親の心、親知らず
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原動機付き自転車を走らせてから約3分、男は背中にある違和感を感じた。
自分の肩甲骨の下あたりに、硬い布地と飾りボタンに紛れて、柔らかい何かが触れている。
それが丁度、思い違いかそうじゃないかの瀬戸際を上手く感じ取れない具合で、どうにもむず痒い。
チラッとサイドミラーに目をやった、風にさらさらと靡くプリン頭の切れっ端。
「あのさぁ、プリンくん…」
原付のマフラー音にまぎれて、機嫌悪そうな返事が声が聞こえた。
「あたしはプリンじゃねーよ、大江戸卍會通称エドマンの1日特攻隊長、苗字名前。夜露死苦」
「なんか肩書きがごちゃごちゃしてめんどくせーな、おたくら…」
警視庁の組織図なんて理解する気もないが、色々と枝分かれしているのだろうと、男は無理に納得する事にした。
そしてさっきから感じていた違和感は間違いなく、隊服を着たこの子供は少年ではなく、少女だったのだ。
一体どういう事情でヤンキーかぶれのような少女を雇う事になったのかは甚だ疑問に思ったが、まぁ俺には関係ないし、とさっさと原付を走らせる。
かぶき町から真選組屯所までそう何十分も掛からない、とくに小回りの利く二輪車なら殊更。
名前が久しぶりの風を感じるのもあっという間で、すでに屯所近くのコンビニを横切ろうとしていた。
「えー、もうちょっと走ってこうよー」
「何言ってんの?時間と距離に応じて料金請求するぞ。それに俺ぁさっさと届けて帰りたいの…てかさぁ、危機感とかないの?」
「何が?」
「プリンちゃんさぁ、例えば俺が個人的に真選組に恨み持ってるとかさぁ、良からぬ事考えてるんじゃないかとか、普通思ったりしない?」
そのつもりは更々無いのだが、年長者らしくお説教などをかましてみる。
という事で、2人を乗せた原付はコンビニを通り過ぎ、屯所の正門前の曲がり角で停車した。
エンジンを落とさずに地面に片足ついて停車させる、運転手の男は振り向いた。
「ほら着い…」
1発、頬に熱いストレートが決まった。
男はエンジンのかけっぱなしだった原付と共に倒れ込み、痛みにもがき苦しんだ。
その隙に名前は軽やかにシートの後ろから降りて、思いもよらぬ頬の痛みに困惑した様子の男の襟ぐりを掴んで引き摺った。
そして屯所の門前を警備していた隊士らに叫ぶ。
「なんか真選組に恨みがあって誘拐しようとしてきたロリコンのオッサン捕まえた!!」
「なにぃ!?」
いや、それは物の例えで言っただけで…。
言い訳も聞いてくれず、男はガタイの良い隊士らに捕縛されてしまった。
案の定騒ぎになってしまい、屯所内の男衆がわらわらと野次馬のように集まってくる、
その隊士らの1人が、揉みくちゃにされている男をよそ目に声をかける。
「何やってんだ」
「あっ、局長!反体制派のロリコン野郎が真選組に乗り込んできたんで捕まえました!」
「なんだ、ガッツあんなソイツ…って、万事屋じゃねーか」
「おいゴリラ!テメーんとこのガキにちゃんと躾けてろ、『人の話はちゃんと聞け』ってな!!」
ゴリラこと局長こと近藤は、その渦中の人物に驚いた、何せ反体制派のロリコンと言うのが自分のよく知る顔だったからだ。
思い起こして見ればこの男、何度も真選組とはいがみ合ってきた訳だし、よくよく考えれば、事務所とは言え自宅に十五程にもならない年齢のチャイナ娘を住まわせている。
「万事屋、自首か!?」と近藤が狼狽えると、「ちげぇよ!テメーも人の話はちゃんと聞けやぁあ!!」と喚き散らして指差した。
