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【防御不可能】《アレクシス×リオン@XAS》
2026/01/15 16:57【お題】他CP
「こんなことだろうと思ったわ」
突然声をかけられて、アレクシスはぎくりとした。
けれどそんなことはおくびにも出さず、わざと緩慢な仕草で顔を上げる。部屋の扉の前で、軽く腕を組んでこちらを見ているのは、彼のいわゆる『許婚』である。
「来ていたのか。ノックぐらいしたらどうだ」
「お言葉ですけれど、きちんと作法通り致しましたわ、レブルック・ジュニア」
つんと澄ました物言いで、リオンは不機嫌を隠しもせず部屋に入ってくる。それを、度の弱い眼鏡越しに見やりながら、アレクシスは再び視線を机上に向けた。
「ノックとは、室内の相手に了承を得るところまでが作法だと思ったがね、ミス・リオン」
「貴方の返事を待っていたら、部屋の前で日が暮れるわ。ううん、下手したら明日の朝まで動けないかも」
そう言って、リオンはアレクシスの執務机の正面までやってくると、軽く腰に手を当てて首を傾げる。
「忙しい?」
「どう見える?」
「忙しそうに見える」
「貴女は賢いな、ミス・リオン」
「貴方は薄情ね、レブルック・ジュニア」
「なに?」
もう一度紙面から婚約者へと視線を戻し、アレクシスは怪訝そうに眉を寄せた。それから、やけにめかしこんだふうの彼女を、上から下まで眺める。
リオンは、赤銅色の豊かな髪を複雑に編みこみ、白い滑らかな肌に薄化粧まで施していた。彼女の細い身体は、渋いエメラルドグリーンのドレスに包まれている。彼女の髪によく映える、それは密かにアレクシスが気に入っている服だった。
そこまで観察して、遅ればせながらアレクシスは僅かに眉を寄せた。
「……すまん」
珍しく、素直に謝った彼に、リオンは軽く肩を竦める。
「貴方の数少ない美徳ね。非が歴然としている場合の潔さは」
「忘れていた」
「そのようね」
呆れた風に言って、リオンはくるりと踵を返そうとする。その背中に、アレクシスが早口に言った。
「10分待ってろ」
「10分?」
「ああ。そうしたら出かけられる」
「ふうん。本当かしら?」
「いいから待ってろ」
「なんで命令口調なのよ」
ぶつぶつと言いながらも、リオンは向きを変え、執務机の傍にあるちいさな椅子に腰を下ろした。それにひとまず安堵し、アレクシスは再び机上の紙に視線を落とす。
約束の時間に間に合わせるよう、いままで以上の集中力で、細かな文字を追った。
やがて数分の後、アレクシスは然るべき手順を踏まえて書類にサインした。積み上げた資料の上にそれを置き、ふう、と溜息をつく。酷使した眼窩の痛みに目を瞑り、眼鏡を外そうと手を上げた時、傍らの視線にようやく気付いた。
「リオン?」
思わず名を呼ぶと、執務机の傍らに肘を預け、存外至近距離からこちらを見つめていた婚約者が、満足そうに微笑む。
「終わった?」
「ああ……悪かったな、待たせて」
ずっと見られていたのか、と、ばつが悪くなったアレクシスが、ぶっきらぼうに言うと、リオンは真っ直ぐ彼を見つめて、微かに目を細めた。
「ねえ……知ってる?」
「ん?」
「貴方って、眼鏡のレンズ越しに見ると、すごく冷たい目をしているの」
「……」
突然の言葉に、アレクシスは返す言葉を失った。そんな彼に、リオンは寂しそうにほほ笑む。
「貴方が眼鏡をかける時は、決まって難しいお仕事をしている時。職務の厭な面や、政治の汚い面、人間の醜い面を見る時ばかり、貴方、眼鏡をかけるの」
「……」
「まるで、そうすることで、自分を守っているみたい」
「……馬鹿馬鹿しい」
軽く舌を打って、アレクシスはぞんざいに眼鏡を外し、机上に置いた。
「俺が眼鏡をかけるのは、視力が低下したからだ。そんなセンチメンタルなことを考えるのはお前くらいだな」
からかうように言ったアレクシスの言葉に、けれどリオンは軽口を返さず、寂しそうな表情で静かに言った。
「眼鏡をかけて、精一杯防御しても、見たくないものばかり見せられるから、貴方の瞳はどんどん冷たくなる。そしてそのうち、冷たい自分が当たり前みたいに感じていくの」
「リオン」
「どんどん、貴方は本当の貴方を忘れていく。冷たいレンズ越しに見えるものにばかり気をとられて、本当は誰よりも優しいくせに、そんな自分を忘れていく」
「……リオン」
アレクシスは溜息をつきながら、静かに立ち上がった。執務机を挟んでいた彼女へと、ゆっくり回り込む。
「お前は、俺がレンズ越しになにを見て、なにを考えていると思うんだ?」
「……わからないわ。でも、」
「わからないくせに、わかったようなことを言うんだな」
「……」
俯いたりオンの目の前に、すっとなにかが差し出された。
リオンが驚いたように眼差しを上げると、アレクシスは眼鏡を差し出したまま、静かに促す。
「かけてみろ」
「え?」
「これをかければ、レンズ越しに俺がなにを見、なにを考えているのかわかるだろう」
「……」
そう言われて、リオンは僅かにためらった後、恐る恐るその眼鏡を手にし、ゆっくりと耳にかけた。
健常な視力のリオンには、軽いとはいえ度入りのレンズは刺激が強く、酔ったような視界に思わず目を瞑る。
と。
「っ!」
そのタイミングを見計らったように、リオンのくちびるはアレクシスのそれによって強引に塞がれた。
驚いて目を見開いたリオンの、レンズ越しに歪んで見える視界いっぱい、アレクシスの長い睫毛が広がる。
僅かに荒いキスの後、アレクシスは眼鏡をずり落としたまま目を丸くしているリオンに、にやりと笑ってみせた。
「わかっただろう?」
「……」
したり顔の婚約者に、リオンは怒っていいのか笑っていいのかわからず、結局拗ねたようにくちびるを尖らせ、しぶしぶながら頷いた。
《お題13 『レンズ』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借
