親の心、親知らず
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少女を預かると言うのだから、御三どんでも任せて花嫁修行の代わりに身を置かせるのかと思っていた。
それだったらウチが預かる義理はねぇぜ、と土方が言うと近藤はまるで取って付けたかのようにその言葉を否定した。
実は、と頭に付けて語るのは、かねてより考案していたとある計画の事だ。
昨今の犯罪は急発達した技術を駆使して巧妙かつ狡猾な物となっていった。
道路を行き交う自動車の事故や交通違反は勿論、車両を使ったひったくりなど。
真選組ではパトカーを何台か所有はしているが、未だ整備されていない畦道や私道などにはとことん弱く、機動力に欠けていた。
そこで近藤はお上に持ち掛けたのである、真選組にも自動二輪車を運用した機動部隊を発足する事を。
それで丁度いいところに、二輪車の運転に手慣れた『元暴走族』の逸材がひょっこり現れたのである。
その逸材を、真選組の機動部隊の初の女性隊士として育て上げたいというのが近藤の願望だった。
暴走族と言えば夜中に集まってゴテゴテの飾りをしたバイクをブンブンふかしながらの蛇行運転や開けた交差点でルーレットの如くグルグル円状に走り回るのが習性だ。
しかし彼らはひとたび警察がやって来れば狭い路地に逃げ込んだり、パトカーをおちょくるようにバイクを上手く使ってスイスイ避ける。
二輪車の扱いに関しては、そこらへんのバイカーなんかよりもすっと『戦術的』に長けているのだった。
そう熱く語る近藤にはあえてツッコまない、アイツはママチャリしか乗ったことねーぞ、とは。
どうせすぐに根を上げるに決まってる、最近のガキは根性が足りねーんだから。
後日、真選組屯所の門前には不貞腐れた顔をしたプリン頭の少女が大きな風呂敷を背負ってやって来た。
派手な頭の娘に対して随分大人しめな髪色の藤色の訪問着を召したご婦人が出迎えた近藤に「どうもぉ、この度はご面倒おかけいたしますぅ」と頭を下げると、彼も同じ調子でペコペコ頭を下げる。
ふぅ、と濃い煙を吐き出すと、土方はプリン頭に声かけた。
「よぉ」
「………」
「逃げずに来るたぁ、度胸あるじゃねーか」
「……っせーんだよ」
その威勢もいつまで見れるもんかね、と心の中で嘲笑ってやった。
少女の自室は副長兼教育係である土方の部屋の隣に設けられた。
3畳程の広さのそこは元々空っぽの物置だった、それを男どもが埃も全部はたいて、わざわざ畳を敷いてやって、年頃の女の子が来るからと内側の土壁に壁紙まで貼ってやったのだ。
最初は女の子と言えばピンクだと安直な考えで貼ってやったのが、どこか如何わしい雰囲気になってしまったので、シンプルな白色の壁紙に張り替えた。
文机と箪笥、端っこに折り畳まれた布団、それ以外は何もない。
当たり前の話だが、真選組に女性隊員はいないので、女性用に設けられた隊服は用意がなかった。
それに名前は成人した女性よりも随分背丈が足りないので、仕立て屋を呼んで採寸を合わせなければならない。
それまでの間は…彼女の一張羅である『特攻服』で過ごしてもらうしかなかった。
真選組の門前をそんな服装で出入りされるのは困るので、彼女に合わせた隊服が届くまでは屯所内で寺子屋の真似事をすることに決めた。
とは言え『人斬り集団』などと揶揄される彼らにしてみれば、勉学の指導などといった高尚な事が出来る人間はいない。
そういうわけで、真選組の皆様にご指導に賜るのは、生活指導と言う名の「使いっぱしり」だった。
「……おい」
咥え煙草の副長様が、玄関口から続く廊下を見つめて呟いた。
「なんだコレは、でっけぇナメクジでも這いずり回ったか」
廊下の奥まで続く、水たまりで出来た道。
一歩でも踏み出せば靴下はあっという間にびしょ濡れになる。
「お嬢の仕事ぶりでさァ、立派なもんですぜ」
土方は眉尻をぴくりと動かした、まともに廊下の拭き掃除も出来ねぇのかあのガキは。
廊下の奥に、バケツに雑巾を突っ込んだまま、大して絞らずにポタポタ水滴を垂らしながら持ち上げる小娘の背中が見えた。
一張羅の特攻服の背中には堂々と四字熟語が縫い込まれている、『明鏡止水』…止水とはたまり水のことだっけな、廊下に残っているびしょびしょの水みたいに。
呆れて物も言えず、かと言って上がる事すらままならない玄関で靴も脱げずに突っ立っていると、ドタドタと蹴るような音が近づいてきて、紫色の弾丸のようなそれが水しぶきを上げて近づいてくるのが見えた…。
土方は拳を振り上げる、プリン頭の根元が廊下の端っこにやって来た。
ゴツン、鈍い音と少女の悲鳴が上がった。
「雑巾は、ねじりながら固く絞って、水気を切ってから拭けぇえええ!!」
こうして前途多難な少女と人斬り集団との生活が始まった。