龍如
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俺って気が利かない男だな、と思う。
目当ての女一人に対してだって、惚れさせたいんならうわ言の一つや二つ言って見せるもんだけど、残念ながら浮ついた言葉なんてなくても与えられる事ばかりだったから、その人生に甘んじていた気がする。
いつだか春日君が酔っ払って、「やっぱり、女の子って花とか貰うと嬉しいのか?」なんて弱気に聞いてきたけど、俺にはピンと来なかった。
どうして俺なんかに聞くのかと尋ねたら、「趙は女にモテんだろ」と、単純なその回答にも全く見当違いだと笑って返したんだ。
質問する人間を間違ってるよ、少なくとも俺は、女性に何かを贈って見返りを求めるような関係を築いた覚えはない。
素直にそう答えれば「イヤミな奴だな…」と冷めた目で見られた。
そんなやり取りを思い出したのは、名前ちゃんの髪の毛が俺の指輪に絡まって、「痛い!」と喚いたからだ。
「あー、ごめん」
俺の右手薬指に着けていた翡翠のリングの丁度爪の辺りが、うまい具合に彼女の長い髪の毛に引っ掛かる、ピンと張った一本のそれが、金糸みたいに照明に当てられて輝いている。
指先で髪の毛を摘まんで、丁寧に取り除いてあげたから、さあ続きをしようと彼女の体を引き寄せたのに、余程さっきのが嫌だったのかムッとした顔で俺の胸を手のひらで押し返してきた。
「しょうがないじゃん」
「ヤダ」
「我慢してよ、子供じゃないんだからさぁ」
今から良い事するのに、萎えさせるような事しないでくれる?
指輪が嫌だなんて、今更な事を言うなよと思ったのは、今までどんな女を相手にしたってそれを外さなかったからだ。
髪を引っ掛けたのだって初めてじゃないし、何ならこのまま素肌に触れた時に「冷たくて気持ちいい」と強請ってきた女だっていた…と思い返してみると、あれはもしかしたら気を利かせてたんじゃないかな。
そんな後ろめたい事を見透かされていたのか、名前ちゃんは冷めた目をして俺を見て、するりと俺の腕から抜けると、ベッドから離れた所にある小型の冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを出して、残り半分のそれをゴクゴクと飲み干した。
ついでにやたらボタンの多いテレビリモコンを弄り始めて、65インチの画面に映る少し時代遅れの映画のタイトルを確認し始めた…まさかと思うけど君はあと2時間余り、こんなことで時間を潰そうとしてるわけ?
「名前ちゃーん、ご機嫌直してよ、ねぇ」
「フン」
分かったよ、君はそんな小手先の技なんかじゃ満足しないって。
まったく気難しい女に惚れたよなぁ。
俺は生まれて初めて、セックスの為に指輪を全部外してサイドボードの上に並べた、指の順番に整列したのはいやに几帳面な俺の性格のせいだ。
最後にお気に入りのサングラスも全部外して、これで見事俺は丸腰になった。
もう一度彼女の髪の毛に触れる、名前は嫌がったが指の間をスムーズに流れていく感覚に、驚いた顔をして振り向いた。
ぽかんと唇を半開きにした間抜けな顔、その下唇に喰らい付いて、ぷっくり膨れたフルーツみたいな感触を味わう。
少しミネラルウォーターで濡れている冷たい唇からは、生暖かい吐息が荒く漏れた。
「ご機嫌直った?」
「……ん」
「じゃあ、ヤラしい事、しちゃうよ?」
なんてお伺い立てると、名前ちゃんは恨みがましく上目に睨んで、拗ねたみたいに唇を尖らせる。
意地悪な言い方だって分かってるよ、君も案外面倒な男に嵌められたよね、なんて思いながら随分軽くなった手のひらで彼女の背中を撫でた。
「俺はちゃんと、名前ちゃんの事、愛してるからね」
こんな風にしか言えない俺の言葉に、彼女は熱に浮かされるような蕩けた目をして、魘されるみたいに「うん」としか答えてくれない。
物足りないと思いながら、俺は柔らかくて温かい彼女の太腿を撫でて頬を寄せる。
可愛いレースがついた薄い水色の下着の真ん中が、少し色濃く染み付いているのが見えて、我慢出来ずに自分のボクサーパンツを脱いだ。
やっぱり俺は気が利かない男だ。
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