親の心、親知らず
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時は江戸時代末期、つまりは幕末。
天人の支配下となった日本は文明の急発展により人類に豊かさを与えた。
例えば冷蔵庫や電子レンジなどの生活家電、テレビや携帯電話などの通信機器、そして車やバイクなどの移動手段。
当然、生活が豊かになれば、その分様々な悪事を考える輩も増える。
不要になった生活家電を無料で回収すると謳いながら法外な処分費用を請求する輩、高齢者の自宅に電話をかけ「ばーちゃん、オレオレ!」等と身内を装い金銭を騙し取る輩。
そしてもう一つ、江戸の治安を護る特殊警察・真選組を悩ませる新たな犯罪のタネが現れたのだった…。
「オレオレ詐欺の被害にご注意くださーい!」
「お願いしまーす!」
「コンビニの電子マネーの購入やプリペイドカードの番号要求は、詐欺でーす!」
人目や車通りの多い、大江戸の中心部にあるスクランブル交差点。
今年一番の夏日にも関わらず、見ているとこちらが暑苦しくなる程真っ黒い制服を着た男が横一列に並んで、『STOP!特殊詐欺』とポップな文字が印刷された団扇を見境なく通行人に配っている。
爽やかとは言い難い声音は蝉の声と相まって滑稽だ、日傘を差した高齢の女性には「あら、貴方がたが団扇をお使いなさいよ」なんて最もな事を言われる始末だった。
そもそも、こんなことを何で俺らがしなきゃならねーんだ。
土方はトレードマークのくわえ煙草も今日は見当たらず、汗をだらだらかきながら苛立っていた。
「仕方ねーよ、トシ。こうやって一般市民とも交流するのが、最近の役人の勤めなんだよ」
「いや…とは言ってもよ、せめて真夏には上着くらい脱いでもいいだろ、これじゃ熱中症にでもなってぶっ倒れちまう」
「勘弁してくだせぇ、そんなガンギマリの目で街中立ってりゃ、制服でも着てねーと、人斬りかと勘違いされて団扇が売れねーや」
それにお上にクレームが来るんだよ、と近藤に言われてしまえば、汗一つかかず涼しい顔をした沖田はどうであれ、文句は言えなかった。
チッと大袈裟に舌打ちして、自分の手中の団扇の枚数を確認したが、昼前に路頭に立っていた頃から全く減っていない。
とにかくいいからニコチンが欲しい、それがダメならせめて上着が脱ぎたい、汗も拭きたい、喉が乾いた…考えれば色んな欲が吹き出して、ますます苛立ちを増した。
「そう言えば、今日の夜の番は決まったのか?」
近藤がそう声をかけて、土方は少し考えた。
「夜…?」
「縁日だよ、祭りの夜間警備。最近は喧嘩だ何だと暴れ回るヤツも増えて来たからなー」
すっかり忘れていたと思って、脳内のスケジュールを確認した。
今日の昼間はずっと炎天下の中で団扇配りおよそ500枚、それから夕方に詰所に戻って来れたとしてもすぐに夜間警備に駆り出される。
ジワジワと人の体力を奪っていく温度…溜まったもんじゃない、この場の誰もが「俺はイヤだ」と心の内で叫んだ。
手中の団扇が残り数枚しかない沖田が、ニヤッと笑う。
「勝負しましょうや、自分の持ち分の団扇を配り終わった順に今日は上がりってことで」
時間は過ぎて午後6時、夏の湿った土のにおいが香る茜色の空の下では既に雑踏の音やお囃子が提灯の灯った大社の周りから聞こえる。
煙草をふかした土方はまだ日中の熱が籠ってじんわり重たい頭を抑えながら、中心部から少し離れた所にある薄暗い児童公園で突っ立っていた。
この児童公園は夏の間だけ、夜の7時から街灯が灯り始めるが、普段は誰も来やしない。
それがこの夏祭りの日だけ、なぜか街灯に群がる小虫のように人が集まってくる。
1人や2人、5人や6人ならまだいい…それが次第に数が膨れ上がると、不思議な事が起きるのだった。
「ふぅー」と濃い灰色の溜息を吐くと、公園からほんの数歩離れた茂みに、こっそりと吸い殻を捨てる。
そうすると背後から聞こえてくる…特殊警察の最近の悩みのタネである、あの音が。
ブンブン、バリバリ、パラリラ。
痛いほど耳障りなマフラー音と焼け爛れたような排ガスの臭い。
