杉元夫婦の日常
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佐一さんが家に帰ってからすぐに仕事着用のシャツを渡してきて、取れかかった釦を直して欲しいと言われたので裁縫道具を入れた箱を探した。
私はいつもそれを鏡台の横に置いていることにしていたので、無くなるなんておかしな話だ。
どこだったかと記憶を頼りにしながら家の中を歩き回ると、私が嫁入りの時に持って来た大きな桐箪笥の上にあった。
手を伸ばしたって届きっこないので、私は彼に頼るしかない。
「佐一さーん」
私が呼ぶと、まるでそれを予期してたみたいにすぐ「何?名前ちゃん」と返事をして、襖から顔を覗かせた。
佐一さんが手を伸ばすとあっという間に届いてしまって、「ここでいいの?」と聞いてから少し重い裁縫箱を畳の上に置いてくれる。
そして私の髪の毛をさらっと触れて、居間の方へ歩いて行った。
その次はお砂糖の瓶、またその次は化粧道具を入れた葛籠がいつの間かなくなって、探し回ると必ず手の届かないような高い所で見つかる。
…そうするとさすがに、私だって気付きますよ。
だって私の手が届かない所に物を置ける人なんて、この家じゃ限られているでしょ。
それに佐一さん、私が呼ぶとどんな用事があったって、必ずご機嫌でやって来るくせに。
「佐一さーん」
「なあに、名前ちゃん」
今日はお醤油の瓶が食器棚の上にポンと置かれていた。
いつも食事の際に食卓に並んでいる物が、そんなところにあるなんておかしな話でしょう?
佐一さんはすぐにやって来て、不満一つ言わずに食器棚の上の方へぐっと手を伸ばした。
私は彼の脇の下が空っぽにになったのを確認して、すぐに彼の腹の下に腕を巻きつけてぎゅうっと抱き締めた。
「わ!」
普段の私らしからぬ振る舞いに彼はやっぱり驚いて、すんでの所で手を滑らせて醤油瓶を落とすところだった。
彼の温かい背中に頬を寄せると、どくどく心臓が脈打つのを感じて、私の顔も熱くなる。
「佐一さんのせいですよ…」
「ええっと…」
「もう、なんでこんなに可愛いことなさるんですか!」
だって、名前ちゃんが俺を呼んでくれるのが嬉しいんだもん。
そう言う彼の所為で、私はますますこの彼の体から離れることが出来ず、おまけに顔を見られるのさえもっと難しくなった。
「もっと俺のこと頼って、もっと名前呼んでくれる?そうすれば、もうこんないたずらしないから」
そんなに強請らなくたって、この先ずっとその機会は飽きるほどあるじゃないですか。
腰の辺りで交差した私の両手を彼は空いた片手で包み込んだ。
「…でも、こうやって名前ちゃんから抱いてくれたから」
緩んだ両手を解いて、佐一さんはくるっと回り、真っ赤っかな顔をした私の顔を確かめるみたいに振り返った。
そしてわざわざ腰を少し屈ませてから、熱を持った頬にちゅっと音を立てて口づけた。
「やっぱり、続けようかな」
佐一さんは悪戯に成功した子供みたいに笑っていたけど、彼の頬だって少し赤く染まっている気がした。
それを言ってやろうと思ったけど、どうせこの人は西日が当たっているせいにするので、口を噤んだ。