親の心、親知らず
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喫煙・違法改造・無免許・危険運転・暴行・傷害…数え上げたらキリがない。
昨日の夏祭りは大捕物だったが全員が未成年で、身柄はほとんど拘置所送りだ。
この後に彼らがどのような処分を受けるのかは知らないしどうでもいい、と土方は朝の寝床で欠伸をした。
今朝は食堂の朝餉を食べ損ねてしまったので、厨房の裏口から余り物の冷や飯を寄越すように高齢の女中に申し付けた後、冷蔵庫に保存していた名入りのマヨネーズボトルから中身を捻り出す。
これで十分だ、むしろこれが旨い。
腹拵えを終えたら廊下の1番広い所に貼り出されている今時時代遅れな手書きの当番表を確認して、自分の名前を探す。
本日は外回りはなし、今日こそは書類仕事に励むとしよう。
晴れてはいるが何層にも重なった蝉の暑苦しい声を聞けば、例え暇でも外を出歩く気にはならなかった。
もう一度自室に戻って、改めて文机を見る。
束になった書類は既に机上からはみ出しそうなほど積まれており、その殆どが別に大した事はない内容であっても、やる気を削がれる。
しかしここで逃げたら一生やらない気がする…8月31日まで貯め込んだ夏休みの宿題のようにしてしまったのは自分のせいだ。
土方はデジタルツールを嫌う、手書きの方が印象が良い等と言いながら昔気質を気取るが、ホントは使いこなせないだけなのだ、所謂ローテク人間。
だからこういう書類仕事だってパソコンさえ有れば時間もさほど掛からないのに、彼にはそれが出来ない。
でもこの紙をペラペラと捲っていくのは好きなのだ、何だか仕事をしている気分になるし、リズミカルで何というか、落ち着くというか…。
「副長ぉお!!」
ハッと土方は目を覚ました、スパンと清々しく鳴り響いた襖の音と、突然飛び込んできた部下の声。
眠っていた自覚はないが、突っ伏した机から思い切り頭を上げて「なんだ!」と反射的に叫んだ。
「あっ、寝てました?」
「寝てねぇよ、考え事してたんだよ!」
「でも書類にヨダレの海が…」
「うるせー!切腹すっか、テメー!」
用はなんなんだよ!と脅すと、部下・山崎は小さく悲鳴を上げてから、早く部屋から出て来てくれと急かす。
気付けば縁側から見える空は少し赤みがさしていた、これは徹夜仕事かと仮眠を後悔したのも束の間、真選組屯所の門外が何やら騒がしかった。
「門の前に自転車に乗った女の子が来てるんですよ、それで何やら誰かを出せって騒いでるんですけど…」
「あ?誰のことだよ」
「たぶん、あの…」
パフパフパフ、間抜けなラッパ音が響き渡る。
「ブーンブンブン!ブーンブンブン!」
「…………」
「つーちーかーたー!出てこいやオラー!つちかたぁあ!」
真選組の隊士らは屯所の門前で八の字にくるくる回って走る改造ママチャリをただ眺めているだけだった。
プリン頭の紫色の特攻服、口頭で叫ぶコール音、あのバカ丸出しの感じ。
「オラ!ふくちょーのつちかた出せや!」
たぶん、『ひじかた』副長の事だと思います。
土方は踵を返そうとしたが、間もなく近藤局長が帰ってこられるので、という山崎の言葉に深く溜息を吐いた。
「…うるせぇんだよクソガキぃいー!!『つちかた』じゃなくて『ひじかた』だよ、覚えたらさっさと帰って宿題して寝ろ!!」
「あっ、つちかたぁ!!」
「人の話聞…っぎゃああ!!」
土方の顔を見るなりガン漕ぎで迫ってきたかと思うと、通りすがりに顔を目掛けて、大量の何かをブシャアとひっかけた。
山崎はそれを見逃さなかった、あれは間違いなく今若者に人気のコンテンツ『めんとすこおら』だ。
「目っ!目が!沁みるぅう!」
「バーカバーカ!税金泥棒!」
「テメェ、とっ捕まえてやる!」
「ああーん⁉︎だったら集団暴走行為でしょっ引いてみろやポリ公、あたし1人だけどな!」
ブーンブンブン、八の字に蛇行運転する改造ママチャリ、目潰しされたので上手く捕らえない警察官。
真選組の屯所前で繰り広げられる珍事に隊士は勿論のこと、一般の市民まで野次馬が増えてきた。
「はあ、はあ、はあ…」
「はあ、ブーンブン…はぁ…ケホッ…」
かたや体力切れ、かたや喉の不調。
お互い泥試合になりそうな頃合いに、パトロールから戻ってきた当局の局長がキョトンとした顔をして呑気に訊ねた。
「何やってんだトシ」
「こ…近藤さぁん…このアホ…とっ捕まえてくれ…!」
はあ?と未だ疑問符を浮かべる近藤を尻目に、たった1人の暴走族は最後の力を振り絞って逃げようと彼を横切ろうとペダルを踏んだ…が、それは後ろからひょっこりと現れた沖田の手によって叶わなかった。
「何ですかぃ、この騒ぎは」
「おい!離せオラ!」
「離せって言われて離すヤツはいねーでさぁ、んで何ですかぃこの嬢ちゃん」
かくして、大江戸卍會通称エドマンの構成員は、全員お縄となったのである。