龍如
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ひと嫌いの跳ねっ返り娘、口が達者でよく言えば男勝り。
そんな彼女の可愛い瞬間を、俺だけが知っている。
名前ちゃんは人一倍寝起きが悪い、サバイバーの2階で雑魚寝をして迎えるいつもと変わらない朝。
誰よりも朝が早いのはサッちゃんだ、彼女のすっぴんをここにいる誰もが見た事がないから、恐らく野郎どもが寝ている間に身支度を済ませるんだろう。
その後、足立さんとナンバがむくりと起きて、1階まで降りてカウンターに置いてあるであろう新聞の朝刊を広げている。
趙は続いて起きた、コイツも大概寝起きは遅いし、間抜けな欠伸をする様は1組織の頭だとは到底思えない風貌だ。
ハン・ジュンギは…いつ寝て、いつ起きているのかすら俺は知らない。
各々が部屋のあっちへ行ったり、こっちへ行ったりとバタバタ騒がしい朝の1コマ、たった一人だけが薄い煎餅布団に包まって、ちっとも起きる様子がなかった。
「まだ寝てんのぉ?」
サッちゃんが階段で2階まで上がって来て、大福餅みたいに丸まった布団を見て、呆れた様子で言った。
俺は頼むからあんまり大声を上げないでくれ、と彼女に心の中で懇願しながら、部屋の隅っこに放られていた先週号の週刊誌を読んでいた。
かく言う俺は、とっくの昔に目を覚まして、着替えを済ませている。
ホント、こんなに騒いでも起きないのね、とサッちゃんが言いながら畳の上に置いていた自分のハンドバッグを掴むと、「イッちゃんも、だらだらしてないでちゃんと起こしてよね」と言って足早に階段を降りて行った。
俺はこの部屋に誰も残っていないのをきょろきょろと確認して、読みかけの週刊誌も開きっぱなしのまま、まん丸の布団に近づいた。
「名前ちゃん、朝だぜ」
布団の塊に触れる、わずかに硬くて温かい。
くたくたになった敷布団に俺も寝転んで、掛け布団との間を見つけてわざと体をねじり込む。
背中を丸めた名前ちゃんの寝息と、やけに熱を持つその体に、俺はたまらず強く抱きしめた。
「…ん」
寝息がぴたりと止まって、なんとも間抜けな声が聞こえる。
俺は「ほら起きろよ」と耳元で囁く、そうは口で言いながら、内心起きないでくれと思っているのが本当のところだ。
モゾモゾと小動物みたいに体をうまく動かして、さっきまで背中を向けていたはずの彼女が寝がえりをうって俺の方を向いた。
少しだけ浮いた彼女の頭の間に、すかさず自分の腕を入り込ませると、思った通りに名前ちゃんは俺の腕を枕にしてくれる。
長い睫毛の生えた瞼が薄く開いてまた閉じた、名前ちゃんはまだ起きない。
「名前ちゃん」
「ん」
「起きねぇと置いてくぞ」
「ん」
言葉の意味も分からずに、とりあえず俺の言葉に相槌だけを打つ。
未だ現実と夢の境にいる彼女が、俺は何よりも好きだ。
俺の事なんてただの抱き枕にしか思っていないのか、それとも分かっていて甘えてきてくれるのか、胸に頭を擦り付けると俺の背中に腕を回して、スーツのジャケットをぎゅっと握った。
「可愛いなァ、ホントにもう」
堪らず漏らした俺の本音にも、彼女は虚ろに返事をする。
今すぐ潰してしまいそうなほど強く抱き締めるとさすがに身動ぎする、眉を潜める彼女の額にキスをする、唇は布団に埋もれてしまって見せてもくれない。
俺はこの時間が好きだった、年季の入った狭い和室は大して居心地も良くはないのに、この体温だけで温まった薄っぺらい布団の上で、お互いの体を絡み合わせるのが。
そこには別に男女の欲もない、ただあの跳ねっ返り娘がいつもの気の強い言葉も口にしないで、寝惚けて蕩けるような口調で俺の言葉に相槌を打ち、俺の腕に素直に抱かれてくれるだけ。
これが幸せって言うもんなのだろう、だとすれば、もういっそこのまま時間が経ってくれなきゃいいのに。
そう思っていたって、何にでも終わりの時間はやって来るのだった。
「ん、うんー…もう朝ぁ?」
名前ちゃんが布団の中で伸びをして、俺の体を押しのけるとその時間はお終い。
誰よりも遅く布団の中から這い出て、まだ少し重たい瞼を擦ると、途端に彼女は俺の腕もキスも受け付けてくれなくなってしまう。
残念だ、少し物足りない気持ちを上手く誤魔化しながら、俺は開きっぱなしにしていた週刊誌に手を伸ばして、手持ち無沙汰にページを捲った。
どうせまた明日も同じように朝が来る。
まだ仄かに体中に残る彼女の体温だけを頼りにして、1日の始まりを迎えた。
誰にも言えない俺だけの秘密の楽しみのために、今日も頑張ろう。
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