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【逆転の発想】《アレク×ブリギッド@FEユグドラ学園》

2026/01/14 16:43
【お題】他CP


「……はァ?」
 その言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜けた。思わず、矢を番える手が外れそうになる。
 そもそも、神聖なる弓道場で、いましも弓を引こうとしている射手に対し、べらべらと遠慮なく語りかけること自体言語道断なのだ。そんな些末なことではブリギッドの的中率になんの影響も与えないと知っているから、いつの間にかそれが当たり前みたいに振舞っているけど、それでも。
 思わず間の抜けた声を上げて、ブリギッドは振り返った。
「アレ? 珍しーじゃん、射場に立ってるのに、俺の言ったこと聞き返すなんて」
 弓道場の隅の板敷きに、だらしなく胡坐をかいて、背後に両手をつく恰好でそっくり返っていたアレクが、のほほんと笑う。
 そのあまりの緊張感のなさに、再び弓を構えて、的ではなくこいつの眉間に命中させたろーか、と、真剣に思う。
 その殺気に気付いたのか、アレクは先ほどよりは幾分真剣みの増した表情で、それでもどこか呑気に復唱した。
「だから、それ的中させたら、休憩にしようぜって言ったの」
「そのあと、なんだか意味不明な台詞が続いただろ」
「『あったかい紅茶もいれたから』?」
「その前」
「『俺の手作りのチョコも持ってきたし』?」
 それだ。
 もはや弓引く気力もなく、ブリギッドは凛々しい袴姿のまま真っ直ぐ彼に向き直った。
 季節は二月。温暖な気候の街は、雪の気配こそないが、射場に吹き込む風は身を切るような寒さである。
 十数メートル離れた的は当然屋外で、板敷きの射場はなんの遮蔽物もなくそこへと繋がっているため、屋根はあるが既に外気温と同じだ。
 大型のヒーターの傍に陣取っているアレクはそうでもないだろうが、集中力をなくしたブリギッドには、その寒さはことさら堪える。
 まして、この時期、この男から、こんな台詞を聞かされると、体感温度よりも冷え冷えとしたものがこころに積もった。
 けれど、彼女の沈黙を肯定と取ったのか、アレクはいそいそと手荷物を引き寄せ、その中からピクニックとも思える用意のよさで、保温ポットや紙コップなどを取り出し始める。
 そして最後に手にした包みの中には、もはや素人芸とは思えない様々なトッピングの施されたチョコレートが、美味そうに顔を覗かせていた。
「ほら」
 どこか誇らしげに笑いながら、アレクがブリギッドを手招く。
 ブリギッドは弓を手にしたまま、しばし恨みがましそうに彼を睨んだ。
「どした?」
 一向に傍に来ようとしない彼女に、アレクはきょとんとして首を傾げる。その、まったく他意のない仕草にますます苛立ちを募らせて、ブリギッドは無言で的へと踵を返した。
 すう、と深く呼吸を整え、雑念を振り払おうとする。 
 のだが。
「おーい。ブリギッドぉ。どうしたんだよ」
 のほほんと声をかける男。その声にいきり立つように、矢を番えて的に放った。
「――あ」
 ざく、と軽い音を立てて、矢は大きく的を外れて側面に突き刺さる。ここしばらく経験したこともないような大失態に、ブリギッドはかあっと頬を染めた。
「なんだよー。俺のチョコ食いたくないわけ?」
 拗ねるように言うアレクに、とうとう我慢できずに叫んだ。
「――なんでっ!! なんであんたがチョコ作ってくんのよ、よりによって今日という日に!」
「へ?」
「なにが悲しくて、バレンタインデーに男から手作りチョコ貰わなくちゃいけないわけ?! しかも明らかに自分よりも上手な相手に!」
 そう、悔しいけれど菓子作りの腕はアレクの方が数段上だ。菓子作りにとどまらず、料理も掃除も洗濯も、およそ家庭的なあれこれの全てにおいて、ブリギッドは彼に適うものがない。
 普段はそんなこと、気にもかけなかった。適材適所の言葉の如く、得意な分野で得意な者が実力を発揮すればいい。
 でも、それでも。
 今日は、バレンタインデーなのだ。
 そりゃあ、自分は大して女らしくもないし、双子の妹に比べれば粗野でがさつに見えるだろう。バレンタインデーなんて、かしこまって意識するような柄には見えまい。
 でも、それでも。
 妹にも協力してもらい、何度も失敗し、諦めそうになりながらもようやく出来上がった不恰好なチョコレートが、射場の隅の鞄の中で泣き出しているような気がした。
 言いたいことを言ってしまえば、後に残るのは気まずい空気だけだった。彼女はむりやり矢を番え直し、乱れた感情のまま闇雲に射る。
 側面に矢が増えた。
「なー」
 もう一本。番える。
「あのさー」
 引き絞る。射る。外れる。
「俺がさー」
 最後の一本。
「お前にさー」
 番える。引く。
「好きだって告白すんのっておかしいか?」
 射る。

 的中。

「……」
 残心の姿勢のまま、ブリギッドは呆然と的を見据えた。
 そんな彼女に、アレクがのんびりと言う。
「当たったな。こっち来てチョコ食おうぜ、一緒に」
「……」
 ゆっくりと、ブリギッドが首を巡らせた。
 男は紅茶の入ったポットを片手に、紙コップにそれを注ぎながら笑っている。楽しそうなその表情に、ブリギッドが呟いた。
「……アレク」
「はいよ」
「アンタがアタシに告白するのは……おかしかないが」
「そーね」
「……バレンタインデーに手作りチョコで男が女に告白するのは、おかしくないか」
「そう? だって今日は、公然告白デーなんだろ?」
「……」
 緩くウェーブのかかった緑褐色の髪を耳にかけ、アレクは笑いながらブリギッドを見上げた。
「でも、俺の場合返事は3月14日じゃなくて、今日欲しいな」
「……」
「三倍返しじゃなくて、いいからさ」
 射場の隅の鞄の中で、不恰好なチョコレートが笑った気がした。



《お題12 『的中』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借



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