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【お忍びデート】《フランシス×エルヴィラ@XENOGEARS》
2026/01/10 20:57【お題】他CP
「わあ……! すごいっ」
思わず、おおきな声が出た。
目の前を横切った道化師の群れが、様々な芸を披露しながら遠くになると同時に、はっと我に返る。
今更遅いことこの上ないが、反射的に口を手で塞いで恐る恐る振り返ると、予想に反してそこには皮肉な顔も呆れた顔もなく、同じようにきらきらした瞳で道化師を見送る彼がいた。
「すごいね。ちょうど、パレードの時間らしい」
「パレード?」
「一昨日から、中央公園で大道芸のフェスティバルをやっているんだ。知らなかった?」
「知らないわ。というより、どうして貴方の方が、わたしの国の行事に詳しいのかしら。いつもながら不思議だわ」
しみじみと言うと、穏やかな笑顔が返る。
「それは、勉強しているからさ。でないと、王宮で恥をかいてしまう」
「そうなの?」
「そうさ。例えば、アヴェの祭日の由来とか、法令の起源とか……案外、そういったものを外国人が知っていると、愉快に思うお偉方はたくさんいるんだよ」
「へえ……貴方って、実は勉強家なのね」
「どうもありがとう」
いつもなら、皮肉の応酬になってしまいそうな話題も、何故だか今日は軽やかにかわせる。
エルヴィラは、どこか夢見るような心地で、傍らのフランシスを見上げた。
「実はわたし、御付の者なしで街に降りるの初めてなの」
だから、こんなに気分が高揚しているのだ。わくわくして、嬉しくて、そしてどこかどきどきして……それは決して、隣にいるこの青年のせいなんかじゃない。
そう、自分自身に言い聞かせるように、エルヴィラは紅潮した頬で活気のある街並みを眺める。
「それに、こんなに賑やかなところも初めて。たくさんお店があって、目移りしちゃうわ」
「なにを買うかは決まっているの?」
フランシスは、楽しそうなエルヴィラを観察しながら、優しく問いかける。少し困ったように、エルヴィラが細い眉を寄せた。
「いいえ、まだ……でも、今年こそは、兄上をぎゃふんと言わせて差し上げたいわ」
「ええ? なんで、エドバルトの誕生日プレゼントで彼をぎゃふんと言わせたいわけ?」
「だって、毎年毎年、変わった趣向のものを差し上げているつもりなのに、一度も兄上の驚いた顔って見た事ないんだもの。去年なんか、びっくり箱まで用意したのに」
「ははっ」
思わずのように、フランシスが声を上げて笑った。身を折って笑う彼の顔が、ぐんと近づいてきたことに、エルヴィラの心臓がどきりと高鳴る。くつくつと震える大地の髪が、日の光を浴びて琥珀に輝いていた。
「じゃあ、今年は私も協力しよう。エドバルトの面食らった顔というのは、希少価値が高いだろうから」
「え、ええ。そのつもりで、貴方にエスコートをお願いしたのよ。貴方なら、きっと兄上の裏をかけると思って……悔しいけれど、わたしよりもずっと」
普段は意地を張って言えない言葉が、何故かその時するりと出てきた。
なんだか今日はおかしい。このひととふたりで話していて、いまだかつて喧嘩もせずに、こんなに愉快だったことがあったかしら?
それはきっと、アヴェという街の活気のせい。賑やかな人波の中で、ちいさなことでいがみ合うなんて、本当にばかばかしいもの。
そんなエルヴィラに、フランシスもいつもの皮肉でもなく、どこまでも甘く優しい眼差しでほほ笑んだ。
「君は知らないだろうけれど、この世で君ほどエドのことを知っている人間はいないんだよ、エル」
「え?」
「それは、エドも自覚していることさ。だから、君と私が組めば、もう怖いものなしだ。さあ、露店を端から冷やかして、エドの度肝を抜かすプレゼントを見つけよう」
そう言って、フランシスは軽くエルヴィラの肩に触れた。単なるエスコートの仕草だったのに、その瞬間、エルヴィラは触れられた部分から火がついたように感じて、思わず息を呑む。
それは初めてエルヴィラが自覚した、自分自身の変化だった。
《お題9 『はじめての日』》
◎365 Themes Ver.1~創造者への365題~様よりお題拝借
