challenge
【優しい奇跡】《アレクシス×リオン@Xenogearsパラレル》
2026/02/05 16:25【お題】他
気がついたら、目が覚めていた。
ぼんやりと開いた視界一杯に、見覚えのある天井。
夢と現の区別がつかず、しばらくその天井を眺め続けた。
「――気がついた?」
ふと、枕辺で声がする。
その音程に、無意識に彼女を思い出した。
そして失望する。
「……シャンティ」
内心の感情などおくびにも出さず、彼は静かに妹の名を呼んだ。
「どうしてここに?」
「……兄様、倒れたのよ。思い出せる?」
「倒れた?」
その不名誉な単語に、アレクシスは苦々しく眉を寄せた。
そういえば、今朝方まで懸案中の書類作りに没頭し、結局そのまま朝を迎えたまでは覚えている。仮眠をとるか、官邸に出勤するか考えようと、立ち上がったところでふつりと記憶が途絶えていた。
倒れたのが自室でよかった。これが職場だったらと思うと、思わず呻き声を上げそうになる。
「……単なる睡眠不足だ。倒れたというよりは、気を失うように眠っただけだろう」
「違うわ。もう少し発見が遅れていたら、大変なことになったかもしれないって……さっき、主治医のコンロイ先生が来て下さったのよ」
「医者を呼んだのか? 大げさなことを」
「だって」
シャンティが言い募ろうとした瞬間、彼女の影になった死角から、高い声が弾けた。
「天使さまがいったんだもの!」
「――姫?」
思いもよらない人物に、アレクシス・レブルックの鉄面皮が剥がれた。
シャンティの背からひょこりと顔を出したのは、アヴェ国大統領息女。アレクシスと目が合うと、幼いながらも必死の様子で枕辺に近寄った。
「天使さまが、お医しゃさまをよんでって! エヴァにおしえてくれたんだから!」
「姫? なにを言って……」
わけのわからない話に、アレクシスは混乱したように額を押さえた。昏倒から目覚めた直後のためか、よく切れる頭が回らない。
そんな兄の傍らで、シャンティが静かに補足した。
「……エヴァ姫が、今朝早くうちに駆けつけて、兄様が倒れていることを知らせてくれたの」
「――はあ?」
「その時は半信半疑だったけど、エヴァ姫の言う通り兄様の部屋に来たら、実際に倒れてて……ホントに、びっくりしたんだから」
「……どういう、ことだ?」
アレクシスはゆっくりと上半身を起き上がらせ、枕辺に張り付いていたエヴァンゼリンを見下ろした。エヴァンゼリンは、ちいさな手で握り拳を作り、真剣な顔で彼を見上げる。
「あのね、エヴァのおへやに天使さまがきたの。むかし見た、アレクのお友だちの天使さま。あかいいかみの、きれいな女のひと!」
「!」
その瞬間、アレクシスの表情が凍った。
傍らで、シャンティが静かに兄を見つめている。その視線を感じ、アレクシスは再び無表情の仮面をつけ、エヴァンゼリンに問いかけた。
「……その天使が、姫になにを言ったんだ?」
「アレクシスをたすけてって。いますぐアレクシスのお部屋にいって、お医しゃさまを呼んでって。天使さますごく悲しそうだった。ものすごくしんぱいしてたんだから」
「……」
少し怒ったように言うエヴァンゼリンに、アレクシスは沈黙した。それからわずかにくちびるを歪め、苦笑のようなものを浮かべる。
「……あいつはまた、姫のところに行ったのか。よほど相性がいいようだな」
「兄様! それ、本当なの? 本当に、リオンが……」
「さあな。それは姫にしかわからない。その赤い髪の天使とやらは、俺に姿を見せないからな」
一瞬でも、一目でも、この目に映すことができたのなら。
それは、失うことを知った誰もが願うたったひとつの――
「ここにいるのに!」
その時、エヴァンゼリンが高い声で叫んだ。
はっと、その場の空気が凍る。シャンティは強張った顔でちいさな姫を見つめ、アレクシスは静かな眼差しで、エヴァンゼリンの見据える方向に顔を向けた。
「……どこだ?」
思わず、アレクシスが呟く。
子供の戯言を。
他愛もない夢物語を。
それでも、真剣に求めた。
「そこよ! ほら……アレクの左がわ。いま、アレクのかたにさわってる」
「……」
言われても。
伝えられても。
なにも感じない。
わずかな気配すら、感じられない。
「アレク……天使さまが、いってるの」
エヴァンゼリンが、無垢な瞳を虚空に向けて言った。
「むちゃもほどほどに、って」
「……」
「年をかんがえなさいって」
「……」
「まだまだむかえにきてあげないからねって」
「……はっ」
思わず、アレクシスが噴出す。
そのままくつくつと肩を揺らし、きょとんとしているエヴァンゼリンの銀の髪を優しく撫でた。
「天使に聞いてくれないか……片翼のまま飛ぶのは辛くないか、と」
「っ……」
シャンティが、ちいさく息を呑む。問われたエヴァンゼリンは、少しだけ首を傾げるようにしてから、にっこりとアレクにほほ笑んだ。
「天使さま、笑ってる。笑って、くびをふってるから、だいじょうぶだよ、アレク……あっ」
そう言って、エヴァンゼリンが驚いたように声を上げた瞬間。
ふと。
左のほほが、あたたかく、感じられた。
――気がして。
「アレク! いま、天使さまがね、アレクのほっぺにね……」
その気配だけで、ずっと昔に失ったはずの感情が、揺れた気がした。
《お題16 『気配』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借
