届くまで<飛鳥>
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「なまえってさ、飛鳥にだけ優しいよね」
メンバーから言われた何気ない一言で妙に意識してしまった。
『そう、かな、普通に他の子にも優しくない?』
「優しいけどさ〜飛鳥にはなーんか、ねえ…」
「なまえー」
「ほら、呼んでる」
『ぁ、えぇ?なーにー』
「喉乾いた」
『いや、知らねえよ!』
そう言いつつも彼女が飲みそうなブラックコーヒーと水を持って立ち上がる。
その様子をほらぁと言わんばかりにニヤついて見てくる。
『なんですか…』
「そういうとこじゃん?」
「はやくーー」
『うるさ!お前らどっちもうるさい!』
飛鳥の目の前に両方置けば黙って水を手に取る。
そしていちにんしょうに渡す。
『なに』
「あけて」
『… いちにんしょうのことなんだと思ってんだよ』
「うーーーーーん…いぬ…?」
『…おばか』
そう言いつつも開けてあげるから優しいと言われるのだろうか。
でも飛鳥に限った事では無い、他のメンバーにも、多分、同じことをする、と思う。
「はい、ありがとー」
『いちにんしょうってやさしい?』
「え、なに、恩売ってんの?はいはいやさしーやさしー」
『そういうことじゃなくて…』
「なまえはいつでも優しいよ、私にだけじゃなくて」
『そ、そうだよね!みんなに優しいよね!よかったー』
「……それが嫌なんだけど」
『え、なんて?』
「なんでもなーい、もうあっちいっていいよ」
『はいはい、生意気な子供ですこと』
「子供じゃないし」
頼みを聞いても最後には生意気だと感じる。
実際生意気だし仕方ない。
そのまま飛鳥は机に顔を伏せて不貞腐れていたけど気付けば寝息を立てていた。
生意気でもありがとうは言えるしあまり甘えるタイプではない飛鳥から甘えられるのは正直嬉しい。
だからこそ他の子より優しくしてるように見えるのかもしれない。
持ってきていた大きめのアウターを飛鳥にかける。
「ん、」と小さく動く飛鳥を見て不意に胸が高かった。
いや、これは風邪をひかれると困るからだ、もちろん、いちにんしょうだけじゃなく他の大人に迷惑がかかる。
他の子にでも同じことをする。
特別な感情があるわけではない。
そう自分に言い聞かせる。
──────
誰よりも甘えている自信がある。
それでも他の人と変わらぬ優しさを彼女はくれる。
私からの好意に簡単に気付いてはくれない。
そこ含め好きになってしまったあたり、恋は辛い。
「なまえー」
『っ、ちょ、重い…なに…』
「女の子に重いって言うな」
レッスンの休憩中背中を向けてる彼女の上に覆い被さればアイドルに向ける言葉じゃないものが返ってくる。
「喉乾いた」
『ドア出て右の突き当たりに自販機あったよ』
「買ってきて」
『やだよ』
「けち」
『はぁ〜?やんのかこらぁ〜』
私の最大限のわがままに呆れたように体を起こして私を引き剥がす。
「うわ、ちょっと」
『背中あっついんだよ、くっつくならこっちにして』
向き直って胡座をポンポンされる。
ねえ、そんなこと誰にでもするの?
「…喉乾いたんだけど」
『まだ言うか、はい、とりあえず座りなさいよ』
「自販機、一緒に…」
『?』
早くと私の手を掴みそのまま座らされると目の前に水が出てくる。
「え、な?え?」
『あなたね、いつもレッスンの時喉乾いた〜って言って水買いに行かせるから買ってきちゃったよ、これでいい?』
「ぁ、いい、ありがとう…」
『はぁい』
キャップまであけて、調教されてるなと思いつつ、こんなの誰にでもやってるんだと思うと胸が苦しくなる。
「今日この後暇?」
『んー、そうね何もない、飯までたかるつもり〜?』
「そうじゃないっ、うち、くる……?」
『なんかドッキリ?』
「はぁ?うざ、もういい!」
勇気を振り絞ってもコレだ。
本当にムカつく、立ち上がろうとした時腰に手を回されて固定される。
『家行っていいの?』
「っ、耳元で喋んな…!」
『あ、ごめん、家行っていいんだよね?』
「〜…!来ていいから離して!」
『そんな照れるなよ〜』
「ばか!」
多分今顔真っ赤だ。
自分でも分かるほど熱い。
急いで立ち上がり、トイレにはしる。
出る時に振り返ればもう後輩とじゃれている。
ねぇ、どうしたらソレ私だけに向けてくれるの。
レッスンが終わってメンバーが次々と帰っていく中、なまえは広々としたスタジオで大の字に寝転がっている。
「ねえ、準備しないの」
『んーー、もうちょい、疲れた』
「はやく、みんな帰っちゃうよ」
『飛鳥はいるじゃん』
「そりゃ、いるよ」
これは、時間かかるなと察して隣に同じポーズになる。
手が触れそうな触れなさそうな距離。
私がもっと素直なら手を重ねることも容易かったと思う。
『よし!いくか!』とガバッと起き上がりいそいそと荷物をまとめて立ち上がる。
いきなりの事にびっくりして大の字のままなまえの顔を見ていると少しムッとした顔をして言う。
『なにしてんのー、はやく!』
「なまえが遅いからじゃん!ん!!!」
『自分で起きろよ〜』
そう言いながら手を差し伸べてくれる、そんな彼女が私は好きなんだ。
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