荒川の御嬢さん【シリーズ】
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荒川のおやっさんには娘がいる。
娘と言っても血は繋がっていない、何でも荒川組の元構成員だった輩が巨額の負債を残したまま飛んで、その肩代わりに自分の娘を寄越してきたらしい。
寄越した、というのは少し語弊があって、荒川のおやっさんがソイツの住んでいたアパートに踏み入った時、まだ5歳と幼かった娘さんを残したままトンズラしていた。
金目の物以外全部そのままだった部屋のちゃぶ台の上に、「娘を使ってください」と書き殴ったような文字のメモがあったそうだ。
要するに、彼女の体を使って金を稼がせて借金をチャラにしてくれ、という意味だ、でも荒川のおやっさんは言いつけ通りにはせず、その娘を引き取って育てる事にした。
おやっさんは毛頭、その娘を組に関わらせるつもりは無かった、荒川組には敵が多すぎてヤクザの組長の娘となればやたら付け狙われるに決まっていたからだ。
だから姓も「荒川」を名乗らせなかった、行方知れずの母親の旧姓を名乗らせて、「苗字 名前」を通名にした。
おやっさんは若に甘いが、お嬢には度が過ぎるほど過保護で甘い、すっかり荒川真澄の箱入り娘だ。
お嬢は俺の一個上、だから若からして見れば、急に現れた自分のお姉さんみたいなもんである。
そんな2人の世話焼きを、俺は荒川のおやっさんから盃を交わした時から任されているわけだが…。
「イチ、ちょっといいか?」
ある日、荒川のおやっさんから事務所に呼び出され、行けば重苦しい空気が所内全体に漂ってきた。
俺は何かしくじったかと思い込んで、急いで土下座の構えをするために膝を少し折り曲げる、さして思い当たる節はないが、強いて挙げるならこの前事務所掃除の時にソファを引きずってお高そうなカーペットの縫い目がほつれたぐらいだろうか。
「合コン、ってのはなんだ…?」
俺は間抜けにも「へ?」と声を上げたが、当のおやっさんは真剣な眼差しをしている。
合コンっすか、と言うと、合コンだ、と返された。
俺には縁もゆかりも無い言葉だが、聞き覚えは大いにある、この前もテレビか何かで言っていた、どっかの駅前でリポーターが素人の女子大生に向かってマイクを向けて「最近、何か出会いはありましたか?」と聞いたら、その女が「この前合コンで会った男の人とイイ感じになってぇ」と言っていた気がする。
「アレっすよね、大学生の男女とかが、酒の席で集まって」
「………」
「そんで気が合う男と女同士で連絡先交換して、そっから恋愛に発展するっていう…」
ただ説明をしているだけなのに、おやっさんの背後に背負うオーラのようなものが、どす黒さを増していく。
横に立っていた沢城のカシラが何も言葉を発しないおやっさんに代わって事の様を説明した。
「イチ。お嬢さんが通っている大学があるだろ」
「え?あ、はい…」
「実は今年の春から、お嬢さんはそこのテニスのサークルに入ったんだ。そこで今度、そのサークルの合コンに参加するらしい」
お嬢、つまり名前さんは3年程前に都内の大学に入学したが、最近サークル(部活動みたいなもんだろうか)にご友人の誘いで入ったらしい。
そう言えばこの前、テニスラケットが欲しいから買い物に付き添えって言われたなぁ…と思い返してみたが、そこから合コンの話になるとおやっさんは顔を険しくした。
「真斗に聞きゃあ、合コンってのは随分とふしだらな集まりじゃねぇか…」
一体、若はおやっさんにどんな説明をしたんだ?
「まぁ、どういう集まりなのかは別にしてだ。むやみやたらにその合コンとか言う会に参加して、1人になった所を敵対している組連中なんかにつけ狙われちゃあ、荒川組にとっても大事になる。おまけにその会場は神室町近くの居酒屋だそうだ」
「はあ…」
淡々と言う沢城のカシラの話にも、俺はいまいちピンと来ない。
が、すかさずおやっさんが割り入ってきた。
「イチ、お前は名前の男のフリをしてくれ」
「なるほど…って、ええ!?」
名前の男って事は、つまりお嬢の彼氏になれという事か。
俺は「そ、そそ、そんな大それたこと…」と動揺していると、沢城のカシラに「フリっつってんだろ」と呆れた様子で言われた。
とにかく、居酒屋での合コンが終わったら、彼氏のフリをしてお迎えに上がれという事だ、彼女の買い物に付き合ったり、何かしらの用事に付き添ったりはしたが…。
「ただその…、まあ名前のお友達の方の目もあるからな…」
おやっさんは俺の姿をくまなく見た、要するに「そんなチンピラみたいな服ではなく、カタギらしい格好をしてくれよ」という事らしい。
俺はそのカタギらしい服装なんて知らない、一張羅はこの赤いオーダースーツのみで、どこへ行くのだってこの服装だった。
ダメ元で若に「あのー、今風の野郎の服装ってどんなのなんスかね?」と聞いたら、鼻で笑われる始末だ。
せめてどこが駄目なのかを聞いたら、「全部」と言われて終わった、じゃあもう、おやっさんの人選ミスじゃないか。
迫る3日後、お嬢の合コンの日までは時間がない。
だからといって直接彼女に「どんな男がタイプですか?」なんて聞いたら作戦はお終いだ、俺は多分怒鳴られまくるし、ついでにおやっさんとは口も利いてくれなくなるだろう。
こんな事ならまだ半グレを殴ってる方がマシだ。