所謂、『暴走族』だ。
今すぐにもしょっ引いてやりたい程、その騒音は土方の頭に良く効いたが、5、6台の二輪車は公園の中に入ると大人しくなった。
せり上がった背もたれ付きのシートからぞろぞろと裾の長くダボついた服を着た奴らが揃いも揃って公園のど真ん中に集まって、顔を突き合わせて煙草を吸い始める。
見れば全員ガキだ、指導するべきだがそんな気も起こらなかった、それほど疲れ切っていた。
暴走族の連中は集まって何する訳でもなく、ただぎゃあぎゃあと笑い話をしていた。
それはまた別のバイクの音が近づいて来るまでのほんの僅かな時間だ。
あの独特なマフラー音が近付いてくると野生動物みたいに全員が耳をそば立て、やがてやって来た色違いの特攻服の奴らにガン飛ばす。
別に誰が権利を持っている訳じゃないが、彼らにとっては大事なのだ、この児童公園が誰の縄張りなのか。
「副長、止めますか!?」
土方はぎゃあぎゃあ喚き散らす子供たちの縄張り争いを尻目に、煙草に火を付けた。
「ほっとけ」
「このままじゃ殴り合い勃発しますけど…」
「やらせとけ、拳で始まる友情もある」
俺はその例を知らねーけどな、と無責任に背中を向けると、もう少し風の通る場所を求めて公園の入口からフェンスの外側を縫って植込みの方へ歩く。
するとその植込みの花壇の所にもたれ掛かる様にして、一台の二輪車が停められていた。
その外装といったら、公園内に置かれたバイクと同じようにゴテゴテの装飾で、ロケットカウルや風防に3段シート、チーム名が描かれた旗がそよいでいる。
しかし何かが違う…エンジンを積んでないというか…。
土方は思わず口に出した。
「ママチャリかよ…ダッセェ…」
そう言うや否や、すぐ側のフェンスに肘をつきながら凭れている人影に気づき、はっと目をやる。
公園内で縄張り争いを激しくさせている男らと同じ、紫色の長い特攻服にサラシを巻いたスタイルの…プリン頭のうら若い少女だった。
「見てんじゃねーよ、ポリ公ぅ!エドマン舐めんなぁ!」
ペッと唾を吐き捨てる。
甲高い声で慣れない舌を巻いて叫ぶ言葉だけは、いっちょ前だ。
『エドマン』というのは、最近この辺りで新しく出来たらしい暴走族『大江戸卍會』、略してエドマンの事だろう。
「…舐めてねーよ、早く帰れ」
土方は大きく溜息を吐いた、少女は頭に響くようなキンキンとした声で「うるせーよ!」とあくまで強気な姿勢を崩さない。
そうこうしてると公園内の活気が一気に弾ける様に上がった、パッと目を奪われると取っ組み合いの喧嘩が勃発してした。
チッと舌打ちをする、余計な仕事増やしやがって。
隣の少女はウットリと、その男どもの乱闘をまるでヤクザ映画の姐さんのように見つめていた。
「全員補導だよ、お開きだ。関係ねーんだから、お前も早く帰れ」
「あれ、あたしの彼氏」
フフン、と自慢げに乱闘のど真ん中を指差した。
そこには丁度地面に転げ回り、上からマウントを取りながら思い切りボコボコに殴る奴と、鼻水と土まみれでぐちゃぐちゃになりながらボコボコに殴られている奴がいる。
「上の奴か?」
「ううん、殴られてる方」
「………」
最近のガキの事はわからん、そう思いながら公園内に足早に戻り、部下から手持ちの拡声器を分取ると、昼間の仕打ちを根に持っているのか腹いせに叫んだ。
「てめーら全員、生捕だ!」
一斉に真選組の隊士らが動いた、辺りで冷やかしていた連中らは急いでバイクに乗り込み、蜘蛛の子散らす様に逃げ回る。
まさに喧嘩の渦中にいた男どもはあっという間に取り押さえられたが、興奮も収まらず隊士を殴りつけるなど激しい抵抗を見せた。
しかし、件の少女の彼氏は息も絶え絶えで呆気なく取り押さえられた。
その彼氏は最後の力を振り絞り、フェンスの向こうで見守っていた最愛の女に叫んだ。
「名前っ、お前だけは…お前は逃げてくれー!」
「りっ、リュウジー!!」
「俺たちエドマンはお前に託したー!!」
少女は涙ぐみながらも意思を固くして大きく頷き、族車ならぬ族ママチャリをガン漕ぎして夜の江戸を駆けたのである。
(なんだこの茶番…)
