杉元夫婦の日常
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冬の小樽の夜は、本州・関東のそれとは打って変わり、手の先から足の先まで痺れるようだった。
私たち夫婦の泊まる宿には有り難いことに野外の温泉があったが、よく温まった体とは裏腹に客室に敷かれていた2組の布団は冷たかった。
ろうそくの明かりを消し、しばらく小樽の夜の静けさに浸っていたが、しばらくすると体を挟み込む布団が徐々に体温を奪っていく。
これが「しばれる」という感覚なのだろうか。
そう言えば、家のご近所に住む奥さんには、新婚旅行はどこへ行くおつもりかと聞かれたので、素直に「一週間ほど、北海道へ行きます」と答えると大層驚いた顔をされたのをよく覚えている。
行き先を決めたのは佐一さんだった。
彼はまだ独身の頃、北海道を駆け回り、そこでアイヌの方々にたいへん世話になったと話してくれた。
その方々へまずは挨拶と、それから妻である私を紹介したいのだという。
私にとってはこれが初めての北海道の旅だった。
そういえば旅立つ直前に着替えていると、佐一さんは「これじゃ薄着すぎる」などと口やかましく言っていたなあと、今になってあの言葉が効いてくる。
はあ、と大げさに息を吐いてみると自分の体温が全て出て行ってしまう感じがして、慌てて息を止めた。
するとがさがさと綿布団が擦れる音がして、さっきまで私に背を向けるように寝ていた佐一さんが寝返りを打った。
暗闇の中でばっちりと、彼と目が合う。
「寒い?」
あたりまえじゃないですか。
私は何度も首を縦にゆすった。
「俺も…久しぶりに寒さを思い知った」
「佐一さんも?」
「うん。ほら、手貸してごらん」
私は寒さで痺れた手を佐一さんの布団の方へ伸ばした。
自分の布団の外へ放り出された手は外気を感じ、同じように布団の外へ飛び出した彼の手に触れる。
あたたかい、と感じたと同時に、うわ!と佐一さんの悲鳴が響いた。
「名前ちゃん、冷たい~」
「もう、そんなに嫌なら触らなきゃいいじゃないの!」
「ごめんってば、嫌じゃないよ。もっとこっちおいで」
掴んだ手をにぎにぎと緩く握ると、まるでほぐされるように温かさが蘇ってくる感じがした。
ほら、と佐一さんは自分の掛け布団を捲り上げて、こっちへ来いと暗に私に言いつける。
言われたとおりに彼の作ったかまくらの中へ身体を放り込むと、自分の布団とは比べものにならないくらい温かい。
佐一さんは「寒い、名前ちゃん冷たい!」と子供のように騒ぎ立てながら、言葉とは裏腹に冷たい私の身体を逞しい腕でぎゅっと抱き込んでくれた。
「…ここに来れて良かった」
「どうしてですか?」
彼の呼吸は温かく、私の前髪をくすぐった。
少し息苦しさを感じる布団の中で、彼の胸板に額をこすり付けると、彼は答えるように私の背中をさする。
「男ってのはさ、みんな、自分の妻には、自分のことをよく知っておいて欲しいって思ってる…もんだと思う」
「そうなんですか?」
「あのさ、名前ちゃん」
彼の腕の力がぐっと強くなり、圧迫感がさらに強くなる。
苦しいはずなのに、寒くてつま先が痺れるのに、なぜか私の胸の内は春の陽気のような心地よさだった。
「俺はね、君が思ってる以上に、君のこと考えてるよ」
佐一さんの体温が跳ね上がるように高くなり、熱い胸板から聞こえる心音はどんどん速くなった。
私も同じように体が熱くなるのを感じて、途端に背中が汗ばんだ感じがする。
彼は時々、こういうロマンチックなことを言うと、それからしばらく何も言わなくなって、だんまりを決め込むのがずるい癖だと思う。
そして悪ふざけのようにこうして私のお尻にわざと手のひらを押し付けて、誤魔化そうとするのだ。
「もう!」
「…だめ?」
「いけませんよ、だって…こういうの」
お尻を触っていた手が、捲り上がった寝間着の隙間から素肌に触れようとしたのを、慌てて掴んだ。
佐一さんは叱られた子供のような目つきをしているのが、暗闇の中でもよくわかる。
「だってくっついてたら、しょうがないでしょ、男ってのはさあ」
そう言いながら、二人の体温ですっかり温まった布団に心地が良くなったのか、あれだけ強かった腕の力が徐々に緩くなっていき、少しいやらしさを含んでいた手つきもおとなしくなった。
