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遅いな、長谷部はぽつりと呟いた。本丸には今、主である審神者がいない。彼女は何度目かになる現世への一時帰宅からまだ帰っていなかった。審神者が留守の間は出陣もなく、近侍は執務室で簡単な事務仕事を引き受ける。今回の近侍は長谷部だった。迎えに行きたくとも行けず、その上事務作業をする為に執務室から離れられないのは酷く苛立たしい。
審神者が留守にする度に彼は言い知れぬ不安を感じていた。今回などは特にそうだ。帰る予定であったのは二日前。少し遅れると連絡はあったものの此方からは審神者に連絡も出来ないのでただ待つしかない。既に夜も遅く、皆寝静まっているが彼は寝付けず、執務室で仕事を片付けていた。
どれ位時が過ぎただろうか。ぎしぎしと廊下を踏みしめる音で集中が途切れた。打刀より狭く、短刀よりは広い足音の間隔。脇差だろうか、いやでもこの時間にこちらに用はないはずだ、と考えていると。
「…長谷部?」
「あ、主…」
すっと障子が開き、待ち焦がれていた相手が姿を現した。そのまま彼女は長谷部に近寄り、隣に座る。ただいま、遅くなってごめんなさい、と笑う彼女に、おかえりなさい。お待ちしておりました主、と述べると彼女は照れくさそうに笑った。
「こんな遅くまで仕事してくれてたの?ごめんね、ありがとう」
「あ、いえ…少し、寝付けなかったもので…主が気にするような事ではありません」
長谷部がそう返すと審神者は微笑んだ。今までの不安と苛立ちがすう、と溶けていくようだ。胸の辺りが暖かくなり、笑みが零れる。その時、耳の上の辺りでちかりと光を反射するものがあった。以前にはなかったものだ。じっとそれを見つめていると、審神者は不思議そうに首を傾げてどうかしましたか?と尋ねた。
「っすみません、あの、その髪飾りは…」
ああ、これ?友達に貰ったの。かわいいでしょう、と彼女が髪飾りを触る。垂れ下がった部分が、光を反射し、しゃらりと鳴った。
「…御友人に。そうですか、よく、お似合いですよ」
微笑んで言葉を返すつもりが、少し顔が強張ってしまった。似合っているのは間違いない。華奢でシンプルながらも愛らしいそれはとても似合っていた。きっと友人は親しく、彼女の事をよく知っているのだろう。だからこそ、もやもやとした気持ちが膨れた。自分の知らない所に、彼女の事をよく知っている人間がいる。そんなことは勿論分かっているつもりだった。しかし彼女の髪を飾るそれが今日は忌々しく思えて仕方がなかった。
「長谷部?」
審神者が心配そうに長谷部の顔を覗き込んで尋ねる。自分をいたわるように見る目がとても純粋で。欲が出てくる。ひどく、壊してしまいたいと。
「…っ」
「あるじ、」
組み敷いた体に体重をかける。痛みと戸惑いで怯えた目が愛しいと思った。抑えつけながらも片手で審神者の髪を梳く。さらりとした感触がとても気持ちがいい。
「…ねえ主、お慕いしております」
主が少し驚いたように目を見開く。一人の女性として慕い始めてからずっと。言葉にはしないもののあからさまに好意は伝えてきた。彼女もそれを分かっていたが、言葉にはしなかった。人と神が愛し合って良いのかと、お互いに恐れがあった。
「…長谷部、」
「この瞳も、手も、足も、髪の先まで、全て。お慕いしております」
髪飾りを外してそこに口付けた。そのまま無理矢理に首筋に顔を埋めて舐め上げ、最後に吸い付いて痕をつける。鮮やかに染まるそれに、ぞわりと、心が震えた。顔を離し、審神者の顔を見ると、目元には涙が溜まっていた。再び髪に触れようと伸ばした手が、震える。今になって緊張してきたのか、馬鹿らしいと長谷部は自分を嘲った。ここまで来たのだ。もう、戻れない。
「え…」
髪に触れていた手を上から包み込まれる。叩かれるかもしれないとは思いながらも、優しく触れられるとは思いもせず、酷く動揺する。審神者は長谷部の頰に手を伸ばした。
「ねえ」
泣いて、るの?と、審神者は彼の頰を拭った。いつの間にか長谷部の頰には涙が伝っていた。それを認識した途端、じわりと更に涙が溢れてくる。ぽたぽたと雫が審神者の顔に垂れるのを慌てて拭おうとすると、やんわりと止められた。
「…私も、貴方の事が好きよ、長谷部。だから、泣かないで…私は今、ここにいる。どこにも、行かないから」
「っあ、るじ」
恐怖と、戸惑いと、安心と、喜びと。心の中がぐちゃぐちゃになって、涙が止まらない。ああ、そうか、俺は怖かったんだ。主が帰ってこないんじゃないかと、二度と、会えないんじゃないかと。
「お慕い、しております、主…誰よりも、何よりも、貴方が大切です」
涙を流しながら、無理矢理に笑顔を作る。審神者の腕が躊躇いがちに背中に回り、長谷部はびくりと震えた。そのまま彼女は背中をゆっくりと撫でる。まるで母が子を宥めるかのように。何度も、何度も。