土方は一連のドラマティックな展開に、昼間の疲れが一気にどっと出るのを感じ、目眩がした。
天人の支配下となった日本は文明の急発展により人類に豊かさを与えた。
例えば冷蔵庫や電子レンジなどの生活家電、テレビや携帯電話などの通信機器、そして車やバイクなどの移動手段。
当然、生活が豊かになれば、その分様々な悪事を考える輩も増える。
不要になった生活家電を無料で回収すると謳いながら法外な処分費用を請求する輩、高齢者の自宅に電話をかけ「ばーちゃん、オレオレ!」等と身内を装い金銭を騙し取る輩。
そしてもう一つ、江戸の治安を護る特殊警察・真選組を悩ませる新たな犯罪のタネが現れたのだった…。
「オレオレ詐欺の被害にご注意くださーい!」
「お願いしまーす!」
「コンビニの電子マネーの購入やプリペイドカードの番号要求は、詐欺でーす!」
人目や車通りの多い、大江戸の中心部にあるスクランブル交差点。
今年一番の夏日にも関わらず、見ているとこちらが暑苦しくなる程真っ黒い制服を着た男が横一列に並んで、『STOP!特殊詐欺』とポップな文字が印刷された団扇を見境なく通行人に配っている。
爽やかとは言い難い声音は蝉の声と相まって滑稽だ、日傘を差した高齢の女性には「あら、貴方がたが団扇をお使いなさいよ」なんて最もな事を言われる始末だった。
そもそも、こんなことを何で俺らがしなきゃならねーんだ。
土方はトレードマークのくわえ煙草も今日は見当たらず、汗をだらだらかきながら苛立っていた。
「仕方ねーよ、トシ。こうやって一般市民とも交流するのが、最近の役人の勤めなんだよ」
「いや…とは言ってもよ、せめて真夏には上着くらい脱いでもいいだろ、これじゃ熱中症にでもなってぶっ倒れちまう」
「勘弁してくだせぇ、そんなガンギマリの目で街中立ってりゃ、制服でも着てねーと、人斬りかと勘違いされて団扇が売れねーや」
それにお上にクレームが来るんだよ、と近藤に言われてしまえば、汗一つかかず涼しい顔をした沖田はどうであれ、文句は言えなかった。
チッと大袈裟に舌打ちして、自分の手中の団扇の枚数を確認したが、昼前に路頭に立っていた頃から全く減っていない。
とにかくいいからニコチンが欲しい、それがダメならせめて上着が脱ぎたい、汗も拭きたい、喉が乾いた…考えれば色んな欲が吹き出して、ますます苛立ちを増した。
「そう言えば、今日の夜の番は決まったのか?」
近藤がそう声をかけて、土方は少し考えた。
「夜…?」
「縁日だよ、祭りの夜間警備。最近は喧嘩だ何だと暴れ回るヤツも増えて来たからなー」
すっかり忘れていたと思って、脳内のスケジュールを確認した。
今日の昼間はずっと炎天下の中で団扇配りおよそ500枚、それから夕方に詰所に戻って来れたとしてもすぐに夜間警備に駆り出される。
ジワジワと人の体力を奪っていく温度…溜まったもんじゃない、この場の誰もが「俺はイヤだ」と心の内で叫んだ。
手中の団扇が残り数枚しかない沖田が、ニヤッと笑う。
「勝負しましょうや、自分の持ち分の団扇を配り終わった順に今日は上がりってことで」
時間は過ぎて午後6時、夏の湿った土のにおいが香る茜色の空の下では既に雑踏の音やお囃子が提灯の灯った大社の周りから聞こえる。
煙草をふかした土方はまだ日中の熱が籠ってじんわり重たい頭を抑えながら、中心部から少し離れた所にある薄暗い児童公園で突っ立っていた。
この児童公園は夏の間だけ、夜の7時から街灯が灯り始めるが、普段は誰も来やしない。
それがこの夏祭りの日だけ、なぜか街灯に群がる小虫のように人が集まってくる。
1人や2人、5人や6人ならまだいい…それが次第に数が膨れ上がると、不思議な事が起きるのだった。
「ふぅー」と濃い灰色の溜息を吐くと、公園からほんの数歩離れた茂みに、こっそりと吸い殻を捨てる。
そうすると背後から聞こえてくる…特殊警察の最近の悩みのタネである、あの音が。
ブンブン、バリバリ、パラリラ。
痛いほど耳障りなマフラー音と焼け爛れたような排ガスの臭い。
所謂、『暴走族』だ。
