Naughty! short
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俺は走っていた。緊急事態以外で、船内を走るなんてことは滅多にない。そんな俺を見て、事情を知らない奴は驚き飛び退いた。何事だ!? なんて騒いでる奴らの横を抜けて、俺は目的地へと一秒でも早く到達することに尽力する。
この扉を抜けて、何歩進んだらこの角を曲がって。慣れ親しんだ床の感触と通路の幅なんかは頭に入ってもう長い。俺はもう、ここには目を瞑っていてもたどり着けるだろう。いつもの扉の前に着くと、俺は一度深く息をついた。少し冷静さを取り戻す為だ。
気持ちばかりノックして、返答を待たずにドアを開けた。彼女の後ろ姿が見える。いつもの机のいつもの椅子に腰掛けているが、すぐに振り返ることはしなかった。
「……もう、今度は誰?」
ため息混じりに出された問いかけに、「おれだ」と答える。彼女は驚いたように振り返った。
「シャンクス! え、もう起きたの!?」
「さっきな……」
「……どうしたの? てっきりお昼まで甲板で寝てるのかと思ったのに」
昨夜、俺はいつもの通り仲間と甲板で飲んでいた。といっても、これは三日の間続いている。たまたまさきの島で手に入れた酒が非常に口に合って、飲み過ぎてしまっては、もう飲まねェなんていいつつ手を伸ばし、気付けば連日酒盛りになっている次第だった。
ラズも最初のうちは顔を出していたが、二日目の途中くらいから付き合いきれないとばかりに部屋に引っ込んでしまい、今に至る。
この三日の間、生活が逆転してしまっている俺達の食事や洗濯などを世話してくれてたのは知ってた。丸一日会っていないだけで、随分と久しい感じがするのは俺だけだろうか。
「もしかして、どこか具合が悪いの?」
途端に心配したような顔になる彼女に軽く手を振りながら、傍に近付いた。肩に引っ掛けてるだけの白衣が眩しくて、二日酔いの目に痛い。ここは元々ラズの部屋で、出入りできるのは俺だけだったが、今は違う。
ぬいぐるみやアクセサリーが置かれていた机には今は医療に関するものが所狭しと並べられていて、女の子らしい柄だったベッドのシーツも無地のリネンに変えられた。
指の先を切ったり、打撲程度の軽い傷を診てくれと訪れるやつらが連日後を絶たないここは、今は完全に医務室と化している。
俺はここに他のやつらが出入りするのは気に入らなかったが、ラズが毎日俺の部屋で眠るようになったので、これはこれでいいかと最近思いなおしたところだった。
だが、ドアを開けた瞬間に「今度は誰?」なんて言葉が出るほど色んなやつらが出入りしてるのかと思えば、気分は良くない。俺が何も知らずに飲んでいる間、どれだけの男がこの部屋に入ったのだろうか。
「どうしたの?」
しばらく表情が硬いままの俺に彼女が首を傾げる。俺は小さく息を落とした。
「どうしたのじゃないだろ……。ルウに聞いたぞ! お前……『痛いの痛いの飛んでけー』してやったそうじゃねェか!」
「……は?」
「お前、それは医療に入んのか!? ただ甘やかしてるだけじゃねェか! おれだってしてもらったことないのに……!」
「いや、だから……、は?」
「なんならおれもしてもらいたい……! してもらったらこの二日酔いがすぐ治る気がする……いいや! 絶対治る自信がある!!」
力説する俺とぽかんとした彼女の間に、とてつもない温度差が生じているのはわかっていた。
「なにそれ……まさか、そんなことで機嫌が悪かったの?」
「そんなこととはなんだ!? お前、ここに来る奴らにいつもそんなに優しくしてやってんのかよ!? ただでさえ、大した用もないのに来る奴らだぞ!?」
捲くし続ける俺に、ラズは至って冷静な顔のまま、何か考えるような素振りをした。
「うーん……ルウが来たのは覚えてるけど、そんなことしたっけ?」
「してるよ! しただろ!? あいつ朝から俺にめちゃくちゃ嬉しそうに自慢してきて、それで飛び起きたんだからな!」
「そっか……。眠たかったらあんまり覚えてないや」
そう言ったラズは、いかにも眠たそうに欠伸をした。よく見ると、少し顔色が良くない気がする。そんな彼女に気付いて、自分の上がっていた体温がすうっと下がる気がした。
机の上に広げられている本を見て、俺はさらにハッとする。こいつは俺達の世話をしながら、医学についての勉強も怠らない。
ひた向きで真っ直ぐな彼女はいつだって自分を顧みることはしないのだから。
「ラズ……お前寝てないのか?」
「大丈夫。少しは眠れてるから。でも……ダメね。本当はきちんと診てあげなきゃって思うんだけど、そんなので誤魔化すなんて医者失格だわ……」
椅子に腰かけたままの彼女の頭がぶらりと揺れたので、俺は慌てて傍に寄った。しかし、そのまま倒れるかと思われたラズは、意外なほどすんなりと元の態勢に戻っている。
俺達との生活が長いせいか、変なところで踏ん張りが利くようになっているのかもしれない。
「そんなことより……さっきスネイクが来てさ、もうすぐ……」
