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【あの日の苦い味】《バルト&エド@Xenogearsパラレル》
2026/02/09 20:36【お題】他
*【archive】Xenogears Game Storyのその手で触れてごらんをご一読いただけますと幸いです。
「ウィップホルダー?」
「うん。俺専用のやつが欲しいんだ」
突然のおねだりに、たまの休日を怠惰に過ごしていたアヴェ国大統領は、息子の顔を見下ろしながらふーむと唸った。
「ホルダーなあ……。でもお前、鞭引っさげて行くところなんかあるのか?」
「え」
ぎくり、と音が聞こえてきそうなほどわかりやすく言葉に詰まったエドに、バルトはしゃーねーな、と内心笑う。
先月12歳の誕生日を迎えた、自分の分身とさえ言われている気性の似た息子が、保護者の目を盗んで街に出ていることは、実は知っていた。そのために、一応SPのようなことを部下に任せてもいる。
大統領直轄地のブレイダブリク繁華街は、他国や他地区に比べて段違いの治安がもたらされているとはいえ、一応国家代表の息子だ。用心に越したことはないが、だからといって少年の自由を殊更拘束しようとも思わない。
バルト自身、なんだかんだいってかなり派手に好き勝手やってきた少年期を自覚している。その自分によく似た息子が、官邸内でじっとしていられるわけがないのだ。
「えーと、いや、鞭の修練とかしてる時に、ホルダーがあると身が引き締まるっていうか……」
ややしどろもどろに弁解するエドを数秒無言で見やり、幼い表情が強張っていくのを内心愉快に感じながら、バルトはようやく億劫そうに腰を上げた。
「しょうがねえな。俺の昔使っていたヤツで、身頃に合いそうなもんをやるよ」
その言葉に、エドはほっとしたように笑った。そのままふたりは、普段使わない様々なものが収納されている小部屋へと向かう。
ウォークインクローゼット風のそこは、なにがどこに収められているのかマルーの筆跡で丁寧に整理されていた。いつの間にこんな細かい仕事をしたんだ、と、バルトは感心する。
大教母業で忙しいと思いきや、彼女は家庭の雑事もそつなくこなしている。ことに、バルトや子供たちに関することは、手を抜かずにきちんと把握しているようだった。
「お、これだな」
部屋の奥の方にあるブースに、懐かしいものが片付けられていた。ユグドラシル乗艦時代に使用していた様々なものを目にし、思わずノスタルジーに浸る。
「父さん。早く見せてよ」
痺れを切らしたように、エドがバルトの袖を引いた。
「おっと。悪い悪い。えーと、鞭関係は確かこの辺……」
そう言って、バルトがすらりと引き出しを開けると、そこにはまるで専門店のディスプレイのように、整然と、そして美しく鞭が並んでいた。
「すっげー!」
その量に、エドが目を丸くする。鞭は、様々な色や形状のものが、ざっと見ても三十本以上はあった。
「ガキの頃から使っていたものは、一本残らず取ってあるんだ。まあ、中にはぼろぼろで使いもんにならねェやつもあるけどな……」
それでも、捨てられなかった。そのひとつひとつに、バルトにしかわからないかけがえのない思い出がある。それらを握るたび、その当時の思い出がまざまざと蘇ってくるようだった。
「父さん、一本ちょうだい!」
「あー。そうだな、今のお前なら、この辺か……」
最近すくすくと背が伸び始めてきた息子の体格に照らし合わせて、バルトが鞭を見繕い始めた。
一口で鞭とはいえ、その長さや重さ、しなり具合など千差万別で、体型や筋力、握力に大きく左右される。本来ならば、専門の職人に作ってもらうのが一番だが、自分の時代とは違い、いまのブレイダブリクで、12歳の少年が愛用の鞭を作る必要があるとは思えなかった。
もう少し大きくなったら、専用のものを作ってやるのもいい。いまはまだ、自分の使い古しで十分だろう。
「うわー! これすげー!」
その時、鞭を収めていた引き出しのすぐ脇にある棚を開けていたエドが、感嘆の声を上げた。バルトがそちらを見やると、そこにはずらりとウイップホルダーが並んでいる。
その中でも一際目立つ、漆黒の革に凝った意匠の紅い石が埋め込まれたホルダーを手に、エドが興奮してきらきらした瞳を向けてきた。
「父さんっ! これ、俺これ欲しい!」
「それ……」
思わず呆然と呟く。そのホルダーには、苦い思い出があった。
エドの手からホルダーを受け取ると、その手触りや質感からまざまざと昔が思い出される。あの時感じた若く苦い葛藤まで蘇り、バルトは思わず苦虫を噛み潰したような顔で唸った。
「父さん?」
きょとんとして父を見上げるエドに、バルトは僅かに取り繕うように笑う。
「エド。これはお前にゃまだ早い。体格がぜんぜんあわねぇよ」
「えーっ、でも、それすっげーかっこいいのに! なあ父さん、それどこで買ったの? いまもまだ店があるなら、俺、同じの欲しい!」
その言葉に、バルトはふと、そういえばあの店はどこにあっただろう、と思う。
まだ戦いの日々の中、たまたま訪れた補給地のバザーの一角に、ひっそりと店を構えていた。あれから何年たっただろう。
同じ街で営業しているとは思えない。それよりも、あの大戦を経て、生き残っているかどうかも怪しい。そう考えると、作り手そのものは相変わらずいけ好かないが、これほどのものを作る職人を探したいという気持ちが沸き起こった。
「探してみる、か」
「え?」
バルトのちいさな呟きに、エドがきょとんとする。そんな息子の金の髪をぐしゃぐしゃと撫でながら、バルトはにやりと唇を曲げた。
「万が一見つかったら、お前用にホルダーを誂えさせるのも一興だな」
その時は、エヴァンゼリンも連れて行こう。密かに決意する。
母親によく似た少女と、自分の分身とを連れて行けば、あのいけ好かない男に、如実に現状を突きつけられる。
――でも、マルーは絶対ェ連れてかねーぞ。
そんなことを硬くこころに誓いながら、バルトは手にした黒革のホルダーを再び棚へと仕舞い込んだ。
《お題18 『自慢のコレクション』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借
