」
空っぽになった瓶を眺めて、「うーん」と眉を顰めた。
「…回復してる感じはしねぇな」
そうなるとますます、この精力剤の意味がなくなってしまった。
味はどうかと聞くと、「なんか…エグミがあるっつーか、スパイシーっつーか…」と言って口をもごもご動かすので、たぶん美味しくもないのだろう。
ふと私は思わず彼の足の付け根に目が行って、慌てて逸らした。
飲み終わった空の瓶を自販機横にあったゴミ箱に捨てて、どうしようもないレジ袋を片手に持って公園を出る事にした。
サバイバーに戻るのかと思いきや、一番は反対方向に歩き始める、私も彼の後を着いていくしかない。
おそらくドラッグストアにまた戻って、タフネスを買い直すのだろうと、あまり人通りのないコリアン街を進んでいくと、一番はピタリと止まって振り返ってきた。
「…なあ、名前ちゃん」
「なに?」
来いとジェスチャーするので、つられて近寄ると、突然腕をぐいと引っ張られた。
ぐりん、といとも簡単に体を振り回されて、気付けば古い建物同士の境界に出来た狭苦しい路地に辿り着く。
壁にぺったりと背中をついたせいで、年季の入った室外機の轟音が振動になって伝わってくる。
「いたた…もう!何するの」
「やべぇ…勃ってきた」
と、言うなり私の手を無理矢理スラックスの股上に当ててきた。
「なんで今ここで!?」
「さっきのヤツが今効いてきやがったんだよ!」
「知らないよ!自分でなんとかしてよ!」
「名前ちゃんが飲めって言ったんだろ!」
そんなことは言ったかもしれないが…と反論をする前に、一番は無理矢理唇を押し付けてきた。
ぬるりと不躾に侵入してくる舌は心なしかいつもよりも熱く腫れぼったい、そしてじんわり広がる苦味や漢方薬みたいなキリッとした匂いに、これがあの精力剤の味かと確かに納得する。
「んン…あっ、ふぅ…」
その舌をまんべんなく口の中に押し付けられると、何だか私まで熱が移ってしまったようだ。
足には力が入らないし、頭はぼうっとしてじんじんと痺れてくる。
くちゅりと唾液同士が泡立って、一番の荒い鼻息が顔の産毛に当たってくすぐったい。
そんな非日常的な刺激にうっとりしていると、一番の長い無骨な指が私の足の付け根をなぞってきたので、慌てて唇を離した。
「ちょっと待った!」
いつも以上にぎらぎらした目が、つまらなそうに私を見ている。
「おいおい、ここで待ったはねーよ!こちとら1週間も溜め込んで、おまけに精力剤まで盛られてんだぜ!?」
「1週間してないのは仕方ないし、勝手に飲んだのは一番でしょ!」
うちは7人の大所帯の上、居候の身なので営みに関しては我慢するしか他ない。
「盛られた」なんて言い方は悪意がある、自分の意思で飲んだのは明らかだ。
「それにほら、名前も」
振り落としたはずの一番の手が、めげずに内腿を伝って、布越しに肌を擽ぐる。
ねちっこい触り方に、ぶるりと身震いして、思わず息が漏れた。
「あっ…」
「な?我慢出来ねぇって言ってるぜ」
シャツの襟を無理矢理引っ張って、首筋にカプリと噛み付いてきた。
一番の両手が触感を確かめるみたいに私の背中をなぞり、腿裏を擽り、腰のくびれを掴んで、ついにお尻を揉みしだく。
だめだ、流される!
「待って待って待って!」
「いでででで!」
私はほんの雀の涙目ほどに残っていた理性で、一番の髪の毛を思い切り引っ張り上げた。
「わかった、わかったから、ホテル行こ?」
「…ホテル?」
「ちょっと歩いたらすぐそこだから、ね?」
お預けを食らった犬みたいに不貞腐れていたけど、仕方なく出した私の妥協案には賛成だったようで、「よし、じゃあ行くか!」と鼻息を荒くして意気込んだ。
結局、出費は無駄になった精力剤に加えて、その後慌てて買いに行ったタフネス1ダース分と、なぜかラブホテルの休憩代が加算されたのだった。
それにしても、精力剤とは無縁の人生だったとは言え、あんなにも強力なのかと私は少し興奮さえ覚えるほどだった。
ホテルの部屋に行き着いた頃には、お互いシャワーを浴びる間も無く、まるで限界寸前だとばかりにオートロックのドアの前でいきなり襲われた。
その後、改めて汗を流すのにシャワーを浴びてすぐ、2回戦目が始まって、あっという間に2時間が経つ。
40代のおよそ性欲が落ち着いてきた男をこの短時間でここまで奮い立たせるとは…案外、無駄な買い物では無かったのかもなと思ったのだった。
「ねーえ、名前ちゃん」
あくる日、サバイバーの窓際のソファで、スクリーンの隙間から漏れる陽だまりに当たりながらぼんやりしていると、趙がいきなり向かいに座って話しかけてきた。
「プラシーボ効果って知ってる?」
「なにそれ?」
藪から棒にそんな横文字を言われてもちんぷんかんぷんだ。
「んーまあ、ホントはそんな効果なんてないのに、思い込みでその効果が現れるって感じかなぁ」
要は偽薬って事だね、と言われたが、なぜそんな話を持ちかけられたのかは分からない。
ふーん、とただ役に立つのかどうか怪しい知識を聞いていただけの私に、趙は「あれ、そういう経験ない?」と続けてきた。
「なんのこと?」
サングラスの奥の目が、弓形に細くなっていった。
そして私たちの間に挟まっているテーブルに身を乗り出して、耳を貸せ、と合図する。
「知ってる?ああいう精力ドリンクって、ほとんどがただのジュースみたいなモンだよ」
言われて、私はまるで探偵に犯行を言い当てられたような気分になった。
顔から火が出そうなくらい熱くて、手汗が滲んできているのに、一番は趙が私にちょっかいをかけたと誤解したのか、「おい!」と大声を上げて寄って来た。
「二人で何話してんだぁ?」
「春日くんは知らない方が良いコトだよ」
ね、と同調を求めてきたその真意は、「知っちゃったら楽しめないもんね?」という意味が含まれているような気がする。
趙のヤツめ、なんでそんなに勘が良いんだ…とその黒い背中を睨みながらも、しばらく真実は黙っておこうと思うのだった。
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