杉元夫婦の日常
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今日、佐一さんは公休日だ。
だから昨日は二人でさんざん夜更かしをしてしまって、今朝の朝餉の準備を急かされていた。
慌てて土間に飛んできたから、髪や着物も少々乱れてしまっているのは自分でよく分かっている。
釜を炊いて、小鍋で湯を沸かしている間に、糠に着けていた大根を一口大に切っていく。
せかせかと台所行ったり来たりしていると、寝床からようやく出てきた佐一さんが大きなあくびをしながら土間へやってきた。
「おはようございます」
「うーん、おはよう」
履物を変えてわざわざ来た佐一さんはそう簡単には居間へ上がらず、なぜかずっと私の背後を行ったり来たりしている。
私がまな板の前にいればそこに、釜の様子を見に行けばそこに。
「もう、なんなの」
「ふふ、ごめん」
「今朝の新聞なら、食卓の上に置いてますよ」
そう言っても彼は立ち退かない。
彼はたまにこういう子供じみたことをしたりするので、構わず食事の準備を進めることにした。
私が構わなくなったのが気に入らないのか、彼は背後にぐっと体を近づけ、私の腰に手をやって妨害行為に至った。
「そんなんじゃ、いつまでたっても食事できませんよ!」
はーい、と反省の色を微塵も感じない明るい返事をすると、ようやく居間で大人しく新聞を読み始めた。
その日はずっと、佐一さんはそんな調子だった。
母親の気を引きたい子供みたいに私のまわりをウロチョロして、それに私が我慢できなくなってちょっと声を荒げるとようやく離れてくれる。
日が当って明るい縁側で、佐一さんの古いお洋服を繕っているとやっぱり彼は静かに近寄って、私のすぐ横にごろんと寝転がる。
私もしばらくは気にしないふりをしてチクチク針仕事をこなしていると、次に彼は腕を放り出してわざと私の太ももにこつんと当てた。
たえろ名前、今は我慢の時…。
それでも構わず手を動かしていると、ついに敵軍は最終手段に出た。
横たわった体をずりずりと板の間に擦りつけて近づくと、正座する私の膝を枕にし始めたのだ。
私は慌てて針を針刺しに戻し、せっかくあと少しで終わりそうだった繕いものを手放す羽目になった。
「佐一さん!」
「んー?」
「危ないじゃないですか、縫い針が刺さりますよ!」
そんな針で俺が死ぬわけじゃないでしょ、と笑っているが、私が申し上げたいのはそういうことではない。
でも佐一さんはやかましく言う私をよそに、気持ち良さそうに目をつむった。
「もう、今朝から私をからかうことばっかりして!」
やっぱり、彼はへらへらするだけなので、ちょっと腹が立った。
こんな仕打ちを夫にするべきではないと分かっていながら、でも我慢がきかず、両膝にのせている佐一さんの頭を力づくで板の間へ転がした。
ゴツンと鈍い音がしたが、やはり私の夫はそこらの鉄よりも体が丈夫なのかけろっとした顔だ。
「ハハ、ごめんね」
だってさぁ、と彼は言って、むくりと起き上った。
「名前ちゃん自分で気づいてないと思うけど、ちょっと怒った時の顔、すごく可愛いんだもん」
「……は?」
「ほっぺた、膨れてるの分かんない?あー、リスみたいで可愛い~!」
いつも凛々しげで大きな傷がある彼の顔が、まるで陽に当てて溶けた飴玉みたいにふにゃりと崩れていった。
そしてこっちの都合も知らず、私の頬を指先でつんつん、つんつんといつまでもつつく。
私は急に恥ずかしくなって、くるっと背を向けて顔を見られないようにするけど、佐一さんはしつこく回り込んできた。
「もう、見ないで!」
「あ、また膨らんだ」
「もう~!」
「ハハハ、ごめんってば」
自分の無自覚な仕草を他人に指摘されるのは本当に恥ずかしくて、はやく彼がどこか出かけてしまえばいいのにと思った。
でも彼は裏腹に、背を向ける私をまるで幼児が人形でそうするかのように、後ろから強く抱き込んだ。
せっかくの休日なんですから他にすることは無いんですか、と怒り任せに嫌味を言っても、佐一さんは「休日は妻を構うのが、俺のつとめなの」と意味のわからないことを言った。