短編
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「目が綺麗」
よく言われたの、『色んな人』に。
その度に私は「海沿いの町に生まれたから、きっと日に焼けた」だとか「母親も目の色素が薄かった」とか答えてたけど、よくよく思えばそれしか褒められる所がなかったのね。
「なに、どうしたの?」
「……別に」
窓から入って来る太陽の光で出来た陽だまり、彼女の髪色が透けて小麦色に輝く。
その瞬間に照らされた虹彩の色が、奥まで透き通るような薄い落ち葉色に見えたので、銀時は柄にもなく呟いた。
口説き文句などでもなくただ零しただけの言葉、そうしたら彼女は喜ぶ訳でもなく、ただ自分の身の上話を続けるだけ。
銀時は年甲斐もなくぶすくれた、「もう言ってやらねーや」と心の中だけで呟いて、ソファの上に寝ころぶ。
名前は窓枠に固定された格子状の手すりに肩肘ついて、溜息を吐いた。
「………」
「………」
車のエンジン音、どこかで誰かを誰かが呼ぶ声、ハトの鳴き声。
お互いが何の言葉を発さなくても雑音が入り混じる。
窓からそよぐ風は暖かな陽だまりと合いなって眠気を誘う、名前も同じようで、目をゆっくり閉じ、あの落ち葉色の瞳を瞼の奥に仕舞った。
手すりなんかにもたれ掛からず、こっちに来りゃいいのに…そう思ったけど、こちらから声を掛けるのは気分が乗らなかった。
腹の辺りがむかむかする、彼女と同じように目を瞑ったけれど、午睡を楽しめる気にはなれない。
「ねぇこっち来て、見て、打ち水が引っかかった」
そんな彼の気も知らず、名前はいつの間にか閉じた目を外の景色に向けて、自分勝手にはしゃいでいる。
つられて銀時は重い腰を浮かせて、彼女の隣に座り、同じように出窓の手すりに肘ついた。
指先で繰り広げられる、通行人と店の主人の諍い、店主が店前でしていた打ち水が、通行人の着物の袖に引っかかったようだった。
ぎゃあぎゃあと喚く声、これじゃあ眠れる気もしないと思いながら上から眺めていると、ふわりと風が吹く。
小麦色に輝く髪が銀時の頬をくすぐった。
「なあ」
名前が振り向いた、落ち葉色の虹彩が彼の方を向く。
すると彼は思い切り、深く溜息を吐いた。
「なんなの?」
「いーや…俺ぁ、お前にそうやって見られてると、心ん中全部見透かされてんじゃねーかって思うんだよ」
「…別に、そんな能力はないけど」
情けねぇ話だけど、と銀時は続けた。
「お前といると、俺はこんなみみっちぃ男なのかって思い知らされるんだよ」
「何それ、クレーム?」
「まあクレームっちゃクレーム」
それ以上は彼女の顔もまともに見れなかった、それから後ろ頭をがしがしと掻く、彼が照れる時によくする行動だ。
打ち水のトラブルは解決したのかどうか、もう見届けるのも忘れて、彼は遠くの晴れやかな空に視線を逃がしてしまう。
「お前の昔の男にムカつく」
太陽に照らされて小麦色に輝く髪色も、落ち葉色に色づく瞳も、水蜜桃みたいに濡れて柔らかい唇も、全部自分だけが知っていて、独り占めしたい。
開けっ放しの窓も構わず、かぶりつくみたいに名前の唇に口づけた。
風にそよいで頬に張り付く彼女の長い髪がくすぐったい、唇を離したら熱にあてられてトロリと溶けた果物みたいな瞳が自分だけを見つめている。
せいぜい心の狭い男だって嘲笑えよ、情けない姿を晒すのも、もうこれっきりだ。
「銀さん、誰よりも大好き」
「フン」
名前は満足げに笑って彼の腕に擦り寄る。
またそうやって俺を試すような事をする、過去の男と比べりゃ俺が喜ぶと思ってんだ、人の事からかって楽しいかね。
通行人と目が合った、女を侍らす男の様子を見て、それからその横の女の容姿を確認するように視線を滑らせた。
そうはさせるかと思って、銀時は窓をぴしゃりと閉めた。
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