「なに……? あいつもここに来たってのか!? そういや、おれと飲んでたはずなのに途中で消えやがったな……。ったく! あいつらはホントにおれの目を盗んではコソコソここに来やがって!」
「いや、ちょっと聞いてってば……、」
怒りが再燃しかけた俺を宥めようと、ラズが立ち上がろうとした時だ。急に、がくん、と足元が揺れた。
「きゃ……っ」
俺はとっさにラズを抱き締めた。衝撃を引きずるような小さな揺れは続いたが、大きな揺れはその一回きりだったようだ。
「なんだったんだ……?」
「だから、もうすぐ岩礁が多いところに出るから、揺れに気を付けろって、スネイクが……」
その時、船内に機械を通したような声が響いた。
「悪ィ! 岩礁にちょっと掠っちまった! が、船に故障はねェから安心してくれ!」
「……なんだ、岩礁か」
「もう……。だから、人の話は最後まで聞いてって……、」
そう言いながら、俺を見上げたラズは途端に驚いたような顔をした。
「シャンクス……血が、」
「あァ……お前案外石頭な?」
ラズを抱き締めた際、揺れの衝撃でぶつかった彼女の頭で唇を切ったようだ。はっきり言って大した傷じゃない。なのに、ラズは目を大きく開かせたまま、狼狽えたように左右に揺らしている。
「いや、大丈……、」
心配を極めたような、とても不安そうな彼女の顔が近付いたと思った瞬間、俺の唇は柔らかいもので覆われた。優しく加減されたラズの舌が、自分の唇を労わるように動く。切れたところを舐められる僅かな痛みよりも、ぞくりとした感覚の方が上回った。
「……あ、ごめん! つい……、」
唇を離してすぐ申し訳なさそうに俯く彼女を、俺は呆然としたまま見ていた。軽く抱き締めていた手に力が入る。気付けば、俺はラズを性急に引き寄せると、唇を押し付けていた。
「ン……っ、」
ラズは少し抵抗するような仕草を見せていたが、逃げられないと知ってか、俺をすぐに受け入れた。リップ音の合間に漏れ聞こえる彼女の吐息が、俺をこの行為に没頭させている。舌を絡めると、途端に吐息の温度が上がった気がして、すぐにやめられなくなった。
もうすでに数えることも叶わないこの行為を、何度も何度も飽くこと無く続けられるのはなぜなんだろう。
この小さな頭を包んでいる手の感覚と、その時に触れるすべやかな髪の感触。仄かな甘い香りと、繊細な柔らかい唇。
ざっと挙げただけでもキリがないが、これらを一度満たされるほど堪能しても、少し時間を置けばまたすぐに欲しくなる。まったく、優しい麻薬みたいな女だ。
ラズの口腔を散々好き勝手に食い荒らした後、ふと離した。満足したんじゃない。どちらかというと、その先の行為に脳みそを持ってかれた。
激しいキスをすると、きまって彼女は何も言わず俺を見詰める。熱を帯びた潤んだ目で、もっと欲しがっていることを俺に訴えるかのように。
いつも冷静で感情の起伏が乏しい彼女が時折見せるこの顔。俺は、この顔が見たくてラズにキスをするのかもしれない。
「唇……痛くないの?」
そう言ったラズの唇は、俺の血でところどころ汚されている。俺はそこを親指でなぞりながら笑った。
「お前の身体も汚してェんだが?」
「いつまでも……血が止まらないわよ?」
「その時はお前がまた舐めてくれ……」
俺は「休診中」の札を扉の外に下げさせると、彼女をまっさらなリネンの上に押し倒した。俺に服を脱がされながら、傷を舐めるのは本当は雑菌が入るからダメだと、彼女は急に医者の口調になって言った。
雑菌が入ろうが、痛かろうが、そんなことはどうでもいい。あの時、ラズは「つい」と言った。医学の知識がある彼女が、俺の唇が切れているのを見て、「つい」してしまった行為。そこに価値がある。
誰にでも分け隔てない彼女が、俺にしかしない行為。それが俺の心を満たしているのに気付いているだろうか。
「痛いの痛いの飛んでけも……する?」
今から色気のある行為に及ぶというのに、そんなことを言ってくる彼女に笑いが零れる。なんだ、意外と気にしてたのか。俺は小さく首を横に振った。
「……お前が傷を舐めるのはおれだけな?」
そう念押しして、彼女にもう一度唇を寄せた。優しく出された舌が、俺の唇の傷をそっと撫ぜる。傷口に人の唾液がつくのはよくないと、俺も聞いたことはある。だけど、彼女が舐めると治ってくる気がするのだから不思議だ。
こうして肌をくっ付けとくだけでも、なんだか二日酔いの気怠さを忘れる。こいつはよく、自分で医者失格だと言うけれど、存在しているだけで俺の心身を回復させてくれているのには気付いてない。
だから、一日中何かをしていて睡眠時間を勝手に削るラズは、お返しに俺がたっぷりと可愛がって眠らせてやる。
そんなことを考えていると、急に唇に鋭い痛みが走った。
「イテ……ッ! お前噛むなよ!」
「……痛いの痛いの飛んでけー」
自分で噛んでおいて、そこをまた笑いながら舐めてくるラズは、確かに医者失格なのかもしれない。だけど、たとえこいつが失格だと言い張っても、俺が合格と思ってるんだから、それでいいんだ。
fin.
This short story was written in2024.
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