今すぐにもしょっ引いてやりたい程、その騒音は土方の頭に良く効いたが、5、6台の二輪車は公園の中に入ると大人しくなった。
せり上がった背もたれ付きのシートからぞろぞろと裾の長くダボついた服を着た奴らが揃いも揃って公園のど真ん中に集まって、顔を突き合わせて煙草を吸い始める。
見れば全員ガキだ、指導するべきだがそんな気も起こらなかった、それほど疲れ切っていた。
暴走族の連中は集まって何する訳でもなく、ただぎゃあぎゃあと笑い話をしていた。
それはまた別のバイクの音が近づいて来るまでのほんの僅かな時間だ。
あの独特なマフラー音が近付いてくると野生動物みたいに全員が耳をそば立て、やがてやって来た色違いの特攻服の奴らにガン飛ばす。
別に誰が権利を持っている訳じゃないが、彼らにとっては大事なのだ、この児童公園が誰の縄張りなのか。
「副長、止めますか!?」
土方はぎゃあぎゃあ喚き散らす子供たちの縄張り争いを尻目に、煙草に火を付けた。
「ほっとけ」
「このままじゃ殴り合い勃発しますけど…」
「やらせとけ、拳で始まる友情もある」
俺はその例を知らねーけどな、と無責任に背中を向けると、もう少し風の通る場所を求めて公園の入口からフェンスの外側を縫って植込みの方へ歩く。
するとその植込みの花壇の所にもたれ掛かる様にして、一台の二輪車が停められていた。
その外装といったら、公園内に置かれたバイクと同じようにゴテゴテの装飾で、ロケットカウルや風防に3段シート、チーム名が描かれた旗がそよいでいる。
しかし何かが違う…エンジンを積んでないというか…。
土方は思わず口に出した。
「ママチャリかよ…ダッセェ…」
そう言うや否や、すぐ側のフェンスに肘をつきながら凭れている人影に気づき、はっと目をやる。
公園内で縄張り争いを激しくさせている男らと同じ、紫色の長い特攻服にサラシを巻いたスタイルの…プリン頭のうら若い少女だった。
「見てんじゃねーよ、ポリ公ぅ!エドマン舐めんなぁ!」
ペッと唾を吐き捨てる。
甲高い声で慣れない舌を巻いて叫ぶ言葉だけは、いっちょ前だ。
『エドマン』というのは、最近この辺りで新しく出来たらしい暴走族『大江戸卍會』、略してエドマンの事だろう。
「…舐めてねーよ、早く帰れ」
土方は大きく溜息を吐いた、少女は頭に響くようなキンキンとした声で「うるせーよ!」とあくまで強気な姿勢を崩さない。
そうこうしてると公園内の活気が一気に弾ける様に上がった、パッと目を奪われると取っ組み合いの喧嘩が勃発してした。
チッと舌打ちをする、余計な仕事増やしやがって。
隣の少女はウットリと、その男どもの乱闘をまるでヤクザ映画の姐さんのように見つめていた。
「全員補導だよ、お開きだ。関係ねーんだから、お前も早く帰れ」
「あれ、あたしの彼氏」
フフン、と自慢げに乱闘のど真ん中を指差した。
そこには丁度地面に転げ回り、上からマウントを取りながら思い切りボコボコに殴る奴と、鼻水と土まみれでぐちゃぐちゃになりながらボコボコに殴られている奴がいる。
「上の奴か?」
「ううん、殴られてる方」
「………」
最近のガキの事はわからん、そう思いながら公園内に足早に戻り、部下から手持ちの拡声器を分取ると、昼間の仕打ちを根に持っているのか腹いせに叫んだ。
「てめーら全員、生捕だ!」
一斉に真選組の隊士らが動いた、辺りで冷やかしていた連中らは急いでバイクに乗り込み、蜘蛛の子散らす様に逃げ回る。
まさに喧嘩の渦中にいた男どもはあっという間に取り押さえられたが、興奮も収まらず隊士を殴りつけるなど激しい抵抗を見せた。
しかし、件の少女の彼氏は息も絶え絶えで呆気なく取り押さえられた。
その彼氏は最後の力を振り絞り、フェンスの向こうで見守っていた最愛の女に叫んだ。
「名前っ、お前だけは…お前は逃げてくれー!」
「りっ、リュウジー!!」
「俺たちエドマンはお前に託したー!!」
少女は涙ぐみながらも意思を固くして大きく頷き、族車ならぬ族ママチャリをガン漕ぎして夜の江戸を駆けたのである。
(なんだこの茶番…)
土方は一連のドラマティックな展開に、昼間の疲れが一気にどっと出るのを感じ、目眩がした。