短編
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「…アシリパさん、何やってるの?」
狩りから帰ってきた杉元の目線の先にいるアシリパは、まさに恍惚の表情で名前の膝の上に頭を乗せていた。
「おお、杉元!こ、これはスゴイぞぉ…」
今にも涎を垂らしそうなくらいに口元をだらしなくさせたアシリパ。
反対に彼女の頭を膝に乗せていた名前は、ちょっと忙しそうに、彼女の耳から何かを引っ張り出して杉元に見せた。
「耳掃除です」
背に綿毛のようなものをひっつけた棒に、杉元はアシリパのうっとりした表情に合点がいく。
その棒で古紙の上をトントンと叩くと、小さく削れた耳垢がパラパラと落ちて行った。
そしてまたアシリパの耳の中へ吸い込まれていくあの棒、その行為を見ていると、なぜだか自分の耳の中がむず痒くなる。
「うーん、もう綺麗になったかなあ」
「えっ、も、もう終わりなのかー!?」
「あんまりやりすぎたら、耳が痛くなっちゃうでしょ」
アシリパはよっぽど耳掃除が気持ち良かったのか、頬をふくらまして渋々名前の膝から頭をあげた。
そして「聞こえやすくなった!」と満足そうに笑っていたので、つられて彼女も微笑む。
「杉元、お前もやってもらえ!」
「ええ!?」
時々、この子は事情を知ってか知らずか、大胆な提案を押し付けてくる。
気持ちいいぞと熱弁を奮っている、耳掃除が気持ちいいことはとうの昔にわかっているけど…杉元はなぜか乙女のように顔を赤く染めて、いじいじと指先だけで手遊びを始め出した。
名前はにっこり笑って自身の膝を叩き、「おいで」と言った、その行動がどれほど罪深いものなのか彼女自身は知らない。
「し、失礼いたします…」
「なんでそんなに動きが堅苦しいんだ?」
軍帽を脱ぎ、まずは名前の横にきちんと正座をする。
そしてゆっくりと、本当に良いのかと確かめるようにゆっくり上半身を横倒しにした。
頬に、着物ごしに感じる体温と太ももの柔らかさが、心臓を突き破りそうなほど刺激した。
「それじゃ、始めますね」
名前の吐息が近くなって、それどころじゃない。
耳に固いものがコツンと触れると、ゆっくり耳の中へ埋もれて行って擽る。
カリカリと耳の中で音がするたび、心臓がまた高鳴って背中が粟立った。
「なあ、気持ちいいだろ?スゴイだろ?」
アシリパさん、俺は今それどころじゃないんだ。
油断すると吐息が溢れそうなほど気持ちいいのと、彼女の体温のすべてが体に感じられて、これが幸福なのかとしかと実感する。
名前の指がたまに耳を引っ張るのも、痛いとも感じなかった。
「ふふ、思い出すなぁ、昔のこと」
「ん?名前はよくやってたのか?」
「そう。私は年の離れた弟がいたから、たまにこうやって耳掃除してあげたの」
弟…、オトウトね。
高い壁に四方を囲まれてしまったような言いようのない絶望感を感じたが、それでもこの状況が幸福であることは間違いない。
今はただこの幸せを噛み締めようと杉元はかたく誓った。
「でも、それは弟がまだ小さいときだったから」
耳の浅いところを優しく、掬い上げた垢を落とさないように繊細に掻いた。
「…男の方にして差し上げるのは、杉元くんがはじめてね」
この人は本当に男殺しだ、わかってやっているのだろうか?
顔の熱がどんどん高まって、次第に頭がクラクラしてきた。
心臓が勝手に皮膚を突き破ってどこかに飛んでいってしないそうな感覚を覚えながら、杉元はぎゅっと目を瞑った。