「…好きよ、長谷部。貴方のことが、大好き」
彼女の声も、睫毛も微かに震えている。此方を落ち着かせるような言動とは裏腹なそれがひどく愛しくて。長谷部は泣きはらした瞳のまま、審神者の唇に柔らかく吸いついた。
審神者が留守にする度に彼は言い知れぬ不安を感じていた。今回などは特にそうだ。帰る予定であったのは二日前。少し遅れると連絡はあったものの此方からは審神者に連絡も出来ないのでただ待つしかない。既に夜も遅く、皆寝静まっているが彼は寝付けず、執務室で仕事を片付けていた。
どれ位時が過ぎただろうか。ぎしぎしと廊下を踏みしめる音で集中が途切れた。打刀より狭く、短刀よりは広い足音の間隔。脇差だろうか、いやでもこの時間にこちらに用はないはずだ、と考えていると。
「…長谷部?」
「あ、主…」
すっと障子が開き、待ち焦がれていた相手が姿を現した。そのまま彼女は長谷部に近寄り、隣に座る。ただいま、遅くなってごめんなさい、と笑う彼女に、おかえりなさい。お待ちしておりました主、と述べると彼女は照れくさそうに笑った。
「こんな遅くまで仕事してくれてたの?ごめんね、ありがとう」
「あ、いえ…少し、寝付けなかったもので…主が気にするような事ではありません」
長谷部がそう返すと審神者は微笑んだ。今までの不安と苛立ちがすう、と溶けていくようだ。胸の辺りが暖かくなり、笑みが零れる。その時、耳の上の辺りでちかりと光を反射するものがあった。以前にはなかったものだ。じっとそれを見つめていると、審神者は不思議そうに首を傾げてどうかしましたか?と尋ねた。
「っすみません、あの、その髪飾りは…」
ああ、これ?友達に貰ったの。かわいいでしょう、と彼女が髪飾りを触る。垂れ下がった部分が、光を反射し、しゃらりと鳴った。
「…御友人に。そうですか、よく、お似合いですよ」
微笑んで言葉を返すつもりが、少し顔が強張ってしまった。似合っているのは間違いない。華奢でシンプルながらも愛らしいそれはとても似合っていた。きっと友人は親しく、彼女の事をよく知っているのだろう。だからこそ、もやもやとした気持ちが膨れた。自分の知らない所に、彼女の事をよく知っている人間がいる。そんなことは勿論分かっているつもりだった。しかし彼女の髪を飾るそれが今日は忌々しく思えて仕方がなかった。
「長谷部?」
審神者が心配そうに長谷部の顔を覗き込んで尋ねる。自分をいたわるように見る目がとても純粋で。欲が出てくる。ひどく、壊してしまいたいと。
「…っ」
「あるじ、」
組み敷いた体に体重をかける。痛みと戸惑いで怯えた目が愛しいと思った。抑えつけながらも片手で審神者の髪を梳く。さらりとした感触がとても気持ちがいい。
「…ねえ主、お慕いしております」
主が少し驚いたように目を見開く。一人の女性として慕い始めてからずっと。言葉にはしないもののあからさまに好意は伝えてきた。彼女もそれを分かっていたが、言葉にはしなかった。人と神が愛し合って良いのかと、お互いに恐れがあった。
「…長谷部、」
「この瞳も、手も、足も、髪の先まで、全て。お慕いしております」
髪飾りを外してそこに口付けた。そのまま無理矢理に首筋に顔を埋めて舐め上げ、最後に吸い付いて痕をつける。鮮やかに染まるそれに、ぞわりと、心が震えた。顔を離し、審神者の顔を見ると、目元には涙が溜まっていた。再び髪に触れようと伸ばした手が、震える。今になって緊張してきたのか、馬鹿らしいと長谷部は自分を嘲った。ここまで来たのだ。もう、戻れない。
「え…」
髪に触れていた手を上から包み込まれる。叩かれるかもしれないとは思いながらも、優しく触れられるとは思いもせず、酷く動揺する。審神者は長谷部の頰に手を伸ばした。
「ねえ」
泣いて、るの?と、審神者は彼の頰を拭った。いつの間にか長谷部の頰には涙が伝っていた。それを認識した途端、じわりと更に涙が溢れてくる。ぽたぽたと雫が審神者の顔に垂れるのを慌てて拭おうとすると、やんわりと止められた。
「…私も、貴方の事が好きよ、長谷部。だから、泣かないで…私は今、ここにいる。どこにも、行かないから」
「っあ、るじ」
恐怖と、戸惑いと、安心と、喜びと。心の中がぐちゃぐちゃになって、涙が止まらない。ああ、そうか、俺は怖かったんだ。主が帰ってこないんじゃないかと、二度と、会えないんじゃないかと。
「お慕い、しております、主…誰よりも、何よりも、貴方が大切です」
涙を流しながら、無理矢理に笑顔を作る。審神者の腕が躊躇いがちに背中に回り、長谷部はびくりと震えた。そのまま彼女は背中をゆっくりと撫でる。まるで母が子を宥めるかのように。何度も、何度も。
「…好きよ、長谷部。貴方のことが、大好き」
彼女の声も、睫毛も微かに震えている。此方を落ち着かせるような言動とは裏腹なそれがひどく愛しくて。長谷部は泣きはらした瞳のまま、審神者の唇に柔らかく吸いついた。