challenge

【アルコールの神様は気まぐれ】《デルムッド×レイリア@FE聖戦の系譜》

2026/01/13 19:31
【お題】デルムッド×レイリア



(どっ……どうしよう……っ)
 レイリアは焦っていた。最高潮に焦っていた。
 頭の中がぐるぐると回り、果たしてこれは酔いなのか、それとも自律神経の乱れなのか、難しいことはよくわからない。とにかく、あまりに緊張しすぎていて、自分がいまなにを話し、どんな顔をしているのかさえ認識できない有様だった。
「――遅いな……アレス」
 ふと会話が途切れた瞬間、傍らに座るデルムッドが怪訝そうに呟いたのに、思わずグラスを取り落としそうになる。飲み口の良いワインは、まるで水のように味がしない。
 けれども、彼女は内心の動揺も葛藤もおくびにも出さず、額に入れて飾りたいほど完璧な笑顔を浮かべてみせた。
「そうねえ……きっと、リーンの世話をしているんじゃないかしら。相当酔っていたみたいだし……」
 長い睫毛をパタパタと揺らし、得意の流し目でにっこり。大抵の男は、この表情だけで彼女の足元にひれ伏すのだが、デルムッドは至近距離にあるレイリアの美貌にもさして反応を返すことはなく、「そうかもね」などと吞気に頷いた。
 そのつれない雰囲気に、怖気づくレイリアではない。拗れに拗れさせた恋心は、ちょっとやそっとの塩対応ではもはや傷つきもしない。
 自慢にもならない敗戦記録を胸に、レイリアは勢いよくグラスを干した。
 普段、こんなに無茶な飲み方はしない。酒には強い方だけど、それだって限度がある。酔っぱらうということはすなわち、隙を見せる愚行だ。彼女のような美貌の踊り子が、隙を見せれば最後、どんな地獄が待っているか知れない。
 ――のだが。
 今日この時だけは、レイリアは進んでその『隙』を作り出そうと苦心していた。
 素面では絶対にできない、さすがの恋の踊り子だって、本当にこころから惚れ抜いた相手には、思い切ったことなどできないのだ。
 だからこそ、酒だ。
 酔いに任せて、醜態にならないギリギリのライン、精いっぱいの媚態と秋波。どんな手を使っても、今夜、デルムッドの恋人になってやる。
 そんな決意をして、妹分のリーンにも協力を乞い、呆れたようなアレスを丸め込んで、やっと掴んだふたりきりの席で。
 レイリアは、酔えずにいた。
(どうしよう……っなんで、いつもならこんなに飲めば、酔っぱらっちゃえるのに!)
 思考回路はクリアだし、羞恥心は居座り続ける。いつもよりは距離は近いが、デルムッドの良く鍛えられたしなやかな腕に、しなだれかかるはおろか、触れることさえままならない。
 こんな、体たらく。恋の踊り子が聞いて呆れる。
 土台、酒の勢いに頼ったのが悪いのだろうか。アルコールの神様に、不甲斐なしと呆れられた?
 そんなことを思いながら、レイリアは蕩けるような笑顔を浮かべて、デルムッドのグラスに酒を注ぎ続けた。
「レイリア、大丈夫?」
「えっ?」
 その時、気づかわしげなデルムッドの声がした。レイリアが思わずぎょっと目をまるくすると、わずかにほほを染めた彼が、心配そうな顔を向けている。
「さっきから、すごいペースだけど、大丈夫か?」
「あ、ええ、だいじょうぶ。わたし、こう見えてもお酒には強いのよ」
 今日だけで、いったいいくつの噓をデルムッドについたのだろう。
 好きなのに、こころの底から好きなのに、想えば想うほど不誠実になっていく。レイリアは、自分の浅ましさに嫌気がさしながら、それでも諦めきれずにグラスを傾けた。
「あ、デルムッド。今度はこっちのお酒、試してみない……?」
 ほんのりとほほを染めながらたおやかな手を伸ばし、彼のグラスを引き寄せようとした時だった。
 それを、熱い手のひらが掴んだ。
「え?」
 一瞬、なにが起きたのかわからなかったレイリアは、次の瞬間天地が逆さまになって、自分の上になにかおおきな……金色の……とても暖かな、重たいなにかがのしかかってきたことに、息を呑んだ。
 デルムッドだった。
「っっ……!!」
 声にならない。
 あまりの急展開に、身体もこころもついていかなかったレイリアは、ある意味狙った以上の状況に、けれど喜ぶどころかパニックに襲われた。
 えっえっえっ?? でる、でるむっど、えっ、あの、えっ??
 頭の中では、デルムッドの名前と感嘆符だけが延々弾けている。彼女のやわらかな肢体を押しつぶす身体はしかし、ゆっくりと顔を上げてランプの光を背負った。
 レイリアの芯を蕩かす、大好きな春空色の瞳。
 ふたつぶの宝石が、いまうっとりと、レイリアを見つめている。
「――レイリア」
「は、はい……」
「……寝よう」
 率直だ。
 ムードも情緒もあったもんじゃないその一言に、けれどレイリアはグズグズに蕩けた瞳を輝かせた。
 この時を待っていたの。
 はしたない女だと思わないでね。
 あなたが好き、ただそれだけよ……
「……嬉しい……」
 潤むようなくちびるが、そっと囁く。豊満な肢体は慕わしげにデルムッドに絡み、華奢な両腕がそっと彼の背中に這わせられ……
「うっ……」
 その瞬間、ズシリ、と身体中に圧がかかった。
 その圧迫感に、思わず色気皆無の呻き声が出る。レイリアは焦ったようにもがいたが、彼女の上の人物は一向に気にしない。
 するわけがない。
 爆睡中だ。
「……………」
 自分を押しつぶす硬い筋肉が、健やかな寝息とともに上下するのを感じて、レイリアは目を点にする。押しつぶされた豊かな胸は、デルムッドの胸筋を天国に導いているが、彼がそれを知覚しているとは思えない。
 レイリアは、死ぬほど求めていた体温に全身を満たされながら、けれど決して満たされないこころを抱えて涙を浮かべる。
「あ……あんまりよ、神さまぁ~~~……」
 絞り出すような悲しみの声は、それでも熟睡した愛しい男を気遣って、空気に溶けるほどちいさかった。


《お題11 『酔い』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借


コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可