「こっちは迷子の迷子のお巡りさんを送り届けてやった健全な一般市民だっつーの!!」
指差された当本人はしてやったり顏だった。
「あれ、名前ちゃん帰って来たのか。てかトシは?」
「置いてかれたから先帰って来た」
「違ぇだろ!銀さんが送ってあげたんでしょーが!!」
何だそんな事だったのか、そりゃウチのお嬢が世話になったと近藤が言えば、一斉に男から手が引いた。
服や肌についた土埃を払い落として、ぶつくさと文句を言いながら男は立ち上がった。
すると屯所前にパトカーが1台やって来て、門の中へ入る訳ではなく停車する。
運転席から勢い良く出てきたのは咥え煙草の目つきの悪い男…間違いなくこの真選組副長・土方十四郎だった。
土方はずかずかと隊士らの輪の中に入っていくと…。
「てめぇくぉおらああああ!!」
と一喝して、プリン頭のカラメル部分に拳をぶち込んでやった。
「ぎゃあああ!!」と名前は悲鳴を上げて、響くようなあまりの痛さに地面に転がって喚き散らす。
その頭上から「俺は待ってろっつったよなぁ!?」と尚も怒鳴る、言いつけを守らなかったのは彼女の方なのだが、その場にいる誰もが「そこまですることはないだろ…」と少し同情してしまう程の剣幕だった。
「ま、まぁトシいいじゃねえか、そんなに怒鳴ってやるなよ!」
「近藤さん、甘やかさないでくれよ。こういうガキは痛い目みねーと…」
「あのー」
ちょっとよろしいでしょうか、とやる気のない目をした天パ男が木曜ドラマの金持ち女刑事さながら手を上げて近藤と土方の間に割って入る。
「あァ!?なんでココにてめーがいるんだ!?」
「いやいや、おたくのお嬢さんを送ってあげたの俺なんだけど」
「余計な世話なんだよ!!」
「あっそう。じゃあ余計なお世話ついでに言いますけどね、おたくら子供にこんな格好で丸腰のまま出歩かせるってどういう神経してんの?ただでさえあっちこっちで恨み買ってるっつーのに」
的にされても知らねーぞ、と男が言うと、近藤は顎鬚を撫で付けながら「まぁ、一理あるなぁ…」と何か考えるふうに言った。
こんな何考えてるのかわからねぇ野郎の事なんていちいち間に受けるなよ、と近藤に土方は吠える。
「まぁハリボテでも何でもいいじゃん、チャンバラごっこの刀でも水鉄砲でもさぁ、結構100均とかに売ってるよ」
「あたし水鉄砲がいいー」
「黙ってろ!反省しろ!」
暖簾に腕押し、糠に釘という言葉が良く似合う。
やれやれ、と言った風に土方と名前の様子を天パの男は見ながら、原チャリのハンドルにぶら下がったままのビニール袋に入った今週号の少年ジャンプの存在を思い出した。
「多串くん」
まったくかすりもしない名前で土方を呼んで肩をポンと叩いた。
「子育ては根気だよ、ファイティン!」
握りこぶしを作ってアピールする天パ男に、土方の額に青筋が宿る。
思わず脇差しに手が伸びたが、近藤が「まぁ、とりあえず業務報告してくれ」と言って局長室に来るよう命が下ったので、彼の顔に免じて舌打ちだけで終わらせてやる。
結局、今日の通報は目撃者の勘違いだったし、その後待ち合わせのコンビニに名前がいないので辺りを探し回るしで、散々だった。
そんな土方の苦労も露知らず、名前は原付に跨る男の元へ慌てて駆け寄る。
「ねー、また乗せてってよ」
「やだよ、俺はナイスバディの美女しかケツに乗せねーって決めてんの」
「なんだよ、ただのスケベなおっさんじゃん」
「オッサンじゃねーよ、銀さんって呼べ。もしくはお兄さん。テメーも父ちゃんの言う事ちゃんと聞いてやれよ、「臭い」とか「キモイ」とか言ってやるなよ」
じゃあなプリン娘、と言うと「銀さん」こと坂田銀時は原付を走らせて遠くへ行ってしまったのである。