同じように私もあくびをしてしまい、彼の息遣いが寝息に変わるのを見届けると、あっという間に意識を手放してしまった。
私たち夫婦の泊まる宿には有り難いことに野外の温泉があったが、よく温まった体とは裏腹に客室に敷かれていた2組の布団は冷たかった。
ろうそくの明かりを消し、しばらく小樽の夜の静けさに浸っていたが、しばらくすると体を挟み込む布団が徐々に体温を奪っていく。
これが「しばれる」という感覚なのだろうか。
そう言えば、家のご近所に住む奥さんには、新婚旅行はどこへ行くおつもりかと聞かれたので、素直に「一週間ほど、北海道へ行きます」と答えると大層驚いた顔をされたのをよく覚えている。
行き先を決めたのは佐一さんだった。
彼はまだ独身の頃、北海道を駆け回り、そこでアイヌの方々にたいへん世話になったと話してくれた。
その方々へまずは挨拶と、それから妻である私を紹介したいのだという。
私にとってはこれが初めての北海道の旅だった。
そういえば旅立つ直前に着替えていると、佐一さんは「これじゃ薄着すぎる」などと口やかましく言っていたなあと、今になってあの言葉が効いてくる。
はあ、と大げさに息を吐いてみると自分の体温が全て出て行ってしまう感じがして、慌てて息を止めた。
するとがさがさと綿布団が擦れる音がして、さっきまで私に背を向けるように寝ていた佐一さんが寝返りを打った。
暗闇の中でばっちりと、彼と目が合う。
「寒い?」
あたりまえじゃないですか。
私は何度も首を縦にゆすった。
「俺も…久しぶりに寒さを思い知った」
「佐一さんも?」
「うん。ほら、手貸してごらん」
私は寒さで痺れた手を佐一さんの布団の方へ伸ばした。
自分の布団の外へ放り出された手は外気を感じ、同じように布団の外へ飛び出した彼の手に触れる。
あたたかい、と感じたと同時に、うわ!と佐一さんの悲鳴が響いた。
「名前ちゃん、冷たい~」
「もう、そんなに嫌なら触らなきゃいいじゃないの!」
「ごめんってば、嫌じゃないよ。もっとこっちおいで」
掴んだ手をにぎにぎと緩く握ると、まるでほぐされるように温かさが蘇ってくる感じがした。
ほら、と佐一さんは自分の掛け布団を捲り上げて、こっちへ来いと暗に私に言いつける。
言われたとおりに彼の作ったかまくらの中へ身体を放り込むと、自分の布団とは比べものにならないくらい温かい。
佐一さんは「寒い、名前ちゃん冷たい!」と子供のように騒ぎ立てながら、言葉とは裏腹に冷たい私の身体を逞しい腕でぎゅっと抱き込んでくれた。
「…ここに来れて良かった」
「どうしてですか?」
彼の呼吸は温かく、私の前髪をくすぐった。
少し息苦しさを感じる布団の中で、彼の胸板に額をこすり付けると、彼は答えるように私の背中をさする。
「男ってのはさ、みんな、自分の妻には、自分のことをよく知っておいて欲しいって思ってる…もんだと思う」
「そうなんですか?」
「あのさ、名前ちゃん」
彼の腕の力がぐっと強くなり、圧迫感がさらに強くなる。
苦しいはずなのに、寒くてつま先が痺れるのに、なぜか私の胸の内は春の陽気のような心地よさだった。
「俺はね、君が思ってる以上に、君のこと考えてるよ」
佐一さんの体温が跳ね上がるように高くなり、熱い胸板から聞こえる心音はどんどん速くなった。
私も同じように体が熱くなるのを感じて、途端に背中が汗ばんだ感じがする。
彼は時々、こういうロマンチックなことを言うと、それからしばらく何も言わなくなって、だんまりを決め込むのがずるい癖だと思う。
そして悪ふざけのようにこうして私のお尻にわざと手のひらを押し付けて、誤魔化そうとするのだ。
「もう!」
「…だめ?」
「いけませんよ、だって…こういうの」
お尻を触っていた手が、捲り上がった寝間着の隙間から素肌に触れようとしたのを、慌てて掴んだ。
佐一さんは叱られた子供のような目つきをしているのが、暗闇の中でもよくわかる。
「だってくっついてたら、しょうがないでしょ、男ってのはさあ」
そう言いながら、二人の体温ですっかり温まった布団に心地が良くなったのか、あれだけ強かった腕の力が徐々に緩くなっていき、少しいやらしさを含んでいた手つきもおとなしくなった。
同じように私もあくびをしてしまい、彼の息遣いが寝息に変わるのを見届けると、あっという間に意識を手放してしまった。