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「もう限界かもしれません。」
「限界…」
これ以上隠し通せないでしょう、と言われたのは唐突だった。その日はハーツラビュルのなんでもない日のパーティに呼ばれていた。前日から、トレイ先輩と一緒にケーキを作って会場準備を手伝った。パーティでなんでもない日をお祝いした。冗談で、「首をはねてしまうよ」、と笑うリドル先輩に、首をはねない様にお願いして、みんなで馬鹿みたいに笑った。
楽しいパーティの後は、最近日課になってしまった、モストロ・ラウンジで夕食を食べた。ちょっと色々あったけど、帰路につくところで、学園長からの急な呼び出しだった。
グリムに「お前、何したんだ?」って言われたけれど「何も。」と適当にあしらって、先に帰っているようにお願いした。
何となく、話す内容に察しがついていた…と今になって思う。日が沈んで暗い廊下を、学園長と無言で歩く時間、私はまるで刑場に連れ出される死刑囚のように緊張していたから。
そして今、退学と言う言葉が目の前に迫っていた。
「それで、退学期限はいつでしょうか。私は、どうしたらいいですか。」
「案外あっさりと受け入れるんですね。」
「ずっと覚悟はしていました。」
「そうですか。」
退学した後の家は、学園長が用意してくれるのだという。その準備にどのくらいかかるか問うと、数日だと。この世界はそんなに簡単に家が見つかるのかと驚いたが、学園長が敏腕なのだ。多分。
「数日で、家は用意できると思います。本当は、前々から準備はしてあったんです。生活できるようにしてあります。」
「やはり、そうだったんですね。」
いつ言われるか、最近はいつもおびえていたのだ。体が成長してしまったから、もう隠し通せはしないだろうと。周囲も、気付いていながらよく言わないでいてくれたものだ。
「それこそ、最も早い期日なら数日。でも監督生さんが望むなら、学期末でも…」
「いえ、結構です。準備ができ次第で構いません。」
「そうですか。」
「でも、グリムはどうなりますか。あの子は…退学にならないですよね?」
「それに関しては、私のほうで卒業まで面倒を見ます。いくら何でも、そこまで非道なことはできません。」
「よかった。なら、いいんです。」
学園が守るべきは、学生と学校だ。グリムだって立派な魔法士になろうとしている学生に違いない。それが守られるなら、私にこれ以上の配慮は必要ない。…もともと私は部外者だ。
「学園を退学した後は、しばらく生活が安定するまで援助します。…あとは、私が引き続き元の世界に帰る方法を探しましょう。」
「はい。…よろしく、お願いします。」
そこまで面倒を見てもらえるなら、おそらく暮らしていけるだろう。でも少なくとも、自力で帰る方法を探すことができなくなった。この多忙な学園長に、それを見つけることはできるだろうか。あまり期待はしていない。
だから、少し覚悟していた。この世界で、生きていくしかなくなったと。
正直、退学を言い渡されてショックがなかったとは言わない。でもどこか安心している自分がいた。やっと、周囲におびえる生活から解放される。最近は、一人でいると嫌がらせされることが多かったから。
先生方は、私の退学の件をすでに知っているそうだ。あとは、私の返答次第だという。
「このような結果になってしまい、申し訳ありません。」
「いえ、約一年、ここに置いてもらえただけでも、私はありがたいと思っています。たくさん学ばせてもらいました。ありがとうございます。」
「我儘の一つでも、言ってくれてもいいんですよ。一応、私大人ですから。」
「では、…では、一つだけ。」
私の願いは一つだけ。みんなに今まで通り過ごしてほしいということくらいだ。
この世界で生きていくとしても、もうこの学園の生徒たちと関わることはないと決めていた。だから、もし私の居場所を聞く人がいたら、私が元の世界に帰ったとみんなに伝えてほしい。
「私は学園長ですから、生徒に嘘はつけません。ですが、そうですね。“帰った”事実だけは、聞かれた場合のみお答えすることにします。」
「それで充分です。私、騒がしいのは嫌いなので。」
「おや、そうですか?随分楽しそうにしていたような気がしますが。」
「そうですか?勘違いでは?」
私の言葉が強がりなのは、多分お見通しだろう。首を傾げながら、学園長は言う。
「数日後、というと…舞踏会がありますね。」
「…そうですね。」
「ご予定がありそうですから、舞踏会の翌日に退学にしますか。」
「ご予定ないですし、そんな明るく退学言い渡すことあります?」
「いえいえ、学生生活は最後まで楽しんでほしいんです。青春ですねぇ。」
「喧嘩売ってます?」
「まさかそんなことは。」
そんな軽口もほどほどに、私は退室を告げる。
「私もね、ユウさん。あなたが来てから大変なことばかりでしたけど、この学園が良い方向に変わったと思っている。だから、最後まで楽しんでほしいのは本当なんですよ。」
「…正直、ここでの学園生活で苦労したことばかりでしたよ。まったく、困ったちゃんばかりで本当に大変でした。…私も、悔いなく過ごしたいと思います。失礼します。」
パタン、と重い扉が閉まる。
そのまま目的の部屋を目指して、暗い廊下を歩く。やはりその部屋の明かりはついていた。
ノックをする。返事がある。部屋に入り、扉を閉めたことを確認する。
「クルーウェル先生、お話があります。」
「来ると思っていた。座れ。」
「はい。」
皮張りの椅子に腰かける。
「仔犬、茶を入れてやろう。」
「いえ、大丈夫です。」
「そうか?では本題を聞こう。」
「…はい。お願いしたいことがあります。」
私の身柄を初めて話した大人。そして守ってくれた大人。最後まで、この人に頼ることになる。
私の話を聞いていた先生は、どんどん眉間の皺を深くする。それでも何とか頼み込んで、二つの薬を手に入れた。
「ならばこれを。…本当にそれでいいのか、お前は。」
「はい。…最後まで、ご迷惑をおかけします。」
「…その薬もそうだが、魔法は万能ではない。それを努々忘れるなよ、仔犬。」
「はい。ありがとうございました。」
頭を下げ顔を上げると、何か言いたそうに複雑そうな先生の顔が見える。それに苦笑で返し、